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壱
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しおりを挟む今日の羽生さんは白中心のロリータだった。 頭は白いヘッドドレスから始まり、爪先は白いレースの靴下に終わった。 まあ似合ってますけど、個人的にはゴスロリの方が俺は好き。
開け放たれた書斎のドアをノックすると、机に座っていた羽生さんが振り返った。 「ほむ?」ショートケーキ食ってた。 ―――俺の分は?
「ごめん、コージローの分も食っちまった」
「……別にいいけど、俺フルーツ食えないし。
ところでお客さん」
「え、今? ケーキ食べるまで待てない?」
どんだけ食いたいんだよ。
「さて、森家といえば、安土――――」
「クリームついてますよ」
「おっと失礼」
颯斗さんに指摘され、羽生さんは鼻の頭についてたクリームを指で掬った。 飛び付いてきた月読にクリームを舐められるがままにしながら、横目で俺を睨んでくる。 クリームがついてるのには気付いていたが、面白いので放っておいたのだ。
一度咳払いを挟んで、羽生さんは言った。
「さて、森家といえば、安土桃山時代に織田信長の小姓をしていたという、森蘭丸の子孫ですよね?
この街の名家が一体何の御用で御座いますか」
「えへへ…………、大事なお願いですよ」
ならばもっと深刻そうな雰囲気出せよ。
にへら、と笑顔を浮かべながら、颯斗さんはちゃぶ台に両手を乗せた。
「それだけ知っているならば、飛鳥さんは森蘭丸が18歳で亡くなった事もご存知ですね」
「ご存知も何も、それは有名じゃないですか。
森家の当主に限り、代々短命だという話も知ってます」
「そう、そして現在の当主は僕です。 父は心臓発作で死にました。
僕も、小さい頃から体が弱いのですが、ここ数ヶ月はとくに酷くて。 病院に運び込まれる事が多くなりました」
確かに颯斗さんは、見るからに身体が弱そうだった。 色は白いし身体は細い。 よく見れば、目の下に薄い隈があるし唇の色も白っぽい。
「なるほど。 段々話が見えてきました」
「さすが、聡い方で助かります。 ――――当主が短命なのは呪いではないか、という話が、昔から伝えられているのです。
昔は現実味が無いので、信じてはいませんでしたがね……」
急須に手を伸ばし、用意していた湯飲みに緑茶を注ぐ俺に、颯斗さんは恥ずかしそうに笑った。 かっこわるいよね、という感じで。
「いや、全然信じちゃいますよ。 っていうか絶対呪いかなんかですよ」
今までの人生、どれだけ現実味の無い事が満載だったか教えてやりたいわ。
「本当ですか? 何だか嬉しいなあ」
俺から受け取ったお茶をすすり、颯斗さんは羽生さんに視線を移した。 …………――その目がやたら色めいているのが、なんとも許しがたいのだが。
「まあ、呪いかどうかは知らんが。 確かに代々当主が短命なのは気になる。
呪いなのか、誰かが裏で良からぬ事を働いているのか、調べてみたいね」
物憂げに肘をついて、ため息混じりにそう言うのだが、彼女の目はキラキラとしていた。 好奇心まんまんって感じ。
「お前さ、もっと素直に言ってみな?」
顔をしかめた俺に、羽生さんはニッコリとして見せた。
「超気になるよね! 呪いとかって依頼、私がこの稼業を始めてから一度も無かったからワクワクしちゃうっ!」
まあ幸せそう。 両手を握って顔の両脇に添えながら、踊るように上半身を揺らす彼女の肩を軽く小突いた。 不謹慎な。
「ワクワクしてもらえて良かったです」
颯斗さん、あんたいい人なのかアホなのか解らないわ。
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