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2章
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しおりを挟むハッとして目を開くいた私の視界に、見覚えのある我が家の天井が広がった。
散した新聞紙の上に、仰向けに倒れていた。慌てて己の腹に手を当て、傷がないか確認する。無傷だ。
いつの間にか全身が汗でぐっしょりと濡れ、少し肌寒さを感じた。早く着替えたほうがいい。しかし体が動かない。むしろ眠い。疲れた。
ゆっくりと呼吸を繰り返しながら、つい先程まで見ていたものを脳内で思い起こしてみる。
誰かわからない、顔の見えない男に、……おぞましいことをされていた。
「……うっ」
鮮明に蘇ってきた光景が、私を襲う。胃液が逆流したのだろうか、食道あたりが焼けるように熱くなった。
あれは、私が誰かの身体に入ったようだった。・・・・・・違う。「誰か」ではない。私のよく知っている人だ。さなえ先生だ。
足の力が抜けていく。立っていられずに、私は散乱した新聞紙の上に座り込んだ。
「さなえ先生……」
あの人はあんなに苦しんで死んだのか。死ぬまでも、あんなに苦しんでいたのか。今まで、何度繰り返していたのだろうか。きっと、あれ1度きりというわけでは無さそうだ。
私は学校で、さなえ先生とたくさん一緒に居て、たくさん話したのに、彼女がこんな目にあっていたなんて全然知るよしもなかった。
否、全く彼女は私に話さなかったし、私に助けを求めてもいなかったのだ。私には、彼女の綺麗なところしか見せていなかったのだ。
「……うぅっ」
悔しい。私はさなえ先生に助けられたことが多くあるのに、私は彼女を助けたことがない。無力だ。
「さなえ先生……会いたい」
切実に、私はそれを願っていた。彼女の存在は私をいい方向に変えてくれたし、彼女と話すのがとてもとても楽しかった。もう2度と会えないと思うと、不安で押しつぶされそうだ。
さなえ先生は時々、私の手を優しく握ってくれた。机に向かい合って座ってる時や、放課後屋上で話している時、そっと手を握って微笑むのだ。
少し薄い唇が弧を描き、大きな双眸がキラキラと輝くあの笑顔が、私は大好きだった。
思い出すだけで、彼女の柔らかくてひんやりとした手の感触が蘇った。座り込んだ膝の前に置いた両手を、あの感触が包み込む。優しく、ゆっくりと私の手を包み込み、少しずつ力を入れて握ってくる。
「…………え?」
おかしい。
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