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2章
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「君はもう僕のものだからね。あんな奴と結婚なんて許さない」
「……あなたに、そんなことを言う権利は」
「あっそ。じゃあ"あの事"を皆にばらしちゃおうか」
いやらしい笑みを浮かべている事が、声色からも感じ取れた。何も言い返せなくなる。こいつは私が最終的には逆らう事が出来ないと解っているのだ。私の大きな秘密。誰にも知られたくない秘密。こいつは執念深く調べ上げ、それを知りえたのだ。
「また逆らおうとしたねえ。お仕置きをしなくちゃ」
「………」
「服を脱いで」
そいつはポケットに手を突っ込み、一歩私に近寄った。私は一歩下がった。
右手を伸ばしてきた事に驚いて、思わず背を向けて一目散に逃げだそうとした。
「あ、ああ……」
一瞬の間、脳内が真っ白になった。
そしていつの間にやら、私は家のリビングの真ん中に仰向けに倒れていた。
何が起こったのかは解らないが、とにかく私は倒れていた。
遠くであいつの声がする。ぼんやりとしか聞こえないが、どこかに電話をしているようだ。
————逃げなきゃ。
そう思うのだが、なぜか、体が動かせない。いや、まったく動かせないというわけではない。目は動くし、指もそれなりに動かせる。しかし、上半身を動かそうとしても、なぜか力が入らない。まるで胸から下が無くなってしまったような。
脳の芯が焼き付いて麻痺していた。無性に迫り来る眠気に負けそうになりながらも、何とか右手を持ち上げた。鉛のように重い。
「…………あれ」
そして触れたのは己の腹の辺りだった。妙に湿っている――――それどころか、生暖かい。
「あ……」
真っ赤だ。
手が真っ赤だ。
なんだ、これ……。
電話を終えたらしい男が、横たわる私のそばに来て、ニコニコと屈託のない笑顔でこちらを見下ろしている。わずかに汗で光る首筋に、私の手と同じ赤い液体のようなものがついている。何かから飛び散ったものを浴びたような、そんな付き方に見える。
男の手に握られたものを見て、それが何なのか理解したとき、やっと状況を把握出来た。
私は殺されるんだ……。
。
「……あなたに、そんなことを言う権利は」
「あっそ。じゃあ"あの事"を皆にばらしちゃおうか」
いやらしい笑みを浮かべている事が、声色からも感じ取れた。何も言い返せなくなる。こいつは私が最終的には逆らう事が出来ないと解っているのだ。私の大きな秘密。誰にも知られたくない秘密。こいつは執念深く調べ上げ、それを知りえたのだ。
「また逆らおうとしたねえ。お仕置きをしなくちゃ」
「………」
「服を脱いで」
そいつはポケットに手を突っ込み、一歩私に近寄った。私は一歩下がった。
右手を伸ばしてきた事に驚いて、思わず背を向けて一目散に逃げだそうとした。
「あ、ああ……」
一瞬の間、脳内が真っ白になった。
そしていつの間にやら、私は家のリビングの真ん中に仰向けに倒れていた。
何が起こったのかは解らないが、とにかく私は倒れていた。
遠くであいつの声がする。ぼんやりとしか聞こえないが、どこかに電話をしているようだ。
————逃げなきゃ。
そう思うのだが、なぜか、体が動かせない。いや、まったく動かせないというわけではない。目は動くし、指もそれなりに動かせる。しかし、上半身を動かそうとしても、なぜか力が入らない。まるで胸から下が無くなってしまったような。
脳の芯が焼き付いて麻痺していた。無性に迫り来る眠気に負けそうになりながらも、何とか右手を持ち上げた。鉛のように重い。
「…………あれ」
そして触れたのは己の腹の辺りだった。妙に湿っている――――それどころか、生暖かい。
「あ……」
真っ赤だ。
手が真っ赤だ。
なんだ、これ……。
電話を終えたらしい男が、横たわる私のそばに来て、ニコニコと屈託のない笑顔でこちらを見下ろしている。わずかに汗で光る首筋に、私の手と同じ赤い液体のようなものがついている。何かから飛び散ったものを浴びたような、そんな付き方に見える。
男の手に握られたものを見て、それが何なのか理解したとき、やっと状況を把握出来た。
私は殺されるんだ……。
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