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1章
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彼女は私が一年の時の担任で、当時から人気のある人だった。
初めて私に話し掛けてきた時を覚えている。
「竹本さん」
ある日の放課後のことだった。私は最後の授業で居眠りをしてしまい、目が覚めた頃には放課後だった。
生徒はおろか、教師まで何も言ってこなかった。
――――竹本サエは、親を殺した奴。
私と同じ中学校だった奴が、そんな噂を流したのだ。そりゃあ腫れ物扱いもされるだろう。それに加えて私はとてつもなく無愛想で、とてつもなく暗い奴だった。不気味に思われても仕方が無い。
とにかく、私はその日放課後まで寝てた。夕方だった。空が赤く染まり、雲がその中をゆったりと泳いでいた。安心よりも、不安感を煽るような空の色だった。
「竹本さん」
声を掛けられた方を振り向くと、隣の席にさなえ先生が座っていた。ニコニコと笑っていた。
「グッスリだったねぇ」
軽く握った右手を口に当て、可愛らしくクスクスと笑いながら彼女はそう言った。なんだか恥ずかしくなって、私は顔をしかめながら体を起こした。無理な体勢で寝ていたせいか、肩が痛かった。
「…………」
何も言わず―――というか、何と言っていいのか解らず、無言で帰り支度を始めた。その間、さなえ先生は微笑みながら静かに私を見ていた。
この人は何故ここに居るのだろう。何故私に構うのだろう。
真っ先に思いついたのは、「いい教師として評価されるために、浮いてる学生に優しく接して点数を稼いでいる」というものだ。そう思うと非常に不愉快な気持ちになったが、その気持ちをはっきりと彼女にぶつけるほど、私は強くなかった。
「竹本さん、お昼に読んでたのって、太宰治?」
「あ、はい……。“斜陽”です」
「どうだった?」
「あ、えーっと……」
なんでそんなことを聞くのだろう。気まずい思いで彼女の顔を見ると、屈託のない、可愛らしい笑顔を浮かべている。
「べつに、その、……普通かな」
「……ほんとに?」
本音を言うと、普通という言葉よりは酷い感想なんだが、答え次第で彼女がどう出るのか知りたかった。
「先生は、文章は綺麗だけど、ちょっと痛々しいと思ったなぁ」
「本当ですか?私もそう思ったんです」
「とくに手紙のところ。……読みやすい文章なんだけど、それがかえってゾッとしちゃった」
「あぁ、それすっごいわかります!」
我ながら単純だと思うが、さなえ先生が私と同じ感想を持っていたことが嬉しかった。クラスメイトには読書する人が少ないし、そもそも話をする相手は居ない。
「…………」
嬉しかったが、しかし彼女を拒否しようとしていたのを思い出した。なんとか関わらずに居られるようにと、帰り支度を急いだ。
「これ」
・
初めて私に話し掛けてきた時を覚えている。
「竹本さん」
ある日の放課後のことだった。私は最後の授業で居眠りをしてしまい、目が覚めた頃には放課後だった。
生徒はおろか、教師まで何も言ってこなかった。
――――竹本サエは、親を殺した奴。
私と同じ中学校だった奴が、そんな噂を流したのだ。そりゃあ腫れ物扱いもされるだろう。それに加えて私はとてつもなく無愛想で、とてつもなく暗い奴だった。不気味に思われても仕方が無い。
とにかく、私はその日放課後まで寝てた。夕方だった。空が赤く染まり、雲がその中をゆったりと泳いでいた。安心よりも、不安感を煽るような空の色だった。
「竹本さん」
声を掛けられた方を振り向くと、隣の席にさなえ先生が座っていた。ニコニコと笑っていた。
「グッスリだったねぇ」
軽く握った右手を口に当て、可愛らしくクスクスと笑いながら彼女はそう言った。なんだか恥ずかしくなって、私は顔をしかめながら体を起こした。無理な体勢で寝ていたせいか、肩が痛かった。
「…………」
何も言わず―――というか、何と言っていいのか解らず、無言で帰り支度を始めた。その間、さなえ先生は微笑みながら静かに私を見ていた。
この人は何故ここに居るのだろう。何故私に構うのだろう。
真っ先に思いついたのは、「いい教師として評価されるために、浮いてる学生に優しく接して点数を稼いでいる」というものだ。そう思うと非常に不愉快な気持ちになったが、その気持ちをはっきりと彼女にぶつけるほど、私は強くなかった。
「竹本さん、お昼に読んでたのって、太宰治?」
「あ、はい……。“斜陽”です」
「どうだった?」
「あ、えーっと……」
なんでそんなことを聞くのだろう。気まずい思いで彼女の顔を見ると、屈託のない、可愛らしい笑顔を浮かべている。
「べつに、その、……普通かな」
「……ほんとに?」
本音を言うと、普通という言葉よりは酷い感想なんだが、答え次第で彼女がどう出るのか知りたかった。
「先生は、文章は綺麗だけど、ちょっと痛々しいと思ったなぁ」
「本当ですか?私もそう思ったんです」
「とくに手紙のところ。……読みやすい文章なんだけど、それがかえってゾッとしちゃった」
「あぁ、それすっごいわかります!」
我ながら単純だと思うが、さなえ先生が私と同じ感想を持っていたことが嬉しかった。クラスメイトには読書する人が少ないし、そもそも話をする相手は居ない。
「…………」
嬉しかったが、しかし彼女を拒否しようとしていたのを思い出した。なんとか関わらずに居られるようにと、帰り支度を急いだ。
「これ」
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