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1章
1-2
しおりを挟む「きっとさ、浜本先生とさなえ先生が付き合ってることに久保田がキレて、それでさなえ先生のこと殺したんだよ」
「あー………、ありうる」
「でもさー、別に死んだってよくない?」
「ぶりっ子しててキモかったよねぇ」
と、そんなことを話す女子の声は、どこか面白がっているような響きがあった。女子にも、そして男子にも人気のあるさなえ先生に対して、妬み嫉みのような、ほの暗い感情を抱く女子も居たのだ。
「喋らない」
学年主任の教師が、さなえ先生を悪く言っていた生徒の近くに行き、低く穏やかな声で注意した。穏やかだが迫力のある、正に年季の入ったスマートな叱り方だった。
そこを発端として、話をしていた生徒達は徐々に口を噤んでいき、やがて静かになった。教師達が私語を慎まない生徒達を注意して回り始めたのだ。
「ね、サエちゃん。どんな本が好き?」
「――――……え?」
ふと、耳元で優しい声が囁きかけてきた。ぼーっとしていた私は素っ頓狂な声を上げて、辺りを見回した。耳元に囁くほど近くには人は居ない。
一メートル程の間隔を空けて並んで立ってる生徒達が、いきなり声を出した私を怪訝な目で見ているだけだった。数秒後には皆再び前を向いて、何事もなかったかのように校長の話を聞いてるフリに戻った。
あの声には聞き覚えがある。
優しくて、幼い少女のような可愛らしい声。彼女と話していると、まるで暖かい春の陽光の元で日向ぼっこをしているような感覚がして、心が落ち着いたのを覚えている。
とても素敵な人だった。
家でも学校でも人と接することが嫌で、毎日私は辟易していた。誰かと話すのが難しくて、怖かった。本を読んで気を紛らわせてばかりいた。さなえ先生は、そんな私と一緒に居てくれた。
さなえ先生は、私を助けてくれた。
彼女のことが大好きだった。
「どうした、竹本」
「え?」
私を見た学年主任が、驚いた顔で私に声を掛けた。「大丈夫か?」
「大丈夫、ですけど」
「本当に大丈夫なのか?」
「え?あ、あの、わた、私……」
頬を大量の涙が流れ落ちていることに気付いて、制服の袖で拭った。拭っても拭っても、涙が溢れた。再度大丈夫だと学年主任に言おうとしたが、舌が縺れて上手く話せない。
学年主任に優しく腕を掴まれて、列から連れ出された。自分の身体が震えていることに気付いた。足の感覚が薄く、上手く歩けているのか自信が持てない。
他の女性の教師が学年主任と代わり、私を連れて保健室に連れて行った。
教師曰く、顔が赤いという。
泣きながら連れて来られた保健室で、体温を計った。すると、つい先程までは何ともなかったのに、なんと私の体温は38度に発熱していた。
20分後には親が迎えに来て、私は早退した。
熱は3日に渡り続いた。そしてまともに起き上がれるようになるまで、更に2日を要した。
母は、私が熱を出している間、ずっと泣いていたと言う。
「あんたが泣くの、初めて見たわ……」
と、どこか辛そうな表情でそんなことを呟いていた。
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