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=1巻= 寝取られ女子、性悪ドクターと出会う ~ 永遠の愛はどこに消えた? ~==
3-8.ダイヤモンドと天井裏の痴女
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失礼しまーすと明るく軽く声をかけ、愛嬌のある笑顔もそのままに我那覇はノックしてすぐに扉を開ける。
さすがに男子更衣室で作業するなんてどうだろう、と我那覇の腕を引っ張いて躊躇をつたえようとするも、タッチの差で失敗した千秋は自分の眉尻が情けないほど下がっていくのを感じた。
――冷泉との出会いは事故であって、自分には痴女と呼ばれるいわれはない。
胸を張って断言してきたが、こうも状況証拠が積み上げられていくと、もはや頭を抱えるしかない。
それでも、と千秋はいいんですか? と我那覇に問うが、相手はなにもわかっていない善良なだけに、気持ちをぶつけるのがためらわれる目で、ん? と振り返って首を傾げた。
「いや、男子更衣室で作業って……」
「でも、ここからしか天井にいくハッチがないんだって。……担当さんも苦笑してたよ。当時はうちの担当もそっちのプロジェクトマネージャーも、沖縄に出向してくるのは男性で、女の子が来るとは思ってなかったみたいでさー。ちなみにカーゴの無線LANのケーブル? ってやつも天井裏に貼ってあって、男子更衣室から上がるらしいっさ」
なんでもないことのように言われ、千秋はくらくらと目眩がするのを止められない。
「それで、男子更衣室に」
「作業用の脚立やら工具を置いても邪魔にならないしねー」
うん。考え方としては間違いではない。オフィスのど真ん中に置くよりはまっとうだ。
けれど――。もう少し、こう男女共同参画ではないが、女性のエンジニアが着任する可能性を考えてもいいのではないだろうか。
うつろな目で天井裏に通じる四角の出入りハッチを見ていると、一足先に中へ入った我那覇が脚立を組み立てつつ説明した。
「そうそう気にしなくてもいいっさ。……更衣室っていっても、ここを使うのは常務関係の人ばかりで多くないし、日勤の人は六時過ぎるまではあまり来ないっさ。まあ、たまに付属のシャワーを使うためにパイロットが来たりするけど、男が女性更衣室に入るより問題じゃないさー」
そうかもしれない。が、もし運悪く誰かと鉢合わせたら、更衣室を覗き見した女として、痴女の上塗りではないか。
せめて冷泉にだけは知られたくない。そのためには速やかに問題を片付けて撤収するのが一番だ。
腹をくくった千秋は資料を入れた布製のトートバッグを肩にさげ、脚立に足をかける。
すると我那覇が更衣室の端に一つだけ別に置かれていたロッカーを開いてなにかを取り出す。
「守屋さん、これー」
かわらずのんびりした口調でいい、脚立の上に腰掛けてハッチを開けようとしていた千秋に放る。
「わっ、これなんですか」
「ヘッドライト。……上は真っ暗だからこれがいるって聞いてた」
「…………」
頭にランプをつけて異性が使う更衣室の天井裏を徘徊するなど、どうにも変態じみている。
スマートフォンのライトを使うからいいですといいかけ、千秋は、私物のほとんどをセキュリティエリアに入る時に預けてしまったのを思い出す。
「あと、四時頃に掃除のおばちゃんが入るから、上で作業してるので脚立は片付けないでって伝えとくねー」
そう告げつつ、我那覇は千秋が止めようと手を伸ばすのにも気付かず更衣室を出て行く。
担当する便が少ない時間なら、ということでシステム部の手伝いをしていると聞いていたので、本来の仕事――荷物搬送や飛行機への積載に戻るのだろう。
終わったらとくに何も言わず、脚立だけ端に寄せて帰っていいよと、システム部の人から言われていたのもそのためだ。
「はあ……しょうがないなあ。気合いいれて、さっさと終わらせて、誰かに見つからないうちにさっさと逃げよう」
誰もいないのをいいことに、千秋は内心を声にして呟いていた。
さすがに男子更衣室で作業するなんてどうだろう、と我那覇の腕を引っ張いて躊躇をつたえようとするも、タッチの差で失敗した千秋は自分の眉尻が情けないほど下がっていくのを感じた。
――冷泉との出会いは事故であって、自分には痴女と呼ばれるいわれはない。
胸を張って断言してきたが、こうも状況証拠が積み上げられていくと、もはや頭を抱えるしかない。
それでも、と千秋はいいんですか? と我那覇に問うが、相手はなにもわかっていない善良なだけに、気持ちをぶつけるのがためらわれる目で、ん? と振り返って首を傾げた。
「いや、男子更衣室で作業って……」
「でも、ここからしか天井にいくハッチがないんだって。……担当さんも苦笑してたよ。当時はうちの担当もそっちのプロジェクトマネージャーも、沖縄に出向してくるのは男性で、女の子が来るとは思ってなかったみたいでさー。ちなみにカーゴの無線LANのケーブル? ってやつも天井裏に貼ってあって、男子更衣室から上がるらしいっさ」
なんでもないことのように言われ、千秋はくらくらと目眩がするのを止められない。
「それで、男子更衣室に」
「作業用の脚立やら工具を置いても邪魔にならないしねー」
うん。考え方としては間違いではない。オフィスのど真ん中に置くよりはまっとうだ。
けれど――。もう少し、こう男女共同参画ではないが、女性のエンジニアが着任する可能性を考えてもいいのではないだろうか。
うつろな目で天井裏に通じる四角の出入りハッチを見ていると、一足先に中へ入った我那覇が脚立を組み立てつつ説明した。
「そうそう気にしなくてもいいっさ。……更衣室っていっても、ここを使うのは常務関係の人ばかりで多くないし、日勤の人は六時過ぎるまではあまり来ないっさ。まあ、たまに付属のシャワーを使うためにパイロットが来たりするけど、男が女性更衣室に入るより問題じゃないさー」
そうかもしれない。が、もし運悪く誰かと鉢合わせたら、更衣室を覗き見した女として、痴女の上塗りではないか。
せめて冷泉にだけは知られたくない。そのためには速やかに問題を片付けて撤収するのが一番だ。
腹をくくった千秋は資料を入れた布製のトートバッグを肩にさげ、脚立に足をかける。
すると我那覇が更衣室の端に一つだけ別に置かれていたロッカーを開いてなにかを取り出す。
「守屋さん、これー」
かわらずのんびりした口調でいい、脚立の上に腰掛けてハッチを開けようとしていた千秋に放る。
「わっ、これなんですか」
「ヘッドライト。……上は真っ暗だからこれがいるって聞いてた」
「…………」
頭にランプをつけて異性が使う更衣室の天井裏を徘徊するなど、どうにも変態じみている。
スマートフォンのライトを使うからいいですといいかけ、千秋は、私物のほとんどをセキュリティエリアに入る時に預けてしまったのを思い出す。
「あと、四時頃に掃除のおばちゃんが入るから、上で作業してるので脚立は片付けないでって伝えとくねー」
そう告げつつ、我那覇は千秋が止めようと手を伸ばすのにも気付かず更衣室を出て行く。
担当する便が少ない時間なら、ということでシステム部の手伝いをしていると聞いていたので、本来の仕事――荷物搬送や飛行機への積載に戻るのだろう。
終わったらとくに何も言わず、脚立だけ端に寄せて帰っていいよと、システム部の人から言われていたのもそのためだ。
「はあ……しょうがないなあ。気合いいれて、さっさと終わらせて、誰かに見つからないうちにさっさと逃げよう」
誰もいないのをいいことに、千秋は内心を声にして呟いていた。
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