15 / 34
=1巻= 寝取られ女子、性悪ドクターと出会う ~ 永遠の愛はどこに消えた? ~==
1-8 寝取られましたが、それがなにか?
しおりを挟む
どうせもう会うことがない他人だと割り切ることもできたが、それだときっと後悔する。
悪いことは悪いとわかった時点で、ちゃんと謝罪しなければ。
それに、彼としても迷惑をかけられた上に謝罪一つなしでは、当面、気分も悪いだろう。
せっかくの沖縄、せっかくの南国。なにか楽しみにしていたことがあるはずだ。――千秋同様に。
(だったら、このままはダメなんじゃない?)
思い至った千秋は、優先案内のため客室乗務員が近づいてきたことを皮切りに、行動へと移す。
足下に置いていたトートバッグをひっつかんで、立ち上がる。
隣の彼はこういうプレミアムな扱いに慣れているらしく、乗務員が促すや否や通路を進み、もう出口間際にいた。
小走りに近づく千秋の目の前で、ドアが開く。
白い光に目が眩んだのも束の間、視界が回復すると辺りを見る余裕もないまま先を追う。
相手は悠然と歩いていたが、目測慎重が180を余裕で越えているだろうモデル体型な彼と、155センチに届くか届かないかで一喜一憂している千秋とでは、当然足の長さが違う。
歩幅が広い相手に追いつこうと、生まれたてのヒヨコさながらのせわしなさで突き進み、ボーディングブリッジの終わりに来てようやく追いつく。
「あのっ、先ほどはご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
相手が振り返る気配を感じつつ、勢いよく頭を下げる。
クレーム対応も仕事に含まれるだけあって、この手の動きだけは妙にビシッと決められる千秋だが、今回はそこに心からの反省を上乗せしていた。
「本当にすみませんでした。私が迷惑をかけたのは間違いありませんし、それでお怒りになるのは最もでした。なのに口答えして……」
本当に申し訳ございませんっ! と続けようとした千秋の頭上に、低く平坦な男の声が降りかかる。
「だからなんだ?」
怒っている――のではなく、興味がないと瞬時に悟れるほど素っ気ない声に目を見開く。
おそるおそる頭を上げると、男は立ち止まったまま、だけど振り返りもせずに続けた。
「どうせ、偶然隣り合っただけの客同士だ。二度と会うこともない。なのに……そんな謝罪をするなんて馬鹿馬鹿しい。痴女なだけじゃなく頭も悪いな」
こちらこそ、なんて受け流しの言葉を、求めていなかったと言えば嘘になる。
けれど貰えるはずもないほどのことをしでかしたのも、それ以上にわかっていたが。
(正直、なんというか。言い過ぎなんじゃないかな)
カッとなるよりもむしろ、この人、本当に大丈夫かと心配になるレベルだ。
こんなんで、社会生活をうまくやっていけているのだろうか。
大きなお世話に気をやっていると、男はもう用はないと決め込んだのか止めていた足を動かしだす。
「痴女で頭が悪くて馬鹿正直なお人好し。……救いようがないな」
この後に及んでの捨て台詞だが、なぜか腹立ちよりも同意が先に来てしまう。
(そうだよなあ。お人好しだよねえ)
謝罪されて、はいそうですか。気を付けてくださいね、次。となる千秋ほど単純な人間は、いまだ見たことがない。
人は、そう簡単に人を許さない。
(わかってるけど。でもさ、許さないと先に進まないこともあるじゃない?)
千春がどんな問題を起こしても、なぜか、悪いのは千秋だと異次元理論をこねくり回し親に説教されつづけた人生を振り返りかけ、千秋は慌てて頭を振った。
「ああ、やめやめ!」
思うより時間が掛かっていたのか、プレミアム席より後に到着案内がある一般乗客たちが、追い抜きざまにぎょっとするのを横目に決意を新たにする。
――折角、距離を置いたんだから、しばらくは親のことも、千春のことも、その他大勢のことも考えない。
すくなくとも、沖縄にいる間は自分の気持ちを大切に、自分の考えで日々を過ごしたい。
大きくうなずいて千秋は気持ちを切り替える。
と、同時に腹が盛大になって、うわっと奇声を上げてしまう。
「……そういえば、機内提供の軽食、食べられなかった」
事件があって混乱し、そのまま窓の外を見て寝てしまったのだ。気をつかった客室乗務員が、提供を見送ったのも仕方がない。
「楽しみにしていたフレンチなのになあ……」
ああ、さようなら鴨のマリネ。肉といえば鶏の胸肉かミンチの私には、やはり貴女は遠かった。
さようなら、フォアグラバターサンドイッチ。また会う日まで。
未練たらしくそんなことを考えつつ、千秋は、会社が抑えた格安ビジネスホテルへチェックインすべく、歩き出したのだった。
====
次話「2-01.このドクター、口は悪いが顔はいい」に続きます。
悪いことは悪いとわかった時点で、ちゃんと謝罪しなければ。
それに、彼としても迷惑をかけられた上に謝罪一つなしでは、当面、気分も悪いだろう。
せっかくの沖縄、せっかくの南国。なにか楽しみにしていたことがあるはずだ。――千秋同様に。
(だったら、このままはダメなんじゃない?)
思い至った千秋は、優先案内のため客室乗務員が近づいてきたことを皮切りに、行動へと移す。
足下に置いていたトートバッグをひっつかんで、立ち上がる。
隣の彼はこういうプレミアムな扱いに慣れているらしく、乗務員が促すや否や通路を進み、もう出口間際にいた。
小走りに近づく千秋の目の前で、ドアが開く。
白い光に目が眩んだのも束の間、視界が回復すると辺りを見る余裕もないまま先を追う。
相手は悠然と歩いていたが、目測慎重が180を余裕で越えているだろうモデル体型な彼と、155センチに届くか届かないかで一喜一憂している千秋とでは、当然足の長さが違う。
歩幅が広い相手に追いつこうと、生まれたてのヒヨコさながらのせわしなさで突き進み、ボーディングブリッジの終わりに来てようやく追いつく。
「あのっ、先ほどはご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
相手が振り返る気配を感じつつ、勢いよく頭を下げる。
クレーム対応も仕事に含まれるだけあって、この手の動きだけは妙にビシッと決められる千秋だが、今回はそこに心からの反省を上乗せしていた。
「本当にすみませんでした。私が迷惑をかけたのは間違いありませんし、それでお怒りになるのは最もでした。なのに口答えして……」
本当に申し訳ございませんっ! と続けようとした千秋の頭上に、低く平坦な男の声が降りかかる。
「だからなんだ?」
怒っている――のではなく、興味がないと瞬時に悟れるほど素っ気ない声に目を見開く。
おそるおそる頭を上げると、男は立ち止まったまま、だけど振り返りもせずに続けた。
「どうせ、偶然隣り合っただけの客同士だ。二度と会うこともない。なのに……そんな謝罪をするなんて馬鹿馬鹿しい。痴女なだけじゃなく頭も悪いな」
こちらこそ、なんて受け流しの言葉を、求めていなかったと言えば嘘になる。
けれど貰えるはずもないほどのことをしでかしたのも、それ以上にわかっていたが。
(正直、なんというか。言い過ぎなんじゃないかな)
カッとなるよりもむしろ、この人、本当に大丈夫かと心配になるレベルだ。
こんなんで、社会生活をうまくやっていけているのだろうか。
大きなお世話に気をやっていると、男はもう用はないと決め込んだのか止めていた足を動かしだす。
「痴女で頭が悪くて馬鹿正直なお人好し。……救いようがないな」
この後に及んでの捨て台詞だが、なぜか腹立ちよりも同意が先に来てしまう。
(そうだよなあ。お人好しだよねえ)
謝罪されて、はいそうですか。気を付けてくださいね、次。となる千秋ほど単純な人間は、いまだ見たことがない。
人は、そう簡単に人を許さない。
(わかってるけど。でもさ、許さないと先に進まないこともあるじゃない?)
千春がどんな問題を起こしても、なぜか、悪いのは千秋だと異次元理論をこねくり回し親に説教されつづけた人生を振り返りかけ、千秋は慌てて頭を振った。
「ああ、やめやめ!」
思うより時間が掛かっていたのか、プレミアム席より後に到着案内がある一般乗客たちが、追い抜きざまにぎょっとするのを横目に決意を新たにする。
――折角、距離を置いたんだから、しばらくは親のことも、千春のことも、その他大勢のことも考えない。
すくなくとも、沖縄にいる間は自分の気持ちを大切に、自分の考えで日々を過ごしたい。
大きくうなずいて千秋は気持ちを切り替える。
と、同時に腹が盛大になって、うわっと奇声を上げてしまう。
「……そういえば、機内提供の軽食、食べられなかった」
事件があって混乱し、そのまま窓の外を見て寝てしまったのだ。気をつかった客室乗務員が、提供を見送ったのも仕方がない。
「楽しみにしていたフレンチなのになあ……」
ああ、さようなら鴨のマリネ。肉といえば鶏の胸肉かミンチの私には、やはり貴女は遠かった。
さようなら、フォアグラバターサンドイッチ。また会う日まで。
未練たらしくそんなことを考えつつ、千秋は、会社が抑えた格安ビジネスホテルへチェックインすべく、歩き出したのだった。
====
次話「2-01.このドクター、口は悪いが顔はいい」に続きます。
0
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る
電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。
女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。
「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」
純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。
「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪
まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、
ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、
私のおにいちゃんは↓
泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる