カゲムシ

倉澤 環(タマッキン)

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屈辱

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二人で出掛けるようになると、並んで歩くその距離が徐々に縮まっていった。

始めは手を伸ばしても届かない距離、それが届く距離、それからバッグ一つ分、そして肩が触れる位。

近付く程に彼女の笑顔も美しさを増したように見え、この清らかな彼女を陰蟲で穢すことがないよう守らねばという思いが一層強くなった。


久々に、出会った公園をぐるりと散歩してみようということになり、休日の明け方彼女と共に歩いた。

彼女は私と共に歩くようになってから、白杖が使いにくいようだった。

前から気付いてはいたが思い切って、私と歩く時は白杖の代わりに私を頼ってほしいと綴った。

彼女は驚いて私を見たが、すぐに、次からは家に置いてきますと返してくれた。

私達の会話は全て筆談なので、会話をしたい時は立ち止まり端に寄る。

ベンチに座り空を見上げ、東屋で雨上がりの芝生を眺める。

穏やかな時間であった。


しかし、東屋から出て歩き出した時、後ろから何者かに突き飛ばされ、私達は勢いよく転がった。

何者かはゲラゲラと笑うと、

「杖を持たなきゃ歩けないなら外に出るな!」

「国のゴミは虫ケラのように地面を這いつくばっていろ!」

そのような口汚い言葉で罵り、あっと言う間に走り去っていった。

今まで味わったことのない怒りがこみ上げる。


くそう、くそう。


そんな私のズボンが左右に揺れる。

座り込んだ彼女が私のズボンを掴み、不思議そうにこちらを見ていた。

そうだ、彼女はわからないのだ。何を言われたのか。

彼女の衣服の草を払う。

怪我がなかったことは不幸中の幸いであった。

彼女をきつく抱きしめる。

ごめん、ごめんと繰り返し呟いた。

すると彼女は私の背中にするりと腕を回した。

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