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結局ほとんど眠れないまま朝を迎えた僕は、あまり人に会いたくないだろうと僕を気遣った玄が部屋へ運んできてくれたトーストをかじりコーヒーを飲む。

出会った時から馴れ馴れしくてガサツで豪快な印象の彼は、その実とても繊細で丁寧で正確な優しさを持っている。

全てを見透かされているような感覚が、不思議と『心地よい』と思えるただ一人の人間だった。


「全部食えよ!」

自分の分をあっという間に平らげた玄が着替えながら僕に言う。

「僕は少食だよ」

「食べさせてやろうか?無理矢……」

「自分で食べます」

急いでトーストをほおばった僕はそこで気付く。

玄は普段着だった。

「玄、今日学校だろ?」

玄は不敵に笑い

「お前、学校行きたくないだろ? 制服も持ってきてないし。今日はお前のために仕方ないけど本当は行きたいけどお前に付き合って学校を休むことにした!」

ああ。そういうことか。

「ありがとう、玄」

「ただ、その前に!」

玄がわざと声を張る。

「親父さんにちゃんと全てを聞いてからな」

先ほどとは全く変わって諭すような優しい玄の声に、僕は少し間を置いてから強く頷いた。



ソファに父と母。

ダイニングの椅子に僕、そして僕の後ろに玄が立っていた。

父がゆっくりと話し出した。
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