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自分の病気のせいで結婚することも、お付き合いをすることさえ躊躇していた彼にプロポーズした私。
そして、平成最後の年に結婚しました。
私達が出会った時すでに彼は障害者。
十四歳で一型糖尿病を患った彼は、三十代で右眼を失明、心臓弁膜症、そして腎不全による人工透析を受けています。
脊柱管狭窄症のせいで三分も歩き続けることができない彼の歩く速度はとてもゆっくりで、しばしば立ち止まっては辛そうに腰をトントンしながら歩いていました。
出会った時すでに人工透析を受け始めてから十五年以上経っており、私達はさほど長くは一緒に居られないだろうという覚悟をし、結婚生活が始まりました。
透析から帰ってきた彼の顔を見て、今日も無事で帰ってきてくれたと安心する日々でしたが、心配事ばかりでもなく、例えば腰の悪い彼の速度に合わせてゆっくりと歩くのが大好きでしたし、片目でも透析を受けていても、自分のできることを確実にやりとげる彼の姿勢を、とても尊敬していました。
結婚して半年程経った頃、彼は腰の具合が悪化して仕事に行けなくなりました。
立ち上がれても痛みと痺れで足が前に出せない、立ち続けることができない、長く座ることができない……
誰に頼れば良いのか、どこに相談すれば良いのか。
週三回の透析は絶対に行かなければならない。
まずは車椅子を借りなければ!
市役所に相談したところ、二週間という期限付きではありますが社会福祉協議会で車椅子を借りることができたので、とりあえずなんとか透析に連れていくことができました。
歩けなくなった彼を連れて近くの病院へ行き、脊柱管狭窄症のオペをしてもらえるよう先生にお願いしました。
しかし、糖尿病であり、更に人工透析を受けている彼は全身麻酔の際の危険が大きいため、ICUの設備が整っている大きな病院でないとオペを考えることはできないと断られてしまいました。
次に私達は、彼が心臓弁膜症のオペをしていただいた病院に相談することにしました。
車で二時間程度。通えない距離ではない。
ここでオペしてもらえれば……
しかし、脊柱管狭窄症の専門医が転勤してしまい今は対応できないと、ここでも断られてしまいました。
「大丈夫だよ」
顔を歪めながらも強がる彼の為に、絶対諦めるわけにはいかない!
私達はもう一度最初の病院にお願いに行きました。
なんとかならないかとお願いしたところ、主治医が県内でもかなり大きな病院に、彼を受け入れてもらえないかとその場で電話してくださいました。
しかし……結局その病院にも断られてしまいました。
「通うにはかなり大変だけれど、隣の県にある大学病院なら、もしかしたらオペをしてもらえるかもしれない」
主治医の言葉に藁をもすがる思いで紹介状を書いていただき、早速予約の電話をかけました。
予約できたのは一カ月以上先。
それでも何か少しでも希望があれば。
ほんの少しの希望が見えた後も、彼の腰の痛みは増し、車椅子に乗っているのも辛くなっていきます。
そして私も、彼を透析に送ってから仕事をし、早退をさせてもらい彼の迎えに行く。
透析の無い日も寝たきりの彼に不自由のないよう、水分などを揃えて仕事へ行く。
体を拭いたりおむつを替えたり。
徐々に体と心の疲労が蓄積されていきました。
2週間という期限だった車椅子もあっという間に期限が来てしまい、使用期間の更新をお願いしてお借りしていました。
これからどうしよう。
どうしたらいいだろう。
車椅子の上で苦痛の表情を浮かべる彼の痛みも私には軽減することもできない。
「代わってあげられなくてごめんね」
私が言うと
「こんな苦しみを君が味わわなくて良かった」
彼はそう言って苦しそうに笑います。
頑張ろう。
2人で頑張るんだ!
そして、平成最後の年に結婚しました。
私達が出会った時すでに彼は障害者。
十四歳で一型糖尿病を患った彼は、三十代で右眼を失明、心臓弁膜症、そして腎不全による人工透析を受けています。
脊柱管狭窄症のせいで三分も歩き続けることができない彼の歩く速度はとてもゆっくりで、しばしば立ち止まっては辛そうに腰をトントンしながら歩いていました。
出会った時すでに人工透析を受け始めてから十五年以上経っており、私達はさほど長くは一緒に居られないだろうという覚悟をし、結婚生活が始まりました。
透析から帰ってきた彼の顔を見て、今日も無事で帰ってきてくれたと安心する日々でしたが、心配事ばかりでもなく、例えば腰の悪い彼の速度に合わせてゆっくりと歩くのが大好きでしたし、片目でも透析を受けていても、自分のできることを確実にやりとげる彼の姿勢を、とても尊敬していました。
結婚して半年程経った頃、彼は腰の具合が悪化して仕事に行けなくなりました。
立ち上がれても痛みと痺れで足が前に出せない、立ち続けることができない、長く座ることができない……
誰に頼れば良いのか、どこに相談すれば良いのか。
週三回の透析は絶対に行かなければならない。
まずは車椅子を借りなければ!
市役所に相談したところ、二週間という期限付きではありますが社会福祉協議会で車椅子を借りることができたので、とりあえずなんとか透析に連れていくことができました。
歩けなくなった彼を連れて近くの病院へ行き、脊柱管狭窄症のオペをしてもらえるよう先生にお願いしました。
しかし、糖尿病であり、更に人工透析を受けている彼は全身麻酔の際の危険が大きいため、ICUの設備が整っている大きな病院でないとオペを考えることはできないと断られてしまいました。
次に私達は、彼が心臓弁膜症のオペをしていただいた病院に相談することにしました。
車で二時間程度。通えない距離ではない。
ここでオペしてもらえれば……
しかし、脊柱管狭窄症の専門医が転勤してしまい今は対応できないと、ここでも断られてしまいました。
「大丈夫だよ」
顔を歪めながらも強がる彼の為に、絶対諦めるわけにはいかない!
私達はもう一度最初の病院にお願いに行きました。
なんとかならないかとお願いしたところ、主治医が県内でもかなり大きな病院に、彼を受け入れてもらえないかとその場で電話してくださいました。
しかし……結局その病院にも断られてしまいました。
「通うにはかなり大変だけれど、隣の県にある大学病院なら、もしかしたらオペをしてもらえるかもしれない」
主治医の言葉に藁をもすがる思いで紹介状を書いていただき、早速予約の電話をかけました。
予約できたのは一カ月以上先。
それでも何か少しでも希望があれば。
ほんの少しの希望が見えた後も、彼の腰の痛みは増し、車椅子に乗っているのも辛くなっていきます。
そして私も、彼を透析に送ってから仕事をし、早退をさせてもらい彼の迎えに行く。
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どうしたらいいだろう。
車椅子の上で苦痛の表情を浮かべる彼の痛みも私には軽減することもできない。
「代わってあげられなくてごめんね」
私が言うと
「こんな苦しみを君が味わわなくて良かった」
彼はそう言って苦しそうに笑います。
頑張ろう。
2人で頑張るんだ!
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