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 朝礼の時間に校長先生からその話を聞いたマサルたちはとても悲しくて、先生や家の人に何度もぎんなんの木を切ることをやめて欲しいとお願いしました。

でも、町をもっと良くするために決まったことだからやめることはできないと言われ、マサルたちは、ただただその日を待つことしかできませんでした。


 マサルは、一緒にぎんなんを拾った仲間と、まだぎんなんの落ちない夏からずっと見ていました。

学校の登下校、学校がお休みの日……

何の用事があるわけでもないのに、登校の途中で立ち止まったり、休みの日に公園に行ってみたりして、ずっと見ていました。


もうすぐなくなってしまう木を。

大切な思い出の木を。

ぎんなんの木を。


 夏が終わり秋になると、ぎんなんの木は去年とかわらずたくさんのぎんなんを落としてくれました。

(これが最後だと、この木は知っているんだろうか……)

マサルはそんなことを考えながら、一生懸命ぎんなんを拾いました。

たくさんのぎんなんと同じくらい、寂しさを感じながら。


 そして、冬になりました。

今日はとうとう、ぎんなんの木が切られる日です。

マサルは朝早く、誰にも言わずにこっそり家を抜け出して、ぎんなんの木に向かいました。

そしてぎんなんの木の前にどっかりと座り込んでいました。


やがて、作業の人達がぎんなんの木に向かって歩いてきました。

マサルは立ち上がると、ぎんなんの木を背にして両手を広げ

「切らないでください! 切らないでください!」

と、作業の人に大きな声で何度も叫びました。


するとどこからか、いつもぎんなんの木のそばで遊んでいた仲間が集まってきて、マサルと同じようにぎんなんの木を背にして両手を広げ

「切らないでください! 切らないでください!」

と叫びました。


 作業の人達は困ってしまい、どうしたものかと顔を見合わせていましたが、その中の一人がマサルの前に進み出て寂しそうに言いました。

「ごめんな。ごめんな。おじさんもね、子供の頃、ここでよく遊んだんだよ。ぎんなんをたくさん拾ったんだよ。でもね、おじさんたちはどうしても切らなければならないんだ。ごめんな。ごめんな」

 おじさんにそう言われている間に、子供たちの親がそれぞれの子供を抱きかかえて、立ち入り禁止のロープの外まで強引に連れ出してしまいました。



 ぎんなんの木に、大きな機械の刃が入っていきます。


 マサルの友達、下級生、上級生、そして今までにぎんなんの木で遊んで育った大人たちも、立ち入り禁止のロープのこちらで、ぎんなんの木が切られていくのを黙って見ていました。

少しずつ根元を削られていくぎんなんの木を見ながら、マサルは泣いてしまいました。

すると


(泣かないで)


どこからか声がしました。


(私がいなくなっても、私の思い出は残るでしょう。だからどうか泣かないで)


その声は続けて


(それに、私がいなくなることで、町はもっと便利になる。だから泣かないで)


「ぎんなんの木なの?」

マサルはぎんなんの木にそっと話しかけましたが、その声は答えず


(ありがとう。今までたくさんぎんなんを拾ってくれて。私のそばで遊んでくれて。本当にありがとう。私はとても幸せでした)


 ぎんなんの木がゆっくりと倒れるその枝は、マサルに手を振っているようでした。

 ぎんなんの木がゆっくりと倒れるその時、マサルは、ぎんなんの木が微笑んだ気がしました。

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