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小話(web拍手用に書いたものです)
小話5 エドウィンとバードの日常
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第28.5話 エドウィンとバードの日常
動けば汗ばむような陽気の中で、エドウィンが庭の木々の間をゆっくり動く。
剪定の後の切った枝を片付けたいが、その前に一息いれようかどうしようかと迷う。
「お茶をお入れしましょうか?」
バードが絶妙なタイミングで声を掛けてきた。
箒を立て掛けて、日陰の中のテーブルへと向かう。
小さな缶が置かれた。
「アイナ様がブレンドしたハーブティ、だそうです」
エドウィンが微妙な顔をした。
「大丈夫なのか?」
「はい?」
「この前のは薔薇の花びらが入っていたが」
「お嫌いでしたか? 私は美味しくいただきましたよ」
「薔薇を食いたいとは思わないがなぁ。レグザスなら良いんだが」
「……今日は入っていないみたいですねぇ」
缶の中をバードが覗き込んで答えた。
爽やかな香りが溢れてくる。
「ハッカだな。暑い時にはぴったりだ」
「あれっ、お好きでしたか?」
「うん。入れてくれ」
バードが一度城の中へ戻り、茶器を持ってくる。
じっくりと茶葉を蒸らして、カップに注いだ。
「ハッカ以外になにが入っているんだ?」
カップを覗き込んで香りを聞き考える。
バードは「なんでしょうねぇ?」とまだ湯の入っているポットの蓋を開けて覗くが分からない。
結局答えは出ず、今日の茶は「けっこう美味い」という評価で落ち着いた。
バードがふとエドウィンの顔を見て言う。
「髪がまた伸びましたね。切りましょうか?」
「ああ。頼む」
エドウィンが前髪に手をやって答える。
「それとも、アイナ様に切っていただきますか?」
「いや、アイナは忙しいからな。お前でいい」
バードがくすりと笑う。
「本当にあのかたはお忙しくて」
「ここに居ても退屈だろうし良いんじゃないか」
「……それはそれでエドウィン様の相手で忙しいと思いますけれどね」
呆れたようにバードが言う。
カップとポットを片付けたバードは、今度は鋏と櫛と大きめのクロスを持ってくる。
エドウィンが椅子をひきずり、陽の当たるところへ持って行って座った。
バードは彼の首にクロスを掛けて、櫛でエドウィンのさらさらとした髪を梳く。
いつものように、左側の肌を隠すように両脇の髪は少し長めに残して鋏を入れる。
バードもこの時だけはいつも真剣な顔をするので、エドウィンも邪魔をしないように目を伏せて身動きせず
大人しくする。
今日の庭には、いつもエドウィンを眺めては変わった質問をするジーナトクスも、そんな彼女を探しつつ軽口を
叩いていくデュースも、最近頻繁に顔を出しては庭の薬草を選別しつつからかうマティルダもいない。
耳には風で葉の擦れる音と、鳥のさえずりだけが聞こえてくる。
それから単調な鋏の切る音が入ってくる。
自然と眠たくなって、目をつむる。
「今日は静かだな」
あくびをかみ殺しながらエドウィンが呟く。
「以前はずっとそうだったんですよ」
そう返されて、エドウィンはゆっくりと目を開けた。
初夏のまぶしい光に、少しだけ目を細める。
「アイナ様が来てくれて本当に良かったですね? エドウィン様」
バードが左右の髪の長さを測りながらにっこり微笑んだ。
「……そうだな」
エドウィンも小さく笑って答える。
「さて、こんな感じでいいでしょうかね」
バードが呟いて、エドウィンの身体にかかるクロスを取り去る。
エドウィンは立ちあがって、大きく伸びをした。
「アイナ様、今日は無事に帰ってこられると良いんですけれど」
「……街に行ってなにかに巻き込まれるのは得意だな」
「困りましたねぇ」
「寄り道しなきゃいいんだけどな」
はあ、と二人は溜息をつき、それからバードは城の中へと入り、エドウィンは箒を持って庭の片付けを始めた。
動けば汗ばむような陽気の中で、エドウィンが庭の木々の間をゆっくり動く。
剪定の後の切った枝を片付けたいが、その前に一息いれようかどうしようかと迷う。
「お茶をお入れしましょうか?」
バードが絶妙なタイミングで声を掛けてきた。
箒を立て掛けて、日陰の中のテーブルへと向かう。
小さな缶が置かれた。
「アイナ様がブレンドしたハーブティ、だそうです」
エドウィンが微妙な顔をした。
「大丈夫なのか?」
「はい?」
「この前のは薔薇の花びらが入っていたが」
「お嫌いでしたか? 私は美味しくいただきましたよ」
「薔薇を食いたいとは思わないがなぁ。レグザスなら良いんだが」
「……今日は入っていないみたいですねぇ」
缶の中をバードが覗き込んで答えた。
爽やかな香りが溢れてくる。
「ハッカだな。暑い時にはぴったりだ」
「あれっ、お好きでしたか?」
「うん。入れてくれ」
バードが一度城の中へ戻り、茶器を持ってくる。
じっくりと茶葉を蒸らして、カップに注いだ。
「ハッカ以外になにが入っているんだ?」
カップを覗き込んで香りを聞き考える。
バードは「なんでしょうねぇ?」とまだ湯の入っているポットの蓋を開けて覗くが分からない。
結局答えは出ず、今日の茶は「けっこう美味い」という評価で落ち着いた。
バードがふとエドウィンの顔を見て言う。
「髪がまた伸びましたね。切りましょうか?」
「ああ。頼む」
エドウィンが前髪に手をやって答える。
「それとも、アイナ様に切っていただきますか?」
「いや、アイナは忙しいからな。お前でいい」
バードがくすりと笑う。
「本当にあのかたはお忙しくて」
「ここに居ても退屈だろうし良いんじゃないか」
「……それはそれでエドウィン様の相手で忙しいと思いますけれどね」
呆れたようにバードが言う。
カップとポットを片付けたバードは、今度は鋏と櫛と大きめのクロスを持ってくる。
エドウィンが椅子をひきずり、陽の当たるところへ持って行って座った。
バードは彼の首にクロスを掛けて、櫛でエドウィンのさらさらとした髪を梳く。
いつものように、左側の肌を隠すように両脇の髪は少し長めに残して鋏を入れる。
バードもこの時だけはいつも真剣な顔をするので、エドウィンも邪魔をしないように目を伏せて身動きせず
大人しくする。
今日の庭には、いつもエドウィンを眺めては変わった質問をするジーナトクスも、そんな彼女を探しつつ軽口を
叩いていくデュースも、最近頻繁に顔を出しては庭の薬草を選別しつつからかうマティルダもいない。
耳には風で葉の擦れる音と、鳥のさえずりだけが聞こえてくる。
それから単調な鋏の切る音が入ってくる。
自然と眠たくなって、目をつむる。
「今日は静かだな」
あくびをかみ殺しながらエドウィンが呟く。
「以前はずっとそうだったんですよ」
そう返されて、エドウィンはゆっくりと目を開けた。
初夏のまぶしい光に、少しだけ目を細める。
「アイナ様が来てくれて本当に良かったですね? エドウィン様」
バードが左右の髪の長さを測りながらにっこり微笑んだ。
「……そうだな」
エドウィンも小さく笑って答える。
「さて、こんな感じでいいでしょうかね」
バードが呟いて、エドウィンの身体にかかるクロスを取り去る。
エドウィンは立ちあがって、大きく伸びをした。
「アイナ様、今日は無事に帰ってこられると良いんですけれど」
「……街に行ってなにかに巻き込まれるのは得意だな」
「困りましたねぇ」
「寄り道しなきゃいいんだけどな」
はあ、と二人は溜息をつき、それからバードは城の中へと入り、エドウィンは箒を持って庭の片付けを始めた。
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