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第23章 passionato
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そんな中、上杉がある噂を聞き付けて来た。
元々大きな商業施設を持たない田舎町にあって唯一の商店街に、新しく飲食店がオープンするというのだ。
大きな町ならば、新しい店が出来るからと言ってそう大々的に騒ぎ立てることでもないが、町民の殆どが顔見知りと言っても過言ではない小さな町では、ちょっとした騒ぎになる。
俺が初めてこの町に降り立った時も、多分に漏れず町を上げての大歓迎を受けたし……
俺達は早速営業の合間の時間を使って、その店がオープン予定の場所へと視察に出向いたが、当然のことながら、オープンまではまだ日数がかかるのか、告知の張り紙はあるものの、看板すらかかっていない状態で……
「仕方ないっすね、もう少し詳細がハッキリしてから出直しますか」
「そうだな」
先に車に乗り込んだ上杉の後を追って車に乗り込むけど、心の片隅に何かが引っかかっていた。
何が……という明確な物ではなかったが、告知の張り紙を見た時、今はもう薄れてしまった記憶を引っ張り出そうと、俺の中の記憶回路が急速に回転を始めた。
ただそれもほんの一瞬のことで……
助手席のドアを閉め、シートベルトをカチッと締めた時には、もうそんなことも忘れ、得意先の担当者の名刺を挟んだファイルを手に取っていた。
もしもその時に、何にそんなに引っかかっていたのか、その正体に気付いていれば……
いや、何も変わらないだろうな。
仮に気付いていたとしたら、せっかちな俺はその先に待ち受ける出来事が待ちきれなくて、きっと後先も考えることなく走り出していたと思う。
尤も、ソイツの正体に気付かなかったことを、俺は後々酷く後悔することになるんだけど。
どうして一目見て気付かなかったのか……
どうして目の前の閉ざされたドアを開かなかったのか……
どうして……
どうして何度も目にした筈の、文字の形を忘れてしまっていたのか、と。
元々大きな商業施設を持たない田舎町にあって唯一の商店街に、新しく飲食店がオープンするというのだ。
大きな町ならば、新しい店が出来るからと言ってそう大々的に騒ぎ立てることでもないが、町民の殆どが顔見知りと言っても過言ではない小さな町では、ちょっとした騒ぎになる。
俺が初めてこの町に降り立った時も、多分に漏れず町を上げての大歓迎を受けたし……
俺達は早速営業の合間の時間を使って、その店がオープン予定の場所へと視察に出向いたが、当然のことながら、オープンまではまだ日数がかかるのか、告知の張り紙はあるものの、看板すらかかっていない状態で……
「仕方ないっすね、もう少し詳細がハッキリしてから出直しますか」
「そうだな」
先に車に乗り込んだ上杉の後を追って車に乗り込むけど、心の片隅に何かが引っかかっていた。
何が……という明確な物ではなかったが、告知の張り紙を見た時、今はもう薄れてしまった記憶を引っ張り出そうと、俺の中の記憶回路が急速に回転を始めた。
ただそれもほんの一瞬のことで……
助手席のドアを閉め、シートベルトをカチッと締めた時には、もうそんなことも忘れ、得意先の担当者の名刺を挟んだファイルを手に取っていた。
もしもその時に、何にそんなに引っかかっていたのか、その正体に気付いていれば……
いや、何も変わらないだろうな。
仮に気付いていたとしたら、せっかちな俺はその先に待ち受ける出来事が待ちきれなくて、きっと後先も考えることなく走り出していたと思う。
尤も、ソイツの正体に気付かなかったことを、俺は後々酷く後悔することになるんだけど。
どうして一目見て気付かなかったのか……
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どうして何度も目にした筈の、文字の形を忘れてしまっていたのか、と。
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