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第20章 delicato
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俺達の間に沈黙が流れる。
いつもお喋りで、いつだって笑顔を絶やさない雅也さんだから、こんなに気まずくて、居心地の悪さを感じることなんて滅多にないから、どうしたら良いのか……
何か話さなきゃって思うけど、そのきっかけさえ見つけられずに、俺はただ俯いていることしか出来なかった。
すると雅也さんが、ずっと手に持っていたグラスをサイドテーブルの上に置き、「そう言えばさ」と何かを思い出したようにポツリ呟いた。
「前にさ、桜木さんが言ってたんだけどね」
『翔真さんが? なんて?』
「智樹じゃなかったら、きっと好きにならなかった、って。好きになったのが智樹だったから、悩みもしたし、当然迷いもしたけど、性別の垣根を取っ払うことが出来たんだ、って」
翔真さんがそんなことを……、知らなかった。
「なあ、智樹?」
『……うん』
「俺も一緒だよ? 桜木さんと一緒」
雅也さんが翔真さんと一緒……?
首を傾げる俺に、雅也さんがクスリと笑う。
「俺もたまたま好きになった相手が潤一で、それが男だったってだけで、もし他の奴が相手だったら、好きになんてならなかっただろうし、きっと今でも俺は女の尻追っかけてたんだと思う」
『それが和人……でも?』
俺の問いかけに、雅也さんがコクリと頷き、そして両腕を枕に、俺の足元に寝転がる。
「それが仮に智樹、お前だったとしても、な?」
『え、お……れ?』
「だってさ、俺さっき素っ裸のお前抱いてここまで運んで来たけどさ、何も感じなかったもん」
寝転がり、顔だけを俺の方に向けた雅也さんが、クスクスと肩を揺らす。
…っていうか、しっかり見られてたってことかよ、恥ずかし……
俺は雅也さんから視線を逸らすように、顔を膝の間に埋めた。
『ねぇ、和人のことが嫌いだったわけじゃないんだよね?』
聞かなくたって答えは分かってる。
雅也さんならきっと……
いつもお喋りで、いつだって笑顔を絶やさない雅也さんだから、こんなに気まずくて、居心地の悪さを感じることなんて滅多にないから、どうしたら良いのか……
何か話さなきゃって思うけど、そのきっかけさえ見つけられずに、俺はただ俯いていることしか出来なかった。
すると雅也さんが、ずっと手に持っていたグラスをサイドテーブルの上に置き、「そう言えばさ」と何かを思い出したようにポツリ呟いた。
「前にさ、桜木さんが言ってたんだけどね」
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翔真さんがそんなことを……、知らなかった。
「なあ、智樹?」
『……うん』
「俺も一緒だよ? 桜木さんと一緒」
雅也さんが翔真さんと一緒……?
首を傾げる俺に、雅也さんがクスリと笑う。
「俺もたまたま好きになった相手が潤一で、それが男だったってだけで、もし他の奴が相手だったら、好きになんてならなかっただろうし、きっと今でも俺は女の尻追っかけてたんだと思う」
『それが和人……でも?』
俺の問いかけに、雅也さんがコクリと頷き、そして両腕を枕に、俺の足元に寝転がる。
「それが仮に智樹、お前だったとしても、な?」
『え、お……れ?』
「だってさ、俺さっき素っ裸のお前抱いてここまで運んで来たけどさ、何も感じなかったもん」
寝転がり、顔だけを俺の方に向けた雅也さんが、クスクスと肩を揺らす。
…っていうか、しっかり見られてたってことかよ、恥ずかし……
俺は雅也さんから視線を逸らすように、顔を膝の間に埋めた。
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聞かなくたって答えは分かってる。
雅也さんならきっと……
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