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第9章 tempo rubato
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松下の運転する社用車でカフェの駐車場に乗り付けた俺は、挨拶もそこそこに車を飛び降りた。
カランとベルの鳴るドアを押し開き、店内に駆け込むなり、視線を巡らせ大田君を探す。時間帯もあってか、店内には若い女性やカップルの姿が目立つ。
その中で、外の光をたっぷりと取り入れることの出来る窓辺の席に座り、フルーツとクリームで飾られたパフェを前に、なんとも複雑な顔をしている彼……
「どうしたの? ここ、皺寄ってるよ?」
俺は静かに彼の座る席に近付くと、彼の眉間を指でスっと撫でた。
すると彼は、俺を見ることなくメニュー表を手に取ると、ブラウニーとビスケットで飾られたチョコレートパフェを指で差した。
「チョコレートパフェがどうしたの?」
俺が聞くと、途端に唇を尖らせ、元々ふっくらとした頬を風船のように膨らませた。
「あ、もしかして、本当はこっちが食べたかった……とか?」
『うんうん!』と、何度も頷く大田君。
そっか……、オーダーを間違えられても、彼はそれを訴えることが出来なかったんだ……
「分かったよ、俺がチョコレートパフェ頼むから、交換しよ?」
正直、甘い物は嫌いではないが、好んで食べる程好きでもない。
しかもパフェなんて……、何年ぶりだよ。
俺は近くにいた店員を呼び寄せると、チョコレートパフェを注文した。
暫くすると、俺の前に如何にも女子の喜びそうな、チョコレートソースがたっぷりとかかったパフェが運ばれて来た。
「はい、どうぞ?」
パフェを大田君の前に置き、ロングスプーンを差し出すと、それを手に頬を綻ばせる大田君。
嬉しいことがあると、人ってこんな顔をするんだ、って改めて思えるような幸せそうな顔で、口には出さないけど、大田君の幸せそうな顔を見ているだけで、俺まで幸せな気分になる。
見とれていたんだろうな……、突然俺の前に差し出されたスプーンにハッと我に返った。
「あ、ありがとう」
俺は受け取ったスプーンでクリームを掬った。
「甘っ……」
想像以上の甘さに、俺は慌ててトッピングされていた林檎を口に放り込んだ。
カランとベルの鳴るドアを押し開き、店内に駆け込むなり、視線を巡らせ大田君を探す。時間帯もあってか、店内には若い女性やカップルの姿が目立つ。
その中で、外の光をたっぷりと取り入れることの出来る窓辺の席に座り、フルーツとクリームで飾られたパフェを前に、なんとも複雑な顔をしている彼……
「どうしたの? ここ、皺寄ってるよ?」
俺は静かに彼の座る席に近付くと、彼の眉間を指でスっと撫でた。
すると彼は、俺を見ることなくメニュー表を手に取ると、ブラウニーとビスケットで飾られたチョコレートパフェを指で差した。
「チョコレートパフェがどうしたの?」
俺が聞くと、途端に唇を尖らせ、元々ふっくらとした頬を風船のように膨らませた。
「あ、もしかして、本当はこっちが食べたかった……とか?」
『うんうん!』と、何度も頷く大田君。
そっか……、オーダーを間違えられても、彼はそれを訴えることが出来なかったんだ……
「分かったよ、俺がチョコレートパフェ頼むから、交換しよ?」
正直、甘い物は嫌いではないが、好んで食べる程好きでもない。
しかもパフェなんて……、何年ぶりだよ。
俺は近くにいた店員を呼び寄せると、チョコレートパフェを注文した。
暫くすると、俺の前に如何にも女子の喜びそうな、チョコレートソースがたっぷりとかかったパフェが運ばれて来た。
「はい、どうぞ?」
パフェを大田君の前に置き、ロングスプーンを差し出すと、それを手に頬を綻ばせる大田君。
嬉しいことがあると、人ってこんな顔をするんだ、って改めて思えるような幸せそうな顔で、口には出さないけど、大田君の幸せそうな顔を見ているだけで、俺まで幸せな気分になる。
見とれていたんだろうな……、突然俺の前に差し出されたスプーンにハッと我に返った。
「あ、ありがとう」
俺は受け取ったスプーンでクリームを掬った。
「甘っ……」
想像以上の甘さに、俺は慌ててトッピングされていた林檎を口に放り込んだ。
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