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第14章

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 あれ程強く照り付けていた太陽も傾き、辺りを茜色に染め始めた頃、俺は漸く腰を上げた。

 「また来るよ。いつ……って約束も出来ないし、そうしょっちゅうは来れないかもしんないけど、必ず会いに来るから……」

 ズボンに着いた砂を払い、リュックを背負った。そして、焼け付いた墓石に刻まれた二文字を、そっと指でなぞった。

 「ねぇ、翔真さん? 翔真さんはさ、俺と一緒にいて、幸せだった? ……俺はね、短い間だったけど、翔真さんと一緒にいられて、幸せだったよ」


例え名前を呼んで貰えなくても……
例え言葉を交わせなくても……

日々変わって行く姿を見るのが、辛いと思ったことだってあった。それでも俺は、翔真さんといられて幸せだった。

 「今度向こうで会った時はさ、俺のこと、ちゃんと雅也って呼んでよね? 約束だよ?」


 俺のこと、忘れないでよ?


 心の中で呟いて、墓石に背を向けた、その時だった。一陣の風が俺の横を通り抜け、風に戦ぐ桜の葉が一枚、ヒラヒラと俺の足元に舞い落ち、

 『一緒にいるから……』

 不意に翔真さんの声が聞こえた気がして、俺は辺りを見回した。

 「翔真さん、ここにいるんだね?」

 俺は足元に落ちた桜の葉を一枚拾い上げ、胸に押し当てた。


『いるよ? 俺はいつだってお前の、雅也の傍にいるから……』
「うん。そうだね、翔真さんはいつだって俺の傍にいるんだよね?」


 ねぇ、翔真さん?
 翔真さんは今、幸せですか?


 「俺の傍にいられて、幸せですか?」


 風に吹かれ、カサカサと葉と葉を擦り合わせる桜の木を見上げた。


 『幸せだよ。お前の傍にいられて、俺は幸せだよ』



 やがて風も止み、長い間止まっていた時計の針が、静かに動き始めた瞬間、俺は漸く一歩を踏み出した。


 俺は一人じゃない。


 俺の傍らには、翔真さん……、桜の葉が舞い散る季節には、いつだってあなたが傍にいてくれるから。


  ~完~
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