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第13章

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 「かなり症状が進んでいるようですね」

 MRIの画像を見ながら、井上先生が眉を潜める。

 「今までのお薬に加えて、今後は中期から後期の症状に適したお薬も併用していきましょうか」

 井上先生がPCのキーボードを叩きながら、「ただ」と少しだけ悲し気な笑顔を俺に向けた。

 「これもどこまで効果を発揮するかは分かりませんが……」

 現代の医学では、症状の緩和や進行を遅らせることは出来ても、完全に治ることはない。

 それは、勉強嫌いが自慢の俺でも、少しずつ学んできたこと。それでも何かに縋りたくて、俺は井上先生に向かって頭を下げた。

 「お願いします」
 「分かりました。では処方箋を用意しますね。あ、あと相原さん?」

 席を立ち、車椅子の向きを変えたところで声をかけられた。

 「大分疲れてるように見えますが、一人で抱え込まず、頼れる人があれば、遠慮せずに頼ることも大事ですよ?」

 眼鏡を外した井上先生の目尻が、優しく下げられる。

 「分かってます。それに俺、疲れてませんから……」

 俺は無理矢理笑顔を張り付けて、井上先生に一礼すると、車椅子を押して診察室を出た。


 疲れてる……か。どんなに装ってみても、井上先生にはお見通し、ってことなんだろうな……


 俺は処方された薬を待つ間、自嘲気味に笑って、一つ息を吐いた。

 実際疲れてないわけじゃなかった。体感的にはそう感じていなくても、心が疲れ切っていた。
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