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第12章
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トボトボと俺の後ろを着いてくる翔真さんを、時折気にしながら歩く駅までの道すがら、俺はある看板が気になって、足を止めた。
『桜祭り開催中』
もうとっくに桜の時期は終わったと思ってたのに、まだ咲いてる場所があるなんて……
「行ってみようか?」
俺は翔真さんを振り返り、右手を差し出した。もしかしたら、もうこの手を握ってくれることはないかもしれないと、そう思ったら、ほんの少しだけ指先が震えた。
「行こ?」
もう一度だけ聞くと、翔真さんは何の躊躇いもなく俺の手を取った。いつものように、ごく自然に。
俺はその手をキュッと握り締めると、看板に記してある矢印の方に足を向けた。
民家すら疎らな田舎町を、ゆっくり……翔真さんの歩く速度に合わせて進み、昼間だというのに擦れ違う人も殆どないまま、俺達は目的の祭り会場に着いた。
祭り会場、とは言っても、街中で見かける屋台が並んで、花見客がいて……なんて光景は全くなくて、賑やかな祭り風景を想像していた俺は、少なからずガッカリと肩を落とすしかなかった。
それでも樹齢何百年と言われる薄墨桜の古木を目にした瞬間、俺はその幻想的な姿に息を呑んだ。
満開の花を咲かせているわけでもないのに……
ともすれば恐怖さえ感じるのに……
どうしてだろう、その桜を見た瞬間、俺は美しいと、間違いなくそう思ったんだ。
『桜祭り開催中』
もうとっくに桜の時期は終わったと思ってたのに、まだ咲いてる場所があるなんて……
「行ってみようか?」
俺は翔真さんを振り返り、右手を差し出した。もしかしたら、もうこの手を握ってくれることはないかもしれないと、そう思ったら、ほんの少しだけ指先が震えた。
「行こ?」
もう一度だけ聞くと、翔真さんは何の躊躇いもなく俺の手を取った。いつものように、ごく自然に。
俺はその手をキュッと握り締めると、看板に記してある矢印の方に足を向けた。
民家すら疎らな田舎町を、ゆっくり……翔真さんの歩く速度に合わせて進み、昼間だというのに擦れ違う人も殆どないまま、俺達は目的の祭り会場に着いた。
祭り会場、とは言っても、街中で見かける屋台が並んで、花見客がいて……なんて光景は全くなくて、賑やかな祭り風景を想像していた俺は、少なからずガッカリと肩を落とすしかなかった。
それでも樹齢何百年と言われる薄墨桜の古木を目にした瞬間、俺はその幻想的な姿に息を呑んだ。
満開の花を咲かせているわけでもないのに……
ともすれば恐怖さえ感じるのに……
どうしてだろう、その桜を見た瞬間、俺は美しいと、間違いなくそう思ったんだ。
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