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第11章

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 翔真さんの症状は、それこそ日によって違って……

 処方された薬の副作用のせいか、日中ウトウトすることもあれば、突然の眩暈で足元がふらついたりして、とにかく目が離せない状態であることは間違いなかった。

 それでも時折昔を思い出すのか、俺に向かって「智樹」と呼びかけることあった。

 その度に俺の胸はキュッと締め付けられるように傷んだ。

 もう自分が誰なのかも分かっていないのに、毎日一緒にいる俺のことだって分からないのに、かつての恋人であった大田先輩のことだけは、ずっと記憶に残っているんだと思ったら、正直悔しかったし、「雅也」って呼んで貰えないことが、酷く寂しかった。


 こんなにも傍にいるのに、どうして?って……


 そのことを井上先生に相談したら、それは若年性アルツハイマー型認知症の特徴の一つで、新しい記憶はどんどん頭の中から消されて行くけど、古い記憶だけはずっと記憶の片隅に留まっているんだと言われた。

 そんなのってないよね?
 俺だって、翔真さんの古い記憶の中には存在してる筈なのに、翔真さんを捨てて、一人で勝手に逃げたあの人が、いまだに翔真さんの心を掴んで離さないなんて、そんなの狡いよ。


 でも向き合わなきゃいけないんだよね、どんなに苦しくても。

 翔真さんはもっと辛い筈だから……
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