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第8章

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 翔真さんの顔が真っ直ぐ見られなかった。

 違うな、不安そうに俺を覗き込む翔真さんの顔を見るのが、辛かったんだ。


 まさか翔真さんが……、俺があれ程憧れた、翔真さんが認知症だって?


 詳しい検査をしてみないと、ハッキリとした診断は出来ない、確かに井上先生はそう言った。ただ簡単なチェックでも、かなりの確率でソレであることは間違いない、とも……

 頭の中がグチャグチャで、翔真さんの手を引いて、二木の車に乗り込むのがやっとで、車が動き出すと同時に、ウトウトし始めた翔真さんの頭を肩に乗せ、車窓の景色に目を向けた。

 「井上さん、何だって?」

 二木とミラー越しに目が合う。

 「ま、その顔見りゃ、大体想像は付きますけどね?」


 なら聞くなよ……


 俺は溜息を一つつくと、ミラーに映る二木から視線を逸らした。

 「でもさぁ、真面目な話……、井上さんの診断が正しかったとして、雅也はどうするつもり?」
 「それなんだよな……」
 
 俺もソレを考えていなかった訳じゃないし、偶然とは言え、関わってしまった以上、このままにしておくつもりもない。
 

 ただどうするのが良いのか……


 「やっぱりちゃんとご両親に話した方が良いでしょうね。我々が面倒を見るのも、おかしな話ですから」

 二木の言うことは、尤もだった。
 認知症だと、仮にでも診断を下された今、最早この人は、俺の知っている桜木翔真であって桜木翔真ではないんだから……
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