上 下
40 / 125
第7章

しおりを挟む
 何とも無機質な空間を、自分よりも少しだけ小柄な男に手を引かれて歩く。


 俺は一体、どこに向かっているんだろう?
 それにこの男は?


 「翔真さん、何飲みます? 奢りますよ?」


 俺に言っているの、か……?


 「あ、あの、コー……」

 不審に思いつつも、聞かれたことに答えようと口を開くが、続く言葉が思うように言えなくて、俺は言葉に詰まってしまう。


 俺は何を言いたかったんだろう……


 「コーヒー? それともコーラ? どっちでもいいですよ?」

 自販機に小銭を入れながら、男が振り返る。

 「じゃ、じゃあ、コーラ、で……」

 男がOKと小さく言って、自販機のボタンを押すと、ガラガラ音を立てながらペットボトルが落ちて来て、男が腰を屈めてそれを手に取った。

 「はい、どうぞ」
 「あ、ありがとう……ございます」

 俺は躊躇いながらも、差し出されたペットボトルを受け取った。

 「そこ、座ります?」

 壁際に置かれたベンチを親指で差し、男がまた俺の手を引いた。

 ベンチに並んで座り、ペットボトルのキャップを捻ると、プシュッと音を立てて、甘さとほんの少しの酸味を含んだ匂いが、鼻をツンとさせた。

 両手で握ったペットボトルに口を付け、ゆっくり傾けると、途端に口の中に広がる強い刺激に、思わず身震いをしてしまう。

 でも、それと同時に、頭の中がスッと冴えて行くような、不思議な感覚がした。

 「火傷、大したことなさそうで良かったですね?」

 男が俺の指に残る赤く腫れた痣を見て、どこか安心したような笑顔を俺に向ける……が、その痣がいつ出来たものなのか、俺にその記憶は、ない。
しおりを挟む
script?guid=on
感想 0

あなたにおすすめの小説

透明の「扉」を開けて

美黎
ライト文芸
先祖が作った家の人形神が改築によりうっかり放置されたままで、気付いた時には家は没落寸前。 ピンチを救うべく普通の中学2年生、依る(ヨル)が不思議な扉の中へ人形神の相方、姫様を探しに旅立つ。 自分の家を救う為に旅立った筈なのに、古の予言に巻き込まれ翻弄されていく依る。旅の相方、家猫の朝(アサ)と不思議な喋る石の付いた腕輪と共に扉を巡り旅をするうちに沢山の人と出会っていく。 知ったからには許せない、しかし価値観が違う世界で、正解などあるのだろうか。 特別な能力なんて、持ってない。持っているのは「強い想い」と「想像力」のみ。 悩みながらも「本当のこと」を探し前に進む、ヨルの恋と冒険、目醒めの成長物語。 この物語を見つけ、読んでくれる全ての人に、愛と感謝を。 ありがとう 今日も矛盾の中で生きる 全ての人々に。 光を。 石達と、自然界に 最大限の感謝を。

余命2ヶ月の俺の青春

希望
ライト文芸
俺は小説を書いて、そこそこ売れている作家だ。両親はいないが、妹と二人で親の遺産と俺の印税でそこそこ小金持ちの生活をしていた。あの診断がでるまではー そう俺は余命2ヶ月のガンの診断を受けた。そして俺は高校を辞めて、誰も悲しませずにひっそりと暮らそうと、千葉の田舎のほうに親の遺産のひとつであるアパートに移り住むことになった。 そして青春しませんかという看板を見つけて、死ぬ前に遺作として、新しい小説を書くのも悪くないなと思い参考にするためその神社を潜った。そして俺はある少女に出会い、最後の青春をして、小説に残し、それが後世に語り継がれる物語となるー。 これは俺と少女の最後の青春である。

家政夫くんと、はてなのレシピ

真鳥カノ
ライト文芸
12/13 アルファポリス文庫様より書籍刊行です! *** 第五回ライト文芸大賞「家族愛賞」を頂きました! 皆々様、本当にありがとうございます! *** 大学に入ったばかりの泉竹志は、母の知人から、家政夫のバイトを紹介される。 派遣先で待っていたのは、とてもノッポで、無愛想で、生真面目な初老の男性・野保だった。 妻を亡くして気落ちしている野保を手伝ううち、竹志はとあるノートを発見する。 それは、亡くなった野保の妻が残したレシピノートだった。 野保の好物ばかりが書かれてあるそのノートだが、どれも、何か一つ欠けている。 「さあ、最後の『美味しい』の秘密は、何でしょう?」 これは謎でもミステリーでもない、ほんのちょっとした”はてな”のお話。 「はてなのレシピ」がもたらす、温かい物語。 ※こちらの作品はエブリスタの方でも公開しております。

蛙の神様

五十鈴りく
ライト文芸
藤倉翔(かける)は高校2年生。小さな頃、自分の住む棚田村の向かいにある疋田村の女の子朱希(あき)と仲よくなる。けれど、お互いの村は村ぐるみで仲が悪く、初恋はあっさりと引き裂かれる形で終わった。その初恋を引きずったまま、翔は毎日を過ごしていたけれど……。 「蛙の足が三本ってなんだと思う?」 「三本足の蛙は神様だ」 少し不思議な雨の季節のお話。

呪縛 ~呪われた過去、消せない想い~

ひろ
ホラー
 二年前、何者かに妹を殺された―――そんな凄惨な出来事以外、主人公の時坂優は幼馴染の小日向みらいとごく普通の高校生活を送っていた。しかしそんなある日、唐突に起こったクラスメイトの不審死と一家全焼の大規模火災。興味本位で火事の現場に立ち寄った彼は、そこでどこか神秘的な存在感を放つ少女、神崎さよと名乗る人物に出逢う。彼女は自身の身に宿る〝霊力〟を操り不思議な力を使うことができた。そんな現実離れした彼女によると、件の火事は呪いの力による放火だということ。何かに導かれるようにして、彼は彼女と共に事件を調べ始めることになる。  そして事件から一週間―――またもや発生した生徒の不審死と謎の大火災。疑いの目は彼の幼馴染へと向けられることになった。  呪いとは何か。犯人の目的とは何なのか。事件の真相を追い求めるにつれて明らかになっていく驚愕の真実とは―――

あの頃のまま、君と眠りたい

光月海愛(コミカライズ配信中★書籍発売中
ライト文芸
美海(みう) 16才。 好きなモノ、 ゲーム全般。 ちょっと昔のアニメ、ゲームキャラ。 チョコレート、ブルーベリー味のガム。 嫌いなモノ、 温めた牛乳、勉強、虫、兄の頭脳、 そして、夜。 こんなに科学も医学も進歩した世の中なのに、私は今夜も睡魔と縁がない。 ーー颯斗(はやと)くん、 君が現れなかったら、私はずっと、夜が大嫌いだったかもしれない。 ※この作品はエブリスタで完結したものを修正して載せていきます。 現在、エブリスタにもアルファポリス公開。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...