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第1章

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「お疲れ、上がっていいぞ」


 歩道まで出て客の車を送り出した俺の肩を、店長が叩く。


 言われて時計を見上げると、全然気にしてなかったけど、退店時刻を僅かに過ぎていた。


「じゃ、お先っす!」


 キャップを取り、軽く頭を下げてからロッカールームに入る。


 タイムカードを押して、すぐさま洗面所に向かった俺は、石鹸とブラシを使って手を洗うけど、すっかり染み付いた油はそう簡単には落ちそうもない。


 仕方なく手を洗うのを諦めて、油に塗れたツナギを脱ぎ、Tシャツとハーフパンツに着替え、汗でしっとりとした前髪を掻き上げ、自前のキャップに被り直すと、俺はロッカールームを飛び出した。


「明日な!」


 店舗の片隅に停めた愛車の原付バイクにキーを差し込む俺に、再び店長の声がかかる。


 「はい、明日! お疲れっす!」


 店長に向かって軽く右手を上げ、前後ろ逆に被ったキャップの上から更にメットを被り、シートに跨ってシリンダーを回し、アクセルを吹かした。


 時刻は午後9時を少し過ぎた頃だ。
 交通量は少なくはなく、過ぎ行く車の列が途切れたところで、タイミングを見計らって大通りに走り出す。

 暫く走った所で赤信号に引っ掛かり、若干の苛立ちを感じつつもバイクを止めると、不意に数メートル先のコンビニの看板が目に入った。



 腹減ったな。弁当でも買って帰るか……



 信号が青に変わったと同時にアクセルを吹かし、コンビニを目指してバイクを走らせ、少し手前でウィンカーを出してバイクをコンビニ駐車場に滑り込ませる。


 つい最近オープンしたばかりのその店は、未だ大袈裟な飾りで俺を迎え入れてくれた。
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