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第8章  009

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 重苦しいような、何とも言えない空気の中、本木を除く全員の視線が、翔真に促されて渋々智樹がポケットから出した一台の携帯電話に集中する。
 翔真自身のプリペイド式携帯電話は、未だに翔真の尻ポケットの中だ。

 それもその筈、翔真は、本木が弘行の携帯電話から送ったメールは、智樹が持っていた携帯電話にのみ送られて来ると思い込んでいたからだ。
 だから自分がもう一台のプリペイド式携帯電話を持っていることは、一切口にしていなかった。

 ところが……

 念の為にと、成瀬がスマホにセットしたタイマーが5分経過を知らせると同時に、テーブルの上と、そして翔真の尻ポケットの中で、携帯電話が鈍い音を響かせながら振動した。

「どうやら時間のようですね」

 本木が智樹の携帯電話を手に取り、智樹に差し出す。

「な、何だよ……」
「どうぞ、確認して下さい」
「お、俺が……か?」
「当然です」

 威圧感こそないものの、眼鏡の奥で光る本木の視線に気圧けおされるように、智樹は躊躇いながらも、差し出された携帯電話を受け取りゆっくりと開いた。

 スマホに比べれば格段に小さな画面に、メールの受信を知らせる通知が表示される。

「マジかよ……」

 携帯電話を持ったまま固まる智樹の横で、翔真も自身の携帯電話をポケットから取り出し、画面を確認した。
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