H･I･M･E ーactressー

第８章 ｓｃｅｎｅ２：ハートのバスタブ

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　フロントに挨拶を済ませ、駐車場へ通じるドアを開けると、途端に吹き付けてくる冷たい風に、僕は思わずフワモコブランケットの端を引き寄せ、早足でワゴン車を目指した。

　「うぅ～、寒いよぉ……」

　露出多めの衣装はとにかく寒くて、早く着替えをしたかったのに……

　「……ったく、人が仕事してんのに、居眠りなんかしやがって。しかもイビキまでかくとは、大した度胸だぜ」

　運転手の城田さんは、ハンドルに足を乗せ、気持ち良さそうに寝てて……

　「おい、起きろ」

　長井さんが運転席の窓を叩くと漸く、驚いたように飛び起きた。

　「あ、ああ、お疲れ様……です……」

　眼光鋭い長井さんに睨まれて一気に眠りから覚めたのか、城田さんが急にシャキーンとした顔で、両手でハンドルを握った。


　ふふ、これじゃまるで蛇に睨まれた蛙だね。


　「大事な商品に風邪でもひかれちゃ困るから、お前先に車乗っとけ」
　「はぁ～い」

　僕は、トランクに荷物を積み込む長井さんを待つことなく車に乗り込むと、早速とばかりに金髪クルクルツインテールのウイッグを外し、リュックから取り出したメイク落としで、顔全体のメイクを拭き取った。

　「はあ……、スッキリした……」

　よく、メイク落としただけで顔が軽くなるって言うけど、それ本当だと思う。
　別にそこまで濃くしてるわけでもないけど、メイク落とした時の爽快感ってゆーか、凄いんだよね。

　ま、僕自身、この仕事を始めてから知ったことなんだけどね？

　「よし、帰るか」

　荷物を積み終えた長井さんが助手席に乗り込み、城田さんがエンジンをかける。
　ヒラヒラと風に揺れるビニール状の暖簾を潜り、薄暗い駐車場から煌びやかな建物を出ると、外はもうすっかり夜の景色になっている。


　どうりで眠くなる筈だよ……


　僕はほぼ丸っと半日ホテルの一室にいた事を、改めて実感した。


　さて、と。
　着替えだけして一眠りするかな♪

　撮影自体は楽しかったし、ＫＡＺＵとのセックスも気持ちよかったけど、ただセックスだけしてりゃ良いってもんでもないから、案外疲れるんだよね……

　明日はレンタルショップのバイトも休みだし、ゆっくりしようっと。