H･I･M･E ーactressー

第６章 ｓｃｅｎｅ２：ファッションホテル

５

　「なんか…凄いね、今日の衣装」

　これまでも可愛い服は色々着て来たけど……、こういうのはもしかしたら初めてかも。
　だってついこの間の撮影はセーラー服だったし、その前は……えっと……


　あ、そうだ思い出した、その前は確かエプロンだけだったんだ！
　下着もなーんも無しに、ピンクのフリフリで丈超短めのエプロンだけ着けてさ……

　あれは流石に恥ずかしかったな。

　それに比べたら……まあ、普通にワンピースだし、普通に可愛いから、うんとマシなんだけどね？


　「まあ、ＫＡＺＵからの指定だからな、ＨＩＭＥなら絶対似合うだろうからって」
　「へえ、そうなんだ……」

　確かに、普段の僕なら絶対にない・・レベルの服だけど、ＨＩＭＥなら…ゲイビ界に彗星の如く現れた男の娘アイドルＨＩＭＥなら確実に似合っちゃうよね。

　僕は手にした衣装を、ビニールに入ったまま裏、表とひっくり返すと、長井さんに見えないように、こっそり笑った。

そしたらさ……

　「おい、ンなもん眺めてニタついてる場合じゃねぇぞ？」

長井さんが後ろを振り返ることなく言うもんだから、僕は一気に顔が熱くなる。


　ってゆーか、長井さんて絶対後ろにも目あるよね？


　「予算の都合上、控え室なんてもんは用意出来てないから、ここで準備済ませなきゃなんねぇからな」
　「え、ここで？」

　いや、出来るよ？
　車もでっかいし、カーテンで目隠しすることだって可能だもん。でもメイクもここで…… ってなると、ちょっと自信ないかも。
　でも予算が……なんて言われちゃったら仕方ないよね。


　僕は小さく肩を落とすと、ダウンを脱いだ。そしてセーターの裾に手をかけ……たところで、バックミラー越しに僕を見る二人の視線に気が付いた。

　「もう、見ないでよね」

　僕は運転席と後部座席の間を隔てるように、カーテンをピシャリと引いた。

　そりゃさ長井さんにも城田さんにも、もう隠す場所なんてないってくらいに全部見られちゃってるけどさ、やっぱり恥ずかしいんだもん。