330 / 369
第26章 Missing heart
8
しおりを挟む
何が悲しくて涙が零れるのか……
俺は理由も分からずに、ただ涙を流し続けた。
「智樹がステージに立つ前、いつも欠かさずしていたことがあるんだ。何か分かるか?」
「さあ……」
当然だ。
ずっと傍で見ていた俺だからこそ知っている智樹の姿を、コイツは知る筈がない。
「アイツな、いつもステージに上がる直前に、決まってお前の写真に向かって言うんだ、行ってくる……ってな。それでステージが終わると、またお前の写真に向かって言うんだよ、ただいま……って」
俺はそんな智樹の姿を、幾度となく見てきた。
どうして俺じゃないんだと……
こんなに近くにいるのに、どうして……っ!
「悔しかったよ。どうやったって死んだ人間には適わねぇからな。どれだけ他の奴に抱かれたとしてもだ」
それが悔恨の念だったのか、それとも単純に思慕の念だったのか……、それは俺には分からない。
それでも確かに智樹の心の片隅には、いつだって松下がいた。
「そん……な。智樹はそんなこと一言も……」
だろうな……、アイツはそう言う奴だ。
この俺にでさえ、アイツは本心を曝け出すことはなかったんだから……
「なあ、松下。教えてくれないか? 智樹は今どこにいる? お前なら何か知ってんだろ?」
わざわざ俺をこんな場所まで呼び付けたんだ、松下は智樹の行方を知っている筈だ。
「来たんだろ? 智樹がここに……」
俺の問いに、松下が無言で頷く。
「やっぱりか。な、頼む、教えてくれ」
俺は両手を台に付け、松下に向かって頭を下げた。
「アイツを……、智樹を失いたくねぇんだ」
いつからだろう……
松下がかつてそうであったように、俺にとって智樹がかけがえのない存在になったのは……
「必要なんだ、智樹が……」
情けない話だが、智樹と離れてみて初めて気が付いたんだ。
俺は智樹がいなきゃ、一人では立ってらんねぇって……
智樹のいない世界では、息をすることすら出来ねぇって……
「愛してんだ、もう智樹無しじゃ生きてけねぇんだ……」
こんなにも誰かを想って涙を流したのは、もしかしたら初めてのことかもしれない。
「負けたよ」
「えっ?」
「アンタには敵わないって言ってんだよ」
「じゃ、じゃあ……?」
「ああ、教えてやる。但し、絶対に智樹を連れ戻すって約束してくれるならな?」
当然だ。
俺は智樹のためなら……
俺は理由も分からずに、ただ涙を流し続けた。
「智樹がステージに立つ前、いつも欠かさずしていたことがあるんだ。何か分かるか?」
「さあ……」
当然だ。
ずっと傍で見ていた俺だからこそ知っている智樹の姿を、コイツは知る筈がない。
「アイツな、いつもステージに上がる直前に、決まってお前の写真に向かって言うんだ、行ってくる……ってな。それでステージが終わると、またお前の写真に向かって言うんだよ、ただいま……って」
俺はそんな智樹の姿を、幾度となく見てきた。
どうして俺じゃないんだと……
こんなに近くにいるのに、どうして……っ!
「悔しかったよ。どうやったって死んだ人間には適わねぇからな。どれだけ他の奴に抱かれたとしてもだ」
それが悔恨の念だったのか、それとも単純に思慕の念だったのか……、それは俺には分からない。
それでも確かに智樹の心の片隅には、いつだって松下がいた。
「そん……な。智樹はそんなこと一言も……」
だろうな……、アイツはそう言う奴だ。
この俺にでさえ、アイツは本心を曝け出すことはなかったんだから……
「なあ、松下。教えてくれないか? 智樹は今どこにいる? お前なら何か知ってんだろ?」
わざわざ俺をこんな場所まで呼び付けたんだ、松下は智樹の行方を知っている筈だ。
「来たんだろ? 智樹がここに……」
俺の問いに、松下が無言で頷く。
「やっぱりか。な、頼む、教えてくれ」
俺は両手を台に付け、松下に向かって頭を下げた。
「アイツを……、智樹を失いたくねぇんだ」
いつからだろう……
松下がかつてそうであったように、俺にとって智樹がかけがえのない存在になったのは……
「必要なんだ、智樹が……」
情けない話だが、智樹と離れてみて初めて気が付いたんだ。
俺は智樹がいなきゃ、一人では立ってらんねぇって……
智樹のいない世界では、息をすることすら出来ねぇって……
「愛してんだ、もう智樹無しじゃ生きてけねぇんだ……」
こんなにも誰かを想って涙を流したのは、もしかしたら初めてのことかもしれない。
「負けたよ」
「えっ?」
「アンタには敵わないって言ってんだよ」
「じゃ、じゃあ……?」
「ああ、教えてやる。但し、絶対に智樹を連れ戻すって約束してくれるならな?」
当然だ。
俺は智樹のためなら……
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?
こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。
自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。
ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?
俺☆彼 [♡♡俺の彼氏が突然エロ玩具のレビューの仕事持ってきて、散々実験台にされまくる件♡♡]
ピンクくらげ
BL
ドエッチな短編エロストーリーが約200話!
ヘタレイケメンマサト(隠れドS)と押弱真面目青年ユウヤ(隠れドM)がおりなすラブイチャドエロコメディ♡
売れないwebライターのマサトがある日、エロ玩具レビューの仕事を受けおってきて、、。押しに弱い敏感ボディのユウヤ君が実験台にされて、どんどんエッチな体験をしちゃいます☆
その他にも、、妄想、凌辱、コスプレ、玩具、媚薬など、全ての性癖を網羅したストーリーが盛り沢山!
****
攻め、天然へたれイケメン
受け、しっかりものだが、押しに弱いかわいこちゃん
な成人済みカップル♡
ストーリー無いんで、頭すっからかんにしてお読み下さい♡
性癖全開でエロをどんどん量産していきます♡
手軽に何度も読みたくなる、愛あるドエロを目指してます☆
pixivランクイン小説が盛り沢山♡
よろしくお願いします。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
男の子たちの変態的な日常
M
BL
主人公の男の子が変態的な目に遭ったり、凌辱されたり、攻められたりするお話です。とにかくHな話が読みたい方向け。
※この作品はムーンライトノベルズにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる