S/T/R/I/P/P/E/R ー踊り子ー

誠奈

文字の大きさ
上 下
303 / 369
第25章   End of Sorrow

しおりを挟む
 きっかけは些細な事だった。

 ある意味、手違いと言った方が正しいのかもしれない。
 ただ、それが智樹の心の扉を開くきっかけになるなんて、その時の俺は思ってもなかった。


 たまたま仕事を持ち帰った俺は、元々一人暮らしには広過ぎるダイニングテーブルを陣取り、PC自前のを開いた。
 佐藤の家に居候してからというもの、どんなに忙しくても、どんなに遅くなっても、仕事を持ち帰ることはしなかった。
 仕事に没頭すると、周りで何が起きていても、全くと言っていい程意識がそちらに向かくなってしまうのが理由だ。
 尤も、仕事だけに集中出来る環境ならば、それでもいい。

 でも佐藤の家ではそうはいかない。PCの画面を見ながらも、俺の意識はどうしても智樹に向いてしまう。


 当然、仕事なんて手に着く筈もなく……


 「俺の書斎使うか?」

 思わず溜息を漏らした俺を見るに見兼ねてか、佐藤が声をかけてくれたが、俺はその申し出を丁重に断った。
 どんな状況であっても、智樹の傍を離れたくなかった。
 智樹がそこにいさえすれば、それだけで心から安心出来たし、例え仕事が捗らなかったとしても、それはそれで良かった。

 俺は常に視界の端に智樹を捉えながら、PCに保存されている音楽ファイルを開いた。
 智樹が姿を消した直後に入店した、何人かの新人ダンサーが近々デビューすることが決まり、普段ならあまりしないことだが、そのデビューステージで使用する曲のセレクトを、新人ダンサー自ら依頼してきたからだ。

 俺はいくつもあるファイルを上から順に開いては、使えそうな曲を何曲かピックアップしていった。


 最初っからヘッドフォンでもしておけば良かったんだよな……


 まさかタイトル不明のファイルを開いた瞬間、あの曲が流れ出すなんて、全く予想もしていなかった。

 いや、そもそも俺自身封印した筈のあの曲が、PCの中に保存されていることすら知らなかったし、データとして残っているとも思っていなかった。おそらくは雅也が記録用として保存したんだと思う。


 俺以外に、このPCのパスワードを知っているのは、雅也しかいないから……


 ただ、そうならそうと、何故言ってくれなかったのか……
 そうすれば、こんな些細なミスが最悪の事態を招くことはなかったのに……
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

好きな人に迷惑をかけないために、店で初体験を終えた

和泉奏
BL
これで、きっと全部うまくいくはずなんだ。そうだろ?

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

処理中です...