S/T/R/I/P/P/E/R ー踊り子ー

第20章 Omen

２

　「ところで、光司。 お前、どうして智樹が倒れたことを知った？」

　俺達を目的地に運ぶためだけに雇われた運転手である光司達は、俺達が仕事をしている間一切部屋に立ち入ることはしない……いや、寧ろ出来ない。
　それは柳も同じで、俺達が仕事を終えるまで、運転手はロビーで待つか、専用の車で待つことがルールになっている。
　だから、智樹が倒れたことを光司が知るには、智樹が直接光司に電話を入れるか、若しくは客自ら……ってことになるけど、それだってよっぽど光司自身が客から信頼されていなければ有り得ない話だ。
　でも智樹のあの様子を見る限り、自分から光司に電話をしたとは到底思えなかった。

　「それは、あの……、ある方から連絡を貰って……」
　「ある方って？」

　他言しないよう、よっぽどきつく言われているのか、光司は落ち着きなく目を泳がせ、口を開こうとはしない。
　そりゃそうだ、もし光司が個人的に客と連絡を取り合ってる、なんてことがオーナーの耳にでも入ったら、光司は確実に酷い目に合わされることは目に見えている。
　現に、柳が俺に付く以前にいた運転手は、客の情報を外に漏らしたことが原因で、拷問紛いの折檻を受けたと聞いている。


　まあ、それだって噂の域を出ないんだけど……


　「誰にも言わないからさ。な、光司？」

　俺を信じてくれ。

　「分かりました。でも絶対に誰にも言わないで下さいね？」

　暫く考えた後、光司は大きく息を吐き出し、首を振った。

　「実は、俺に連絡をくれたとは、佐藤様なんです」
　「佐藤様って、智樹の客の？」

　確か、セックスもろくにしないのに、随分と可愛がって貰ってると、智樹から聞いたことがある。


　でもその佐藤がどうして……？


　「えっ、でもどうして佐藤様が？」

　俺達が持たされている携帯は、発信はおろか着信にも制限がかけられていて、特定の相手にしか繋がらないようになっている。
　俺自身、柳を介さないと光司とは直接連絡を取ることも出来ないし、実際俺が智樹が倒れたことを聞かされたのは、柳からだった。
　それを考えれば、智樹が佐藤と取り合う、なんてことは現実的に不可能な筈だ。

　「そうなんですよね、だから俺も何がどうなってるのか、さっぱり分からなくて」

　光司は首を傾げると、もう一度ドアに視線を向けた。