S/T/R/I/P/P/E/R ー踊り子ー

第17章 Betrayal

６

　しんと静まり返った部屋にノックの音が響いて、俺は開場の時間が迫っていることに気付いた。
　それは雅也も同様で。

　「行かなきゃ……ね」

　副支配人の役職上、俺の代わりに雅也が劇場の管理をすることは少なくはない。

　演出上の機材や、大小の道具の点検、ダンサー達の手配確認なんかもその中に含まれているから、余程信頼出来る相手じゃない限り、任せられる仕事じゃない。

　雅也はノロノロとした動作でソファーから腰を上げると、自分を鼓舞するためか、両頬を手のひらで叩いた。

　「じゃ俺先行くね」

　眉尻を下げ、今にも泣き出しそうな顔に無理矢理笑顔を作り、ドアノブに手をかけた雅也の肩が小刻みに震える。


　それ程、和人のことを……


　だとしたら、俺の頭に今浮かんでいる仮定は口にしない方が良いだろう。


　これ以上、雅也を苦しめる必要はない。
　そして俺もこれ以上苦しむ必要はない。


　「なあ、雅也」
　「ん、何？」

　なのに、何の意味もなく呼びかけた俺の声に振り向いた雅也の泣き顔を見た瞬間、そんな考えは見事に消え失せた。

　「もしも……だ、和人も智樹も、最初っからそのつもりだったとしたら……」
　「それ……、どう言う意味？」
　「いや、あくまで俺の想像なんだが、二人が示し合わせてた……、とは考えられねぇか？」
　「は？　何バカなこと言ってんの？　あの二人に限ってそんなこと……」

　普段は、調子に乗って羽目を外すことはあっても、決して取り乱したり、声を荒らげたりしない雅也が、珍しく負の感情を露わにする。
　でも、俺の口は止まることはなく……

　「大体、タイミング良すぎだろ。和人が、その……茂美さんの店から行方晦ましたのと、智樹が出てったのってほぼ同時だろ？　俺らの知らない所で、二人が連絡取り合ってたって考えるのが普通じゃね？」

　自分でも驚く程、饒舌に動いた。

　「何……、言ってんの？」
　「だからさ、俺ら騙されたんだよ」

　そうじゃなきゃ、こんなこと説明の付けようがない。


　そう自分の気持ちに折り合いを付けかけた、その時……

　「ふざけんなっ！」

　涙……だろうか、雅也の濡れた拳が、鈍い痛みと共に俺の左頬を掠めた。