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10 終

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「おはよ」

「おはよう」



「今朝、風さみーなー」

「そうだね」



「つーか、今ほんとに3月かよー。もう春とか嘘じゃね?さみーし全然卒業式日和じゃねーし」

「ははは」

「そう思わねえ?」

「そうだね、ふふ」



3月、中学の卒業式の日の朝。
偶然、成巳なるみと会った。

俺達はたわいもない会話をして笑い合いながら歩いた。

最後に歩く通学路は、今までの3年間で1番、短く感じた。



やがて駅に向かう道と中学へと向かう分かれ道で俺達は立ち止まって、向かい合った。



「…じゃあな」



俺は先に声をかけ、背を向けて歩き出そうとする。



その時だった。



古川ふるかわ」 



「…!」



呼び止められて俺は足を止め、振り返った。



「…卒業、おめでとう」



「…!!」

俺は成巳を見つめる。

「…じゃ」

成巳は微笑んでそう言うと、駅の方角へと歩き出した。



「…坂巻さかまき!」



思わず呼び止めると、成巳はゆっくりと振り返って俺を見る。



「…ありがと。………またな」



俺は必死に笑顔を作って言った。



「…うん。…またね」



成巳はさっきよりも更に優しく俺を見つめて微笑みながら言った。

そして、前を向いて再び歩き出した。



何でだろう。

笑ってるのに。

何だか泣きそうな顔に見えたのは気のせいかな。





俺は成巳の背中を見送る。

小さくなるまで。

見えなくなるまで。

本当に見えなくなるまで。



何も変わらない。

表面上は。

だけど変わってしまった。

俺達はお互いを名前で呼ばなくなった。



「…っ」



ギュッと唇を噛み締める。

気付くと目から涙が溢れて止まらなかった。

式よりも前にフライングで泣くとか、ダサすぎだろ、俺。



「…成巳…っ…」



呟いた名前を冷たく吹き荒ぶ風が掻き消して、濡れた俺の頬と全身を冷やしていく。



だけど胸の真ん中は熱くて、熱くて、どうしようもないくらい熱くて。



その熱がどうしようもなく、大事だと思った。





ねえ、成巳。

あの日、夢の中で、キスしてくれたよね。



ねえ、成巳。

あの日、俺の手から引き離した成巳の手は微かに震えてた気がするんだ。

どうして?




ねえ、成巳。

ゆい、って呼んでよ。

もう一度。

ねえ。

呼んでよ。

名前、呼んでよ。





呼んでよ。





成巳。
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