3 / 11
2
しおりを挟む
「成巳くんは偉いね、年下の子にも優しくしてあげて」
「成巳くんは本当に頼りになるね」
「成巳くんって頭良くてカッコいいよね」
子供の頃、周りの大人や友達によくそう言われたけど、そんなことはなかったと思う。
別に他の子を蔑ろにしたりしなかったけど、でも俺が関心を持って優しくしてるのは結だけで、結だけが特別だった。
年下でいつも一緒に居るのは結だけだったから、そう見えていたのかもしれない。
俺は結の笑った顔が見たくて、結が困ってると必ず助けたくなった。
結が元気になるように、結の不安を少しでも失くしたくて結の為に出来る精一杯のことをしたいと思い、とにかく背筋だけはしっかりと伸ばして結がちゃんと俺に頼れるように振る舞おうと心掛けていた。
そして、具体的に結の為に出来ることは何なのか、いつも頭をフル回転させて最善の方法を考え出そうと必死だった。
俺の行動の中心にはいつも結が居た。
俺は、結のことが可愛くて可愛くて堪らなかったから。
「今日はもも組さんとひまわり組さんで遊びまーす」
良く晴れて日差しが心地良かったある春の日。
幼稚園ではささやかな交流が行われていた。
「ねー、遊ぼー」
気が付くとひまわり組の男の子と女の子数人が俺の周りを取り囲み、誰かがスモックをくいくいと引いている。
「うん、いいよ」
俺は笑って快諾し、みんなで一緒に遊び始める。
絵を描いたり、折り紙をしたり、穏やかな時間が過ぎていった。
「…」
ふと前を見ると、1人の男の子が教室の前側、真ん中にオルガンが置かれている辺りで窓の方を向いて俯き、立ち尽くしていた。
「…?」
どうしたのかな。
俺は気になってしばらくその子を見つめていた。
「あ」
俺は思わずポツリと声を出す。
見る見るうちに彼の足元が濡れていく。
「…!」
俺はガタンと立ち上がり、周りの子達が不思議そうに俺を見たり、どこに行くの?と声をかけてきたのを気に留めずに教室の後ろ、廊下側の端に置かれた掃除用具の入れてあるロッカーへと小走りで向かう。
ガタンと扉を開き、バケツと雑巾を取り出す。
そして後ろのドアから廊下を出て、目の前の流し場でバケツに水を半分ほど入れ、前のドアから教室の中に戻る。
「せんせえー!来てー!!」
「…」
事態に気付いた同じ組の友達の1人が大声で囃し立てていた。
「あらあら!結くん、お兄さんとお姉さんの中で緊張しちゃったかなー?大丈夫よー、今、拭くからねー」
先生は俺に気付かず、掃除用具を取りに行くとそのまま後ろのドアから出て行った。
「…」
ゆい、っていうのか、あの子。
綺麗な名前だな。
俺は率直にそう思った。
「わー!ばっちー!ばっちー!逃げろー!」
触発されて周りのみんなも混乱して騒ぎ立てる。
「…」
俺は彼の背中を見つめる。
小さな体はガタガタと震えていた。
「…」
まだ周りが騒いでる中、俺はバケツを持って彼の元に駆け寄る。
「…」
背後からそっと顔を覗き込むとその子は目をギュッと閉じ、歯を食いしばりながらボタボタと涙を零していて俺の存在に気付いていない。
少し大きめのスモックの裾をギュッと両手で握り、顔を真っ赤にして止めどなく溢れ出る涙をそれでもなお必死に堪えてるように見えた。
俺はその場にしゃがんでバケツを置き、雑巾をギュッと硬く絞って手早く床を吹き始める。
「…」
しばらくして俺は頭上から視線を感じ、見上げる。
彼は真っ赤になった目から涙を零し、驚いたような表情で目を見開き、俺をじっと見下ろしていた。
その目がとても、綺麗だと思った。
「…大丈夫?」
俺は声をかける。
彼はピクと小さな体を反応させて口を微かに開き、パチパチと瞬きを数回すると口をキュッと結んでコクリと頷いた。
あ、可愛い。
すごく。
顔も。
表情も。
全身も。
仕草も。
何もかもが。
俺は体の中心から全身が熱くなるのを感じ、彼を見つめながら優しく微笑んだ。
「成巳くんは本当に頼りになるね」
「成巳くんって頭良くてカッコいいよね」
子供の頃、周りの大人や友達によくそう言われたけど、そんなことはなかったと思う。
別に他の子を蔑ろにしたりしなかったけど、でも俺が関心を持って優しくしてるのは結だけで、結だけが特別だった。
年下でいつも一緒に居るのは結だけだったから、そう見えていたのかもしれない。
俺は結の笑った顔が見たくて、結が困ってると必ず助けたくなった。
結が元気になるように、結の不安を少しでも失くしたくて結の為に出来る精一杯のことをしたいと思い、とにかく背筋だけはしっかりと伸ばして結がちゃんと俺に頼れるように振る舞おうと心掛けていた。
そして、具体的に結の為に出来ることは何なのか、いつも頭をフル回転させて最善の方法を考え出そうと必死だった。
俺の行動の中心にはいつも結が居た。
俺は、結のことが可愛くて可愛くて堪らなかったから。
「今日はもも組さんとひまわり組さんで遊びまーす」
良く晴れて日差しが心地良かったある春の日。
幼稚園ではささやかな交流が行われていた。
「ねー、遊ぼー」
気が付くとひまわり組の男の子と女の子数人が俺の周りを取り囲み、誰かがスモックをくいくいと引いている。
「うん、いいよ」
俺は笑って快諾し、みんなで一緒に遊び始める。
絵を描いたり、折り紙をしたり、穏やかな時間が過ぎていった。
「…」
ふと前を見ると、1人の男の子が教室の前側、真ん中にオルガンが置かれている辺りで窓の方を向いて俯き、立ち尽くしていた。
「…?」
どうしたのかな。
俺は気になってしばらくその子を見つめていた。
「あ」
俺は思わずポツリと声を出す。
見る見るうちに彼の足元が濡れていく。
「…!」
俺はガタンと立ち上がり、周りの子達が不思議そうに俺を見たり、どこに行くの?と声をかけてきたのを気に留めずに教室の後ろ、廊下側の端に置かれた掃除用具の入れてあるロッカーへと小走りで向かう。
ガタンと扉を開き、バケツと雑巾を取り出す。
そして後ろのドアから廊下を出て、目の前の流し場でバケツに水を半分ほど入れ、前のドアから教室の中に戻る。
「せんせえー!来てー!!」
「…」
事態に気付いた同じ組の友達の1人が大声で囃し立てていた。
「あらあら!結くん、お兄さんとお姉さんの中で緊張しちゃったかなー?大丈夫よー、今、拭くからねー」
先生は俺に気付かず、掃除用具を取りに行くとそのまま後ろのドアから出て行った。
「…」
ゆい、っていうのか、あの子。
綺麗な名前だな。
俺は率直にそう思った。
「わー!ばっちー!ばっちー!逃げろー!」
触発されて周りのみんなも混乱して騒ぎ立てる。
「…」
俺は彼の背中を見つめる。
小さな体はガタガタと震えていた。
「…」
まだ周りが騒いでる中、俺はバケツを持って彼の元に駆け寄る。
「…」
背後からそっと顔を覗き込むとその子は目をギュッと閉じ、歯を食いしばりながらボタボタと涙を零していて俺の存在に気付いていない。
少し大きめのスモックの裾をギュッと両手で握り、顔を真っ赤にして止めどなく溢れ出る涙をそれでもなお必死に堪えてるように見えた。
俺はその場にしゃがんでバケツを置き、雑巾をギュッと硬く絞って手早く床を吹き始める。
「…」
しばらくして俺は頭上から視線を感じ、見上げる。
彼は真っ赤になった目から涙を零し、驚いたような表情で目を見開き、俺をじっと見下ろしていた。
その目がとても、綺麗だと思った。
「…大丈夫?」
俺は声をかける。
彼はピクと小さな体を反応させて口を微かに開き、パチパチと瞬きを数回すると口をキュッと結んでコクリと頷いた。
あ、可愛い。
すごく。
顔も。
表情も。
全身も。
仕草も。
何もかもが。
俺は体の中心から全身が熱くなるのを感じ、彼を見つめながら優しく微笑んだ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
幼馴染から離れたい。
June
BL
アルファの朔に俺はとってただの幼馴染であって、それ以上もそれ以下でもない。
だけどベータの俺にとって朔は幼馴染で、それ以上に大切な存在だと、そう気づいてしまったんだ。
βの谷口優希がある日Ωになってしまった。幼馴染でいられないとそう思った優希は幼馴染のα、伊賀崎朔から離れようとする。
誤字脱字あるかも。
最後らへんグダグダ。下手だ。
ちんぷんかんぷんかも。
パッと思いつき設定でさっと書いたから・・・
すいません。
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
ハッピーエンド
藤美りゅう
BL
恋心を抱いた人には、彼女がいましたーー。
レンタルショップ『MIMIYA』でアルバイトをする三上凛は、週末の夜に来るカップルの彼氏、堺智樹に恋心を抱いていた。
ある日、凛はそのカップルが雨の中喧嘩をするのを偶然目撃してしまい、雨が降りしきる中、帰れず立ち尽くしている智樹に自分の傘を貸してやる。
それから二人の距離は縮まろうとしていたが、一本のある映画が、凛の心にブレーキをかけてしまう。
※ 他サイトでコンテスト用に執筆した作品です。
君が好き過ぎてレイプした
眠りん
BL
ぼくは大柄で力は強いけれど、かなりの小心者です。好きな人に告白なんて絶対出来ません。
放課後の教室で……ぼくの好きな湊也君が一人、席に座って眠っていました。
これはチャンスです。
目隠しをして、体を押え付ければ小柄な湊也君は抵抗出来ません。
どうせ恋人同士になんてなれません。
この先の長い人生、君の隣にいられないのなら、たった一度少しの時間でいい。君とセックスがしたいのです。
それで君への恋心は忘れます。
でも、翌日湊也君がぼくを呼び出しました。犯人がぼくだとバレてしまったのでしょうか?
不安に思いましたが、そんな事はありませんでした。
「犯人が誰か分からないんだ。ねぇ、柚月。しばらく俺と一緒にいて。俺の事守ってよ」
ぼくはガタイが良いだけで弱い人間です。小心者だし、人を守るなんて出来ません。
その時、湊也君が衝撃発言をしました。
「柚月の事……本当はずっと好きだったから」
なんと告白されたのです。
ぼくと湊也君は両思いだったのです。
このままレイプ事件の事はなかった事にしたいと思います。
※誤字脱字があったらすみません
ひとりぼっちの180日
あこ
BL
付き合いだしたのは高校の時。
何かと不便な場所にあった、全寮制男子高校時代だ。
篠原茜は、その学園の想像を遥かに超えた風習に驚いたものの、順調な滑り出しで学園生活を始めた。
二年目からは学園生活を楽しみ始め、その矢先、田村ツトムから猛アピールを受け始める。
いつの間にか絆されて、二年次夏休みを前に二人は付き合い始めた。
▷ よくある?王道全寮制男子校を卒業したキャラクターばっかり。
▷ 綺麗系な受けは学園時代保健室の天使なんて言われてた。
▷ 攻めはスポーツマン。
▶︎ タグがネタバレ状態かもしれません。
▶︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる