上 下
36 / 43
序章:平穏の終わり

6/3(火):ダンジョンの脅威

しおりを挟む
「……学人?」

 輝夜の隣でスマホを触っていると輝夜が目を覚ました。

「おはよう。気分はどうだ?」
「……平気よ。スッキリしているわ。でもお腹が空いた」
「おかゆを作ってくるな」
「ちょっと待って。まだ十四時じゃない。どうしてダンジョンに行ってないのかしら?」
「目標レベルには達したし、話したいことがあったからな」
「達した?」

 輝夜は不思議そうな顔をして俺のステータスを見ている感じだった。

「……まだ目がおかしいのかしら」

 目をこすったり凝らしたりしている輝夜も可愛い。

「レベルが2625なら俺も見ているレベルだな」
「……どうやったらこんなレベルになるのかしら?」
「ブラッディドラゴンが出てきたんだよ。しかも一体につき十万のEXPを貰えたから狩りまくってたらこんなことになったな。それに他のモンスターもガチで倒していた」

 大体のEXPはブラッディドラゴンだったから四千体ほど倒して四億か。俺がそれだけ手に入ったらこんなレベルになるわけだ。

「……私のペースで行けばいいわね」
「そうだぞ。俺は四億手に入るだけでこんなにレベルが上がるんだから気にするだけ無駄だ」
「でも……追いつきたいと思うのだから気にしないわけにはいかないわ」

 くはっ、こういうところが可愛いんだよな。こういう一途なところがいい。

「今は体を休めることだけを考えろ。着替えも必要だろ」
「そう言えば汗をかいているわね。でも体は思った以上に軽いわ」
「どうする? おかゆじゃなくておにぎりとかを食べるか?」
「……お願いするわ。思った以上にお腹が空いているわ」

 ぎゅるるるるっという音が輝夜から聞こえてきて輝夜は赤面する。

「随分と可愛らしい主張だ」
「……学人に聞かれても恥ずかしいわ……」
「そう聞かないからな」
「学人のお腹の音も聞かせてちょうだい!」
「また今度な」

 輝夜が好きな梅を入れておにぎりを握る。俺も食べようかと多目に炊いていて良かった。

「はい、できたぞ」
「ありがとう」

 輝夜は美味しそうにおにぎりを頬張る。

「美味しいわ」
「それは良かった」

 俺のご飯を食べる時の輝夜は本当に幸せそうな顔をする。こういうところも可愛いところだ。

「食べながら聞いてくれ。輝夜が寝ている間に起こったことを話しておくぞ」
「っぐ。えぇ、分かったわ」
「俺はダンジョン都市に行って新たにヴェノムビーが出てきたんだ」
「っ!? ……ヴェノムビーが出るのね」

 ヴェノムビーの名前を聞いた瞬間に驚いた顔をして食べているものを飲み込んで口を開いた。

「そうだ。それでヴェノムビーから解析のアビリティと解毒、浄化、初級ヒールの魔法が出たわけだが、魔法の三つで状態異常回復の魔法をアイテムシンセシスで作り出すことができた」
「……それで私を治してくれたのかしら?」
「あぁ。状態異常回復で輝夜を治した後に解析を習得して輝夜の症状を見たんだが、そこで487型って出た」
「別の世界も合わせた症状の数字なのかしら? それともその数字が順番ではなく数字自体に意味があるのか」
「そこは知らないが、この話の大事なところはここからだ。朝日奈さんから連絡があって、愛理と東雲さんも同じような症状が出て未知のウイルスであることが判明した」
「ッ!? ……そう。ダンジョン由来の未知の病気があるということね」
「そういうことだな。それで昨日一緒にいた俺と輝夜はどうかと聞かれて、輝夜も治したこともあって愛理と東雲さんのところに転移で行って二人を治してきた」

 そのことを聞いて輝夜は深刻そうな顔をしたり幸せな顔をしたりと感情変化が激しかった。

「待って、学人はどうだったのよ」
「俺も自分を解析したら感染してたみたいだけど排除してたぞ」
「ステータスが強すぎるのか学人に免疫があるのか分からないわね……」
「実際、どこら辺までHPの範囲なんだろうな。そこも検証していきたいところだ」
「そうね。でもHPの高さが感染するかどうか影響しているのなら、私のステータスで感染しているのだから相当強力ということね」
「だろうな。それに全く別の世界、別の生態で存在しているウイルスなのだからこちらに免疫があるわけがない」
「例の日に軍勢がダンジョンから出てくるのとはまた別の問題があるのね……」
「それについては考えても仕方がない」

 大軍が襲来するだけでも大変なのにな。ダンジョン都市の情報だとLv100が推奨レベルだと書かれていたが相手の強さはあまり分かっていない。

 もし相手の強さがLv100で倒せる強さであるならば、俺がすべて問題なく斬り伏せることができる。まあそれ以上の情報はなさそうだから考えても無駄だな。

「ごちそうさま」
「おそまつさま」

 おにぎり六個をペロリと平らげた輝夜。ヒールでは体力は回復できてもお腹を回復させることはできないからそれくらい消耗していたのだろう。

 でも報酬でお腹を満たしたり排泄を消したりする能力は出ているから長期戦はできそうだ。でもこれでずっと生きていくのは娯楽がなくて苦しくなる。食もまた楽しみのひとつだからな。

「そう言えばダンジョンの中ってこの世界には存在しない植物があるんだっけ」
「そうよ。世界各地のダンジョンで見つかってその研究が行われているみたいだけれど、一つとして同じ生態はないようね」
「やっぱり世界が違うんだな」
「それを知っていれば不思議ではないけどダンジョンはすべて同じだとか繋がっているとか言っているやつらにはずっと説明できないことね」

 汗をかいている輝夜がお風呂に入っている間にスマホをいじっていると愛理から電話が来た。

「はい、新月です」
『あっ、学人くん? 今日はありがとうね!』
「気にするな。パーティの仲間だからそのくらいはする」
『輝夜さんは大丈夫かな?』
「あぁ輝夜はもう元気だぞ。愛理と東雲さんはどうだ?」
『私たちも学人くんのおかげですっかり元気だよ!』
「それは良かった」

 輝夜が治っているのだから当然っちゃ当然か。

「今日はゆっくり休むんだぞ」
『それはもう周りからも言われているから私でもそうするよ! でも家は色々と忙しそうだから抜け出せそうかも』
「そう言えば東江家に行った時に少し忙しそうだったな。どうしてだ?」
『えっ? 学人くんの話で忙しくなっているんだよ?』
「話って、あの大軍が攻め込んでくる話だよな?」
『そうだよ』

 ホントにあの話を源三郎さんにでも言ったんだな。それはいいんだが愛理が信じても源三郎さんたちが信じたのか?

「信じてもらったのか?」
『そういう前兆はあるみたいだよ。各地で一階層のモンスターがいなくなったり揺れが起こったり。学人くんが持ってきてくれたボトルでも、私たちが感染したウイルスとかもそれを信じる要因になったんだって』
「へぇ、そうなのか」

 俺がダンジョン都市のカギを手に入れたのがその要因だと思ってくれているのか。実際のところどうなんだろうな。

 俺的にはスライムを千体ほど倒してなおかつ俺のLUKの数値が高かったからダンジョン都市に行けるようになったと思っている。

 まあ信じてもらえる要因になったのならそれでいいけど。

「忙しいって何をしているんだ?」
『うーん……物資の確保とか人員の再配置とかかな。色々とやってるみたいだよ』

 俺も物資を手に入れた方がいいな。何せ俺にはアイテムボックスがあるのだから! 今なら何と容量が5300もあるのだからな! 詰め込み放題だ。

 アイテムボックスではお馴染みの設定である時間が経過しないというのは検証済みだ。朝作ったお弁当が全く冷えていなかったのだから時間という概念がないのだと思う。いやそれは言い過ぎか。ゆるやかかもしれない。

 だからそこら辺もしっかりと検証していこう。

「愛理も忙しいのか?」
『全然だよ! だから明日もダンジョンに行こうかなって思ったんだけど止められちゃった……ハァ』
「大人しくしているんだな」
『……輝夜さんはどうなの?』
「明日は行くと思うぞ」
『ずるいずるいずるい! 私も行きたいよ!』
「くはっ、そうだろうな」
『……明日、何時に行くつもりなのかな? 念のために聞いておくね』
「九時とか十時だな。まあ頑張れ」
『頑張るね! 頑張るためにも今から寝ておくね! おやすみなさい!』
「あぁ、おやすみ」

 愛理との通話が切れた。

 これはもしかしなくても明日は来るんだろうな。それを東雲さんに伝えるかどうか。伝えてもいいけど東雲さんも病み上がりだからな。

 まあ、変に一緒にいないよりはましか。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し
ファンタジー
 ダンジョン菌が人間や物をダンジョン化させてしまう世界。ワクチンを打てば誰もがスレイヤーになる権利を与えられ、強化用のクエストを受けられるようになる。  しかし、ワクチン接種で稀に発生する、最初から能力の高いエリート種でなければクエストの攻略は難しく、一般人の佐嶋康介はスレイヤーになることを諦めていたが、仕事の帰りにコンビニエンスストアに立ち寄ったことで運命が変わることになる。

お兄様のためならば、手段を選んでいられません!

山下真響
ファンタジー
伯爵令嬢のティラミスは実兄で病弱の美青年カカオを愛している。「お兄様のお相手(男性)は私が探します。お兄様を幸せするのはこの私!」暴走する妹を止められる人は誰もいない。 ★魔力が出てきます。 ★よくある中世ヨーロッパ風の世界観で冒険者や魔物も出てきます。 ★BL要素はライトすぎるのでタグはつけていません。 ★いずれまともな恋愛も出てくる予定です。どうぞ気長にお待ちください。

【画像あり】転生双子の異世界生活~株式会社SETA異世界派遣部・異世界ナーゴ編~

BIRD
ファンタジー
【転生者モチ編あらすじ】 異世界を再現したテーマパーク・プルミエタウンで働いていた兼業漫画家の俺。 原稿を仕上げた後、床で寝落ちた相方をベッドに引きずり上げて一緒に眠っていたら、本物の異世界に転移してしまった。 初めての異世界転移で容姿が変わり、日本での名前と姿は記憶から消えている。 転移先は前世で暮らした世界で、俺と相方の前世は双子だった。 前世の記憶は無いのに、時折感じる不安と哀しみ。 相方は眠っているだけなのに、何故か毎晩生存確認してしまう。 その原因は、相方の前世にあるような? 「ニンゲン」によって一度滅びた世界。 二足歩行の猫たちが文明を築いている時代。 それを見守る千年の寿命をもつ「世界樹の民」。 双子の勇者の転生者たちの物語です。 現世は親友、前世は双子の兄弟、2人の関係の変化と、異世界生活を書きました。 画像は作者が遊んでいるネトゲで作成したキャラや、石垣島の風景を使ったりしています。 AI生成した画像も合成に使うことがあります。 編集ソフトは全てフォトショップ使用です。 得られるスコア収益は「島猫たちのエピソード」と同じく、保護猫たちのために使わせて頂きます。 2024.4.19 モチ編スタート 5.14 モチ編完結。 5.15 イオ編スタート。 5.31 イオ編完結。 8.1 ファンタジー大賞エントリーに伴い、加筆開始 8.21 前世編開始 9.14 前世編完結 9.15 イオ視点のエピソード開始 9.20 イオ視点のエピソード完結 9.21 翔が書いた物語開始

俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。 見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。 最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!? しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!? 剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ
ファンタジー
大陸の端に存在する小国、ボーンネル。 バラバラとなったこの国で少女ジンは多くの仲間とともに建物を建て、新たな仲間を集め、国を立て直す。 そして同時にジンを中心にして世界の歯車は動き出そうとしていた。 これはいずれ一国の王となる少女の物語。

処理中です...