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序章:平穏の終わり

5/30(金):久しぶりの東京ダンジョンへ

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「はい、録音の通りです」

 昨日のことを上司に電話で伝えて休みを取っている輝夜。説明を終えて電話を切る輝夜。

「休めそうか?」
「えぇ。引き継ぎも会社に行かなくていいことになったわ。それに今日は休みでもいいと言われたわ」
「それなら良かった。それじゃあ行くか」
「えぇ。行きましょう」

 今のところ装備を必要としない俺とは違い、輝夜は魔法士の杖と賢者のローブを身に着けていた。

『魔法士の杖
 ランク:6
 装備可能レベル:30
 ATK:30
 RES:50
 MP+200
 魔法威力増加
 耐久:100/100』
『賢者のローブ
 ランク:9
 装備可能レベル:155
 DEF:490
 RES:320
 MP+1000
 魔力自動回復
 耐久:500/500』

「転移するか」
「お願いするわ。時間がもったいないもの」

 輝夜の手を取り東京ダンジョンのロビーに転移する。

「転移の魔法は便利ね。大抵創作の中では転移はその能力を工夫しなくても強いわよね」
「そりゃ使える人が限られているからな」
「それがモンスターのドロップアイテムではないことが残念だわ」
「習得していた方が便利だもんな。でもMPが50からというのが少し厳しいか」
「この杖とローブがなければ一回しか使えなかったところよ」
「レベル制限がシステムが見えている俺だけにしか意味がなくて良かった」

 今装備している杖とローブ、どちらも輝夜は装備できている。レベルが達していないはずだがちゃんとステータスにはMPとDEFとRESが増えていた。

 だからたぶん俺の次にステータスがヤバい人になっていると思う。

「こうして一緒に入るのは大学生の時以来ね」
「大学を卒業してからは行けなかったもんな」
「さすがに社会人一年目は行けないわよ。行けたとしても二年目からだったけれど、まさかやめれるとは思わなかったわ」

 俺と輝夜は会話しながら一階層に降りる。

「まずはEXPの検証だな」
「えぇ。EXP超ブーストがどの段階で増えるかの検証ね」

 今EXP超ブーストは輝夜に貸し出している。

 それから俺は魔弾と念話、輝夜は魔弾と魔力操作と念話を習得している状態でダンジョンに臨んでいる。

 今日は輝夜の気分転換がメインだが検証も兼ねている。

「おっ、スライムが来たぞ」
「……私、スライム嫌いなのよね」

 スライムが三体ほど出てきてげんなりとした表情をする輝夜。

「そう言えば俺とスライム狩りを付き合っていたらスライムが嫌いになったんだっけか」
「学人のせいではないのだけれど姿を見るだけに吐き気がするわ。ウォーターバレット」

 輝夜は早々にスライムを水魔法の弾で倒した。そして重要なのがこの後の経験値だ。

「いくつもらえた? 俺は1だ」
「私は300だったわ」
「パーティでのEXP配分は二人なら半分。EXP超ブーストは獲得した人にブーストされるのか」
「そういうことね。でもスライム三体で300は嬉しいわね」
「まあ下に行った方がもっと貰えるからそっちに行くぞ」
「そうね」

 ワクワクが止まらない感じの輝夜。今回俺は輝夜との冒険を楽しむだけになりそうだ。

 どうやら倒した人のLUKでドロップアイテムが決まるっぽいからドロップアイテムも魔石しかない。それでも輝夜がレベル上げできるのなら全然構わない。

 一階層を軽く抜け二階層のスライムとチンアントを狩りまくる輝夜。スライムは姿を見た瞬間に殺している。

 俺は輝夜が危なそうだったら手を出そうかと思っていたが全くその感じがなかった。

「魔法使いなのに全く前衛がいらないな」
「相手が弱いからそうでしょうね。相手が面白いくらいに簡単に倒すことができるわ。それもこの杖とローブのおかげね」
「輝夜のおかげで武具が誰でも使えるということが分かった。レベルが低くてもサブステータスがなくても強い武器が使えれば関係ないからな」
「そうね。学人の強そうな武器も使えるということよね?」
「この剣王の魔剣か?」

 アイテムボックスから剣王の魔剣を取り出す。

「使ってみてもいいかしら?」
「いいぞ」

 剣王の魔剣の切っ先を下にして輝夜に渡そうとする。輝夜が持ち手を持ったことで俺が手を放した瞬間に剣が地面に突き刺さった。

 それを持ち上げようとする輝夜だが全く地面から抜くことができない。

「お、重いわね」
「重いか? いや重いか」

 そう言えば自身の筋力が異常になっていたことを思い出した。

「その状態でステータスは……ちゃんとATKが上がっているな」
「上がっているけれど持ち上がらないことには意味がないわね……! 抜けないわ」
「装備可能レベルが一部ではあるのかと思ったがそんなことはなかったな」

 俺は剣王の魔剣を簡単に引き抜いた。

「学人の身体能力は異常になっているわね」
「そうだな。だてに六千もHPがあるからな」
「それに比べれば私は身体能力は上がりにくいということね」
「でもMPがあるからな。魔法使いみたいじゃないか」
「魔法剣士タイプが一番ステータスがお得なのかもしれないわね」
「尖っていないだけだ」

 全体的にバランスがいいステータスをしているからな。

「尖っている方がパーティは組みやすいだろうな。それこそ俺と相性がいいということだ」
「物は言いようね。でも好きだわ」
「それは何よりだ」

 三階層、四階層もモンスターを見つけ次第殺している輝夜。少し数が多くなったりメタルトータスが出れば俺も参戦して難なく五階層に到達することができた。

「確か五階層で東江家のご令嬢と遭遇したのよね?」
「あぁ、そうだ。だからここからは俺も初めてだ」

 俺がボコった三人はどうなったのだろうか。まあどうでもいい話だ。

「ここからは立体地図を展開してもいいか?」
「例の秘密の部屋ね。もちろんいいわよ」

 三階層で見つけた秘密の部屋は輝夜には伝えていた。というか今日あったことはお互いにほぼ話しているから知らないことが珍しい。

「私もその部屋を見たいわ。本当に秘密の部屋になっているのよね?」
「あぁ。一見すれば分からないな。だから見つけたいんだよな。でもどれだけその部屋があるのかは全く分からない」
「これからたくさんダンジョンに行けば分かるわよ」
「くはっ、そうだな」

 仕事から解放された輝夜がいるのだからこれからはダンジョン遠征も可能ということだ。

「おっ、サイレンウルフだ。初めて見た」
「私もよ」

 輝夜は四階層までしか行っていないから五階層で初めて出てくるサイレンウルフを初めて見ている。

 狼の大きさではなくクマの大きさをしている狼で三体で出てきた。そして奴らがサイレンウルフと呼ばれている通り、俺たちを見つけた途端にダンジョンに響き渡る音で吠えた。

「ここはコンビとして俺が前衛で行く」
「えぇ。ようやくパーティらしいことができるわね」

 すでに出ているモンスターたちがこちらに来て壁から出てくるモンスターもいる。チンアント、ハイピジン、ゴブリンが出てきて完全に囲まれた。

 こういうことになるからサイレンウルフは倒すなと言われているところだ。だが俺と輝夜なら問題ない。

 俺はソロでの戦闘しか今まで経験していないがここでパーティでの戦いを学ぶ。絶対に輝夜に傷をつけさせない。

 まず最初に来るのはハイピジンだし、次に警戒するのはアーチャーゴブリンとメイジゴブリンだ。

「飛剣」
「魔弾」

 俺の飛剣でハイピジンとその後方にいるサイレンウルフを斬り伏せ、輝夜は魔弾をモンスターが多い場所に放つ。

「カッター」

 感知でモンスターの位置を把握しているから背後から来ているチンアントを風魔法で切り裂く。

 魔法のいいところはどんな体勢からでも放てるということだ。それに魔法を放っている間に体勢を整えることができる。

「魔法の使い方が上手いわね」
「何千体とモンスターを倒していないからな!」
「こう、かしら」

 さっきまで魔力操作した魔弾しか撃っていなかったが属性魔法を使い始めた。属性魔法はかなり融通が利くから魔弾よりも上手く魔法を使っているように見える。

「属性魔法は使いやすいわね! でも威力は魔弾の方がいいわ!」
「魔法使いらしくなってきたんじゃないか?」

 輝夜は属性魔法と魔弾を複数使用してモンスターたちを一掃している。俺もそんな輝夜に負けじと魔法剣士としてモンスターを狩る。どうせ輝夜のEXPになるのだから俺が倒そうが輝夜が倒そうが関係ないのだから今だけは思いっきりやることにした。

「やりすぎよ。私の出番がなくなったじゃない」
「いや、盛り上がってしまったから……ごめん」

 俺のステータスかつ混戦に慣れている状態で思いっきりやれば速攻で終わることは分かり切っていたことだ。

「まあこれだけの差があると分かったからいいわ。でも少しくらいは私の経験をちょうだいね」
「あぁ、次から気を付ける」

 でも少しだけ輝夜にいいところを見せられたから満足している俺がいるのは確かだ。

「あれ、学人くん……?」
「ん? ……東江か」

 話しかけてきた人は一昨日で会ったばかりの東江愛理だった。
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