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序章:平穏の終わり

5/22(木):才能ナシから才能アリへ

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 家事をすべて終わらせて輝夜が帰ってくるまでの間チンアントのドロップアイテムとレベル到達報酬を確認する。

 チンアントのドロップアイテムは中級土魔法、初級土魔法、鳥特効、念話の四つもあった。

 スライムの時と同じで三種類かと思っていたが違うらしい。

 初級土魔法が九十八個、中級土魔法が七十二個、鳥特効が三十五個、念話が四個の合計二百九個。

 この割合が本来のドロップ割合なんだろうな。だけど俺が欲しいものを望めばおそらくLUKでそれが多く出てくるようになるのだろう。ゲームの中のLUKよりも凶悪だ。

 レベル到達報酬はLv25の時は『守護騎士』、Lv30の時は『オートガード』、Lv35の時は『弓兵の目』、Lv40の時は『中級ヒール』、Lv45の時は『気配遮断』、Lv50の時は『浄化』、Lv55の時は『魔法士の杖』とかなり貰えている。

 あまり統一性がないからランダムになっているのだろうか。でもかなり強いものばかりだから普通に嬉しいけど。

「おっ」

 感知を習得していて輝夜の気配を知っているから輝夜が家に近づいているのを感知した。

 これはかなり便利なアビリティだから輝夜たちに覚えてほしいのだがアイテムショップで売られているのか確認していない。

 そういう確認をする前にレベル上げをしてしまうくらいにはモンスターを倒すことにハマっている俺。

 ダンジョン都市に行かないと分からないのがネックだな。手元のシステムで済ませれば楽だが、そういう贅沢は言わないでおこう。罰が当たりそう。

「ただいま」
「おかえり、輝夜」

 輝夜が帰ってきたため玄関に向かった。

「その顔、いつもより満足そうね。ダンジョン都市に行けたのね?」
「あぁ行けた! すごく楽しかった!」

 輝夜はいつものように俺に前から抱き着いてきて手と足を俺の後ろに回した。

「スンスン……何でお風呂に入ったのかしら?」
「かなり汗を流したからな」
「その状態で待ってなさいっていつも言っているでしょう?」
「それをしたら家が臭くなるっていつも言っているだろ?」
「それがいいのよ! 高校の時もそれで部屋にいてくれたじゃない!」

 輝夜はかなりのにおいフェチだ。俺の汗なんて臭いだけなのにそれがいいといつも嗅ごうとしてくる。

 それにプラスして甘えても来るからこうして帰ってきた時は抱っこしてリビングまで運んでいる。

「輝夜が良くても俺は自分の汗がしみ込んだ家にいたくない」
「……それは困るわね」
「輝夜が休みの日は臭いを補充しているんだから許してくれ」
「……帰ってきた時の私のリラックス成分なのよ。……下は匂いがこもっているんじゃないかしら?」
「それは後でな」
「ハァ、仕方がないわね。脱いだ靴下とかシャツで補充するわ」
「やめてくれ。それをするくらいなら俺が今から筋トレして汗をかくから」
「お願いするわ」

 ここで断らないのが輝夜の本気度が伺える。でも今の俺の体の状態を知りたいから筋トレを始めることにした。

「輝夜? 少しやりずらいから引っ付くなら上に座ってくれないか?」
「えぇ、分かったわ」

 腕立て伏せをするために輝夜が俺の上に座る。いや座っているのではなく重なっている。

 足は俺の側面につけ俺の首筋に鼻先をつけているのが分かる。

 いつもの冒険者ライフなら丁度良く汗をかいているからお風呂に入らずに汗を嗅いでもらっていたがこの生活が続くのなら俺は帰ってきて輝夜が帰ってくる時間ぐらいに汗をちょうどかいていないといけなくなるわけだ。

 それはそれで楽しそうだからいいか。

「……何だかいつもよりはやいわね」
「分かるか?」
「当たり前よ。学人よりも学人のことを知っているもの」
「それは嬉しい限りだ。レベルが上がったからな」
「レベルはいくつになったのかしら?」

 面と向かい合っていないが距離がゼロだからそんなこと気にならず今日の話題に移る。

「聞いて驚け、Lv55だ」
「……15?」
「五、十、五だ」
「……一日が一年の場所にいた?」
「そんなわけ。そんなところだったとしたら輝夜と一緒の時間を過ごせなくなるんだからすぐに出て来るぞ」
「そ、そうよね。それならダンジョン都市で何があったの?」
「簡単に言えば、経験値が百倍になって、スキルとアビリティと魔法が習得できるアイテムがドロップするようなダンジョンだった」
「そんな世界が存在するのねぇ……」

 いい感じに汗をかいてきたところで輝夜は体全体に俺のにおいを充満させるために首筋に顔をうずめて深呼吸をする。

 ダンジョン都市の話よりもまずこちらの方が大事らしいから俺も気にせずに筋トレを終わらせて輝夜が満足するまでうつ伏せでジッと待つ。

「はぁ……満足」
「それは何よりだ。一緒にお風呂に入るか?」
「もちろん入るわ」

 甘えん坊な輝夜とは毎日お風呂に入っている。家が隣同士なこともあって小学生の時から一緒にお風呂に入っていた。用事がない限りはずっとだ。

 それが思春期の時でも変わらず続いていたから父親から「学人の思春期はどこに行ったんだろうね」とか言われた。

 好きな人とお風呂に入ることは嬉しいからそんなことを言われても訳が分からなかった。中学校の時にクラスメイトから嫉妬か何かでバカにされていたが鼻で笑ってやった。

 というわけで洗いっこをして気持ちよくなりつつお風呂から出た。

「ん~! 美味しいわ!」
「ありがとう」

 オムライスを食べて破顔している輝夜に俺も頬が緩む。

「それよりもさっき言っていたことは本当なの? 経験値が百倍でスキルとかが覚えれるアイテムがドロップするって。……よく考えればそんなアイテムあるの?」

 夕食を食べ終えて一息ついている輝夜だがさっき俺が言ったことを思い出してようやく理解したようだった。

 さっきは俺の臭いに夢中で頭に話は入っていたようだけど理解はしていなかったみたいだ。

「これがそのアイテムだ。初級水魔法を習得できるぞ」

 アイテムボックスから初級水魔法のボトルを取り出した。

「……どこから出したの?」
「システムが解放されたみたいでアイテムボックスも手に入ったんだ」
「それもチートね。で、これは飲んでもいいの?」
「もちろん。まだまだあるから気にせず飲んでくれ」
「まだまだあるのね……いただくわ」

 輝夜は遠慮せずにボトルを飲み干した。

「……ストロベリー味なのね」
「俺の時はグレープ味だったから好きな味になるんだと思うぞ」
「不思議ね」
「どういう原理かは分からないけど好きな味になることは飲みやすい。で、どうだった?」
「そ、そうね。見てみるわ」

 幼馴染みの俺だから分かるが、今の輝夜は興奮している状態だ。

 悟らせないようにしている輝夜はステータス画面を見ている様子だった。

「……あ、あるわ……」
「そうか。それなら良かった」

 このアイテムがダンジョン都市に入った人しか効果がないという最悪の状況も考えていたがそうはならなくて良かった。

「ほ、本当よね……?」

 サブステータスは一切変わることがないと常識として否定されていたから信じられない様子の輝夜。

「風呂場で水魔法を使ってみたらどうだ? 何となく分かるとは思うが念じれば使えるぞ」
「そ、そうね……一緒に行きましょう」
「あぁ」

 一緒にお風呂場に向かって入り口の前に立つ輝夜。俺はその後ろで見守る。

「ど、どれくらい出るのかしら……?」
「このお風呂場は余裕で埋め尽くせるから注意した方がいいな」
「わ、分かったわ」

 最初はダンジョンでやった方がいいのだろうが、輝夜が我慢できるわけがないからお風呂場でやる。

「ウォーター」

 輝夜の突き出した手のひらから水が勢いよく出てきた。

「で、出たわ! 出たわよ学人!」
「あぁ、おめでとう」

 これまでに一、二を争うくらいに嬉しそうな顔をしている輝夜は俺に抱きついてきた。

「これで一緒に冒険ができるな」
「……えぇ、本当にそうね……できるとはあまり思っていなかったわ」
「俺もこんなことができるとは思っていなかったな。だから俺も冒険者をやめて働こうと思っていた時があったな」
「そんなことをしようものなら私は許さなかったわよ。私の夢を背負っていたのだから。でも今はそんなことどうでもいいことね」
「あぁ、このアイテムがあれば俺たちは堂々と冒険者になれる」

 俺と輝夜はリビングに戻っていつものようにあすなろ抱きをして座る。

「くふっ、水魔法は使い勝手が良さそうね」
「そうだな。でもまだ渡すものがあるぞ」
「どういうこと? この水魔法以外にもあるの?」
「あるよ」

 とても興味津々な顔で振り返って俺を見てくる輝夜。

「紙に書くからちょっと待ってくれ」
「いくらでも待つわ」

 今あるドロップアイテムを紙に書き出す。

 中級火魔法、初級水魔法×九、中級水魔法×三十、初級土魔法×九十八、中級土魔法×七十二、上級土魔法×三、虫特効×九、鳥特効×三十五、初級ヒール、中級ヒール、魔弾、浄化、衝撃収出、詠唱、念話×四、守護騎士、オートガード、弓兵の目、気配遮断、魔法士の杖。

「……もう天下を取れるわね」
「まだまだだろ。初日でこれなんだからもっとできる」
「……学人のその異常性はこの状況と上手いこと噛み合っているわね。無理をしていないのならいいのだけれど」
「無理なんてしていない。むしろまだまだやり足りないくらいだ」
「これはダンジョン都市の時間を制限しないといけないかしら……?」
「それはやめてくれ。普通のダンジョンに行く時間と同じなんだから」
「それでこれはすごいわね。本当にダンジョン都市ってどういうところなのかしら」
「あっ、輝夜がダンジョン都市に行けるのか知りたかったんだ」
「そうね。行けるのなら私も行きたいわ」

 リビングから廊下に出る扉でダンジョン都市のカギを使った。

 ダンジョン都市の中は一切暗くならない様子だった。ここに一日中いれば昼夜感覚がなくなりそうだ。夢中になるから。

「入れるか?」
「……何かそこにあるの? 私には全く見えないわ」
「扉が開いているのも見えないのか?」
「しまっている扉しか見えないわ」
「それなら俺が入るからな」
「えぇ」

 靴を持ってきて靴を履きながらダンジョン都市に入る。

「どうだ?」

 俺がそう言っても輝夜は立っているだけで何も返事はなかった。

「これはどう見えているんだ?」

 顔だけ扉から出して輝夜に問いかける。

「扉から顔が出ているわね。今写真を撮るわ」
「スマホでビデオ通話できないのか試すか」
「はい、ヘッド」

 写真を撮られるのだからキメ顔をしてからダンジョン都市から一度出る。

「ほら、こんな風になっているわよ」
「おぉ、本当に頭だけだ」

 俺のスマホを持ってもう一度ダンジョン都市に入る。

「……圏外か」

 まあそりゃそうか。ダンジョン都市が何かの力が発揮して通話ができるかと思ったがそんなことはなかった。

 普通のダンジョンでも少しでも入れば圏外になってしまう。ダンジョンに移住する計画を立てていたり通話ができるようにするとか言われているらしいが今のところは提案段階だ。

 俺は家で待っている綺麗な輝夜の写真とダンジョン都市の写真を数枚撮ってダンジョン都市から出てカギをしめた。

「俺からは輝夜はこう見えてたぞ。それにこれがダンジョン都市の写真だ」
「へぇ……こんなところなのね。行けなくて残念だわ」
「大丈夫だ、俺がその分頑張ってくるから。それでダンジョンに行こう」
「えぇ、そうするわ」
「いつ仕事を辞めるんだ?」
「……いきなりはできないわよ。仕事の引き継ぎやお金もまだ心もとないわ」

 すごく真っ当なことを言っているのは分かる。それで俺が養ってもらっていたからな。

「分かった、なら俺が五千万貯めたら仕事をやめて俺について来てくれ」
「五千万……一億円はほしいところだけれど、分かったわ」
「輝夜はどれだけためれば気が済むんだよ」
「そもそもこれを売ればお金になりそうね」
「いやいや、危ないだろ。これを悪用されれば世界が混乱するし俺たちの身も危なくなる」
「そうでしょうね。だからこれを売るのではなくて魔石や素材を売る方向がいいわね」
「それで一億か……まあどうにかなるだろ」

 ダンジョン都市にこもってばかりではどうにもできなさそうだな。
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