5 / 43
序章:平穏の終わり
5/22(木):才能ナシから才能アリへ
しおりを挟む
家事をすべて終わらせて輝夜が帰ってくるまでの間チンアントのドロップアイテムとレベル到達報酬を確認する。
チンアントのドロップアイテムは中級土魔法、初級土魔法、鳥特効、念話の四つもあった。
スライムの時と同じで三種類かと思っていたが違うらしい。
初級土魔法が九十八個、中級土魔法が七十二個、鳥特効が三十五個、念話が四個の合計二百九個。
この割合が本来のドロップ割合なんだろうな。だけど俺が欲しいものを望めばおそらくLUKでそれが多く出てくるようになるのだろう。ゲームの中のLUKよりも凶悪だ。
レベル到達報酬はLv25の時は『守護騎士』、Lv30の時は『オートガード』、Lv35の時は『弓兵の目』、Lv40の時は『中級ヒール』、Lv45の時は『気配遮断』、Lv50の時は『浄化』、Lv55の時は『魔法士の杖』とかなり貰えている。
あまり統一性がないからランダムになっているのだろうか。でもかなり強いものばかりだから普通に嬉しいけど。
「おっ」
感知を習得していて輝夜の気配を知っているから輝夜が家に近づいているのを感知した。
これはかなり便利なアビリティだから輝夜たちに覚えてほしいのだがアイテムショップで売られているのか確認していない。
そういう確認をする前にレベル上げをしてしまうくらいにはモンスターを倒すことにハマっている俺。
ダンジョン都市に行かないと分からないのがネックだな。手元のシステムで済ませれば楽だが、そういう贅沢は言わないでおこう。罰が当たりそう。
「ただいま」
「おかえり、輝夜」
輝夜が帰ってきたため玄関に向かった。
「その顔、いつもより満足そうね。ダンジョン都市に行けたのね?」
「あぁ行けた! すごく楽しかった!」
輝夜はいつものように俺に前から抱き着いてきて手と足を俺の後ろに回した。
「スンスン……何でお風呂に入ったのかしら?」
「かなり汗を流したからな」
「その状態で待ってなさいっていつも言っているでしょう?」
「それをしたら家が臭くなるっていつも言っているだろ?」
「それがいいのよ! 高校の時もそれで部屋にいてくれたじゃない!」
輝夜はかなりのにおいフェチだ。俺の汗なんて臭いだけなのにそれがいいといつも嗅ごうとしてくる。
それにプラスして甘えても来るからこうして帰ってきた時は抱っこしてリビングまで運んでいる。
「輝夜が良くても俺は自分の汗がしみ込んだ家にいたくない」
「……それは困るわね」
「輝夜が休みの日は臭いを補充しているんだから許してくれ」
「……帰ってきた時の私のリラックス成分なのよ。……下は匂いがこもっているんじゃないかしら?」
「それは後でな」
「ハァ、仕方がないわね。脱いだ靴下とかシャツで補充するわ」
「やめてくれ。それをするくらいなら俺が今から筋トレして汗をかくから」
「お願いするわ」
ここで断らないのが輝夜の本気度が伺える。でも今の俺の体の状態を知りたいから筋トレを始めることにした。
「輝夜? 少しやりずらいから引っ付くなら上に座ってくれないか?」
「えぇ、分かったわ」
腕立て伏せをするために輝夜が俺の上に座る。いや座っているのではなく重なっている。
足は俺の側面につけ俺の首筋に鼻先をつけているのが分かる。
いつもの冒険者ライフなら丁度良く汗をかいているからお風呂に入らずに汗を嗅いでもらっていたがこの生活が続くのなら俺は帰ってきて輝夜が帰ってくる時間ぐらいに汗をちょうどかいていないといけなくなるわけだ。
それはそれで楽しそうだからいいか。
「……何だかいつもよりはやいわね」
「分かるか?」
「当たり前よ。学人よりも学人のことを知っているもの」
「それは嬉しい限りだ。レベルが上がったからな」
「レベルはいくつになったのかしら?」
面と向かい合っていないが距離がゼロだからそんなこと気にならず今日の話題に移る。
「聞いて驚け、Lv55だ」
「……15?」
「五、十、五だ」
「……一日が一年の場所にいた?」
「そんなわけ。そんなところだったとしたら輝夜と一緒の時間を過ごせなくなるんだからすぐに出て来るぞ」
「そ、そうよね。それならダンジョン都市で何があったの?」
「簡単に言えば、経験値が百倍になって、スキルとアビリティと魔法が習得できるアイテムがドロップするようなダンジョンだった」
「そんな世界が存在するのねぇ……」
いい感じに汗をかいてきたところで輝夜は体全体に俺のにおいを充満させるために首筋に顔をうずめて深呼吸をする。
ダンジョン都市の話よりもまずこちらの方が大事らしいから俺も気にせずに筋トレを終わらせて輝夜が満足するまでうつ伏せでジッと待つ。
「はぁ……満足」
「それは何よりだ。一緒にお風呂に入るか?」
「もちろん入るわ」
甘えん坊な輝夜とは毎日お風呂に入っている。家が隣同士なこともあって小学生の時から一緒にお風呂に入っていた。用事がない限りはずっとだ。
それが思春期の時でも変わらず続いていたから父親から「学人の思春期はどこに行ったんだろうね」とか言われた。
好きな人とお風呂に入ることは嬉しいからそんなことを言われても訳が分からなかった。中学校の時にクラスメイトから嫉妬か何かでバカにされていたが鼻で笑ってやった。
というわけで洗いっこをして気持ちよくなりつつお風呂から出た。
「ん~! 美味しいわ!」
「ありがとう」
オムライスを食べて破顔している輝夜に俺も頬が緩む。
「それよりもさっき言っていたことは本当なの? 経験値が百倍でスキルとかが覚えれるアイテムがドロップするって。……よく考えればそんなアイテムあるの?」
夕食を食べ終えて一息ついている輝夜だがさっき俺が言ったことを思い出してようやく理解したようだった。
さっきは俺の臭いに夢中で頭に話は入っていたようだけど理解はしていなかったみたいだ。
「これがそのアイテムだ。初級水魔法を習得できるぞ」
アイテムボックスから初級水魔法のボトルを取り出した。
「……どこから出したの?」
「システムが解放されたみたいでアイテムボックスも手に入ったんだ」
「それもチートね。で、これは飲んでもいいの?」
「もちろん。まだまだあるから気にせず飲んでくれ」
「まだまだあるのね……いただくわ」
輝夜は遠慮せずにボトルを飲み干した。
「……ストロベリー味なのね」
「俺の時はグレープ味だったから好きな味になるんだと思うぞ」
「不思議ね」
「どういう原理かは分からないけど好きな味になることは飲みやすい。で、どうだった?」
「そ、そうね。見てみるわ」
幼馴染みの俺だから分かるが、今の輝夜は興奮している状態だ。
悟らせないようにしている輝夜はステータス画面を見ている様子だった。
「……あ、あるわ……」
「そうか。それなら良かった」
このアイテムがダンジョン都市に入った人しか効果がないという最悪の状況も考えていたがそうはならなくて良かった。
「ほ、本当よね……?」
サブステータスは一切変わることがないと常識として否定されていたから信じられない様子の輝夜。
「風呂場で水魔法を使ってみたらどうだ? 何となく分かるとは思うが念じれば使えるぞ」
「そ、そうね……一緒に行きましょう」
「あぁ」
一緒にお風呂場に向かって入り口の前に立つ輝夜。俺はその後ろで見守る。
「ど、どれくらい出るのかしら……?」
「このお風呂場は余裕で埋め尽くせるから注意した方がいいな」
「わ、分かったわ」
最初はダンジョンでやった方がいいのだろうが、輝夜が我慢できるわけがないからお風呂場でやる。
「ウォーター」
輝夜の突き出した手のひらから水が勢いよく出てきた。
「で、出たわ! 出たわよ学人!」
「あぁ、おめでとう」
これまでに一、二を争うくらいに嬉しそうな顔をしている輝夜は俺に抱きついてきた。
「これで一緒に冒険ができるな」
「……えぇ、本当にそうね……できるとはあまり思っていなかったわ」
「俺もこんなことができるとは思っていなかったな。だから俺も冒険者をやめて働こうと思っていた時があったな」
「そんなことをしようものなら私は許さなかったわよ。私の夢を背負っていたのだから。でも今はそんなことどうでもいいことね」
「あぁ、このアイテムがあれば俺たちは堂々と冒険者になれる」
俺と輝夜はリビングに戻っていつものようにあすなろ抱きをして座る。
「くふっ、水魔法は使い勝手が良さそうね」
「そうだな。でもまだ渡すものがあるぞ」
「どういうこと? この水魔法以外にもあるの?」
「あるよ」
とても興味津々な顔で振り返って俺を見てくる輝夜。
「紙に書くからちょっと待ってくれ」
「いくらでも待つわ」
今あるドロップアイテムを紙に書き出す。
中級火魔法、初級水魔法×九、中級水魔法×三十、初級土魔法×九十八、中級土魔法×七十二、上級土魔法×三、虫特効×九、鳥特効×三十五、初級ヒール、中級ヒール、魔弾、浄化、衝撃収出、詠唱、念話×四、守護騎士、オートガード、弓兵の目、気配遮断、魔法士の杖。
「……もう天下を取れるわね」
「まだまだだろ。初日でこれなんだからもっとできる」
「……学人のその異常性はこの状況と上手いこと噛み合っているわね。無理をしていないのならいいのだけれど」
「無理なんてしていない。むしろまだまだやり足りないくらいだ」
「これはダンジョン都市の時間を制限しないといけないかしら……?」
「それはやめてくれ。普通のダンジョンに行く時間と同じなんだから」
「それでこれはすごいわね。本当にダンジョン都市ってどういうところなのかしら」
「あっ、輝夜がダンジョン都市に行けるのか知りたかったんだ」
「そうね。行けるのなら私も行きたいわ」
リビングから廊下に出る扉でダンジョン都市のカギを使った。
ダンジョン都市の中は一切暗くならない様子だった。ここに一日中いれば昼夜感覚がなくなりそうだ。夢中になるから。
「入れるか?」
「……何かそこにあるの? 私には全く見えないわ」
「扉が開いているのも見えないのか?」
「しまっている扉しか見えないわ」
「それなら俺が入るからな」
「えぇ」
靴を持ってきて靴を履きながらダンジョン都市に入る。
「どうだ?」
俺がそう言っても輝夜は立っているだけで何も返事はなかった。
「これはどう見えているんだ?」
顔だけ扉から出して輝夜に問いかける。
「扉から顔が出ているわね。今写真を撮るわ」
「スマホでビデオ通話できないのか試すか」
「はい、ヘッド」
写真を撮られるのだからキメ顔をしてからダンジョン都市から一度出る。
「ほら、こんな風になっているわよ」
「おぉ、本当に頭だけだ」
俺のスマホを持ってもう一度ダンジョン都市に入る。
「……圏外か」
まあそりゃそうか。ダンジョン都市が何かの力が発揮して通話ができるかと思ったがそんなことはなかった。
普通のダンジョンでも少しでも入れば圏外になってしまう。ダンジョンに移住する計画を立てていたり通話ができるようにするとか言われているらしいが今のところは提案段階だ。
俺は家で待っている綺麗な輝夜の写真とダンジョン都市の写真を数枚撮ってダンジョン都市から出てカギをしめた。
「俺からは輝夜はこう見えてたぞ。それにこれがダンジョン都市の写真だ」
「へぇ……こんなところなのね。行けなくて残念だわ」
「大丈夫だ、俺がその分頑張ってくるから。それでダンジョンに行こう」
「えぇ、そうするわ」
「いつ仕事を辞めるんだ?」
「……いきなりはできないわよ。仕事の引き継ぎやお金もまだ心もとないわ」
すごく真っ当なことを言っているのは分かる。それで俺が養ってもらっていたからな。
「分かった、なら俺が五千万貯めたら仕事をやめて俺について来てくれ」
「五千万……一億円はほしいところだけれど、分かったわ」
「輝夜はどれだけためれば気が済むんだよ」
「そもそもこれを売ればお金になりそうね」
「いやいや、危ないだろ。これを悪用されれば世界が混乱するし俺たちの身も危なくなる」
「そうでしょうね。だからこれを売るのではなくて魔石や素材を売る方向がいいわね」
「それで一億か……まあどうにかなるだろ」
ダンジョン都市にこもってばかりではどうにもできなさそうだな。
チンアントのドロップアイテムは中級土魔法、初級土魔法、鳥特効、念話の四つもあった。
スライムの時と同じで三種類かと思っていたが違うらしい。
初級土魔法が九十八個、中級土魔法が七十二個、鳥特効が三十五個、念話が四個の合計二百九個。
この割合が本来のドロップ割合なんだろうな。だけど俺が欲しいものを望めばおそらくLUKでそれが多く出てくるようになるのだろう。ゲームの中のLUKよりも凶悪だ。
レベル到達報酬はLv25の時は『守護騎士』、Lv30の時は『オートガード』、Lv35の時は『弓兵の目』、Lv40の時は『中級ヒール』、Lv45の時は『気配遮断』、Lv50の時は『浄化』、Lv55の時は『魔法士の杖』とかなり貰えている。
あまり統一性がないからランダムになっているのだろうか。でもかなり強いものばかりだから普通に嬉しいけど。
「おっ」
感知を習得していて輝夜の気配を知っているから輝夜が家に近づいているのを感知した。
これはかなり便利なアビリティだから輝夜たちに覚えてほしいのだがアイテムショップで売られているのか確認していない。
そういう確認をする前にレベル上げをしてしまうくらいにはモンスターを倒すことにハマっている俺。
ダンジョン都市に行かないと分からないのがネックだな。手元のシステムで済ませれば楽だが、そういう贅沢は言わないでおこう。罰が当たりそう。
「ただいま」
「おかえり、輝夜」
輝夜が帰ってきたため玄関に向かった。
「その顔、いつもより満足そうね。ダンジョン都市に行けたのね?」
「あぁ行けた! すごく楽しかった!」
輝夜はいつものように俺に前から抱き着いてきて手と足を俺の後ろに回した。
「スンスン……何でお風呂に入ったのかしら?」
「かなり汗を流したからな」
「その状態で待ってなさいっていつも言っているでしょう?」
「それをしたら家が臭くなるっていつも言っているだろ?」
「それがいいのよ! 高校の時もそれで部屋にいてくれたじゃない!」
輝夜はかなりのにおいフェチだ。俺の汗なんて臭いだけなのにそれがいいといつも嗅ごうとしてくる。
それにプラスして甘えても来るからこうして帰ってきた時は抱っこしてリビングまで運んでいる。
「輝夜が良くても俺は自分の汗がしみ込んだ家にいたくない」
「……それは困るわね」
「輝夜が休みの日は臭いを補充しているんだから許してくれ」
「……帰ってきた時の私のリラックス成分なのよ。……下は匂いがこもっているんじゃないかしら?」
「それは後でな」
「ハァ、仕方がないわね。脱いだ靴下とかシャツで補充するわ」
「やめてくれ。それをするくらいなら俺が今から筋トレして汗をかくから」
「お願いするわ」
ここで断らないのが輝夜の本気度が伺える。でも今の俺の体の状態を知りたいから筋トレを始めることにした。
「輝夜? 少しやりずらいから引っ付くなら上に座ってくれないか?」
「えぇ、分かったわ」
腕立て伏せをするために輝夜が俺の上に座る。いや座っているのではなく重なっている。
足は俺の側面につけ俺の首筋に鼻先をつけているのが分かる。
いつもの冒険者ライフなら丁度良く汗をかいているからお風呂に入らずに汗を嗅いでもらっていたがこの生活が続くのなら俺は帰ってきて輝夜が帰ってくる時間ぐらいに汗をちょうどかいていないといけなくなるわけだ。
それはそれで楽しそうだからいいか。
「……何だかいつもよりはやいわね」
「分かるか?」
「当たり前よ。学人よりも学人のことを知っているもの」
「それは嬉しい限りだ。レベルが上がったからな」
「レベルはいくつになったのかしら?」
面と向かい合っていないが距離がゼロだからそんなこと気にならず今日の話題に移る。
「聞いて驚け、Lv55だ」
「……15?」
「五、十、五だ」
「……一日が一年の場所にいた?」
「そんなわけ。そんなところだったとしたら輝夜と一緒の時間を過ごせなくなるんだからすぐに出て来るぞ」
「そ、そうよね。それならダンジョン都市で何があったの?」
「簡単に言えば、経験値が百倍になって、スキルとアビリティと魔法が習得できるアイテムがドロップするようなダンジョンだった」
「そんな世界が存在するのねぇ……」
いい感じに汗をかいてきたところで輝夜は体全体に俺のにおいを充満させるために首筋に顔をうずめて深呼吸をする。
ダンジョン都市の話よりもまずこちらの方が大事らしいから俺も気にせずに筋トレを終わらせて輝夜が満足するまでうつ伏せでジッと待つ。
「はぁ……満足」
「それは何よりだ。一緒にお風呂に入るか?」
「もちろん入るわ」
甘えん坊な輝夜とは毎日お風呂に入っている。家が隣同士なこともあって小学生の時から一緒にお風呂に入っていた。用事がない限りはずっとだ。
それが思春期の時でも変わらず続いていたから父親から「学人の思春期はどこに行ったんだろうね」とか言われた。
好きな人とお風呂に入ることは嬉しいからそんなことを言われても訳が分からなかった。中学校の時にクラスメイトから嫉妬か何かでバカにされていたが鼻で笑ってやった。
というわけで洗いっこをして気持ちよくなりつつお風呂から出た。
「ん~! 美味しいわ!」
「ありがとう」
オムライスを食べて破顔している輝夜に俺も頬が緩む。
「それよりもさっき言っていたことは本当なの? 経験値が百倍でスキルとかが覚えれるアイテムがドロップするって。……よく考えればそんなアイテムあるの?」
夕食を食べ終えて一息ついている輝夜だがさっき俺が言ったことを思い出してようやく理解したようだった。
さっきは俺の臭いに夢中で頭に話は入っていたようだけど理解はしていなかったみたいだ。
「これがそのアイテムだ。初級水魔法を習得できるぞ」
アイテムボックスから初級水魔法のボトルを取り出した。
「……どこから出したの?」
「システムが解放されたみたいでアイテムボックスも手に入ったんだ」
「それもチートね。で、これは飲んでもいいの?」
「もちろん。まだまだあるから気にせず飲んでくれ」
「まだまだあるのね……いただくわ」
輝夜は遠慮せずにボトルを飲み干した。
「……ストロベリー味なのね」
「俺の時はグレープ味だったから好きな味になるんだと思うぞ」
「不思議ね」
「どういう原理かは分からないけど好きな味になることは飲みやすい。で、どうだった?」
「そ、そうね。見てみるわ」
幼馴染みの俺だから分かるが、今の輝夜は興奮している状態だ。
悟らせないようにしている輝夜はステータス画面を見ている様子だった。
「……あ、あるわ……」
「そうか。それなら良かった」
このアイテムがダンジョン都市に入った人しか効果がないという最悪の状況も考えていたがそうはならなくて良かった。
「ほ、本当よね……?」
サブステータスは一切変わることがないと常識として否定されていたから信じられない様子の輝夜。
「風呂場で水魔法を使ってみたらどうだ? 何となく分かるとは思うが念じれば使えるぞ」
「そ、そうね……一緒に行きましょう」
「あぁ」
一緒にお風呂場に向かって入り口の前に立つ輝夜。俺はその後ろで見守る。
「ど、どれくらい出るのかしら……?」
「このお風呂場は余裕で埋め尽くせるから注意した方がいいな」
「わ、分かったわ」
最初はダンジョンでやった方がいいのだろうが、輝夜が我慢できるわけがないからお風呂場でやる。
「ウォーター」
輝夜の突き出した手のひらから水が勢いよく出てきた。
「で、出たわ! 出たわよ学人!」
「あぁ、おめでとう」
これまでに一、二を争うくらいに嬉しそうな顔をしている輝夜は俺に抱きついてきた。
「これで一緒に冒険ができるな」
「……えぇ、本当にそうね……できるとはあまり思っていなかったわ」
「俺もこんなことができるとは思っていなかったな。だから俺も冒険者をやめて働こうと思っていた時があったな」
「そんなことをしようものなら私は許さなかったわよ。私の夢を背負っていたのだから。でも今はそんなことどうでもいいことね」
「あぁ、このアイテムがあれば俺たちは堂々と冒険者になれる」
俺と輝夜はリビングに戻っていつものようにあすなろ抱きをして座る。
「くふっ、水魔法は使い勝手が良さそうね」
「そうだな。でもまだ渡すものがあるぞ」
「どういうこと? この水魔法以外にもあるの?」
「あるよ」
とても興味津々な顔で振り返って俺を見てくる輝夜。
「紙に書くからちょっと待ってくれ」
「いくらでも待つわ」
今あるドロップアイテムを紙に書き出す。
中級火魔法、初級水魔法×九、中級水魔法×三十、初級土魔法×九十八、中級土魔法×七十二、上級土魔法×三、虫特効×九、鳥特効×三十五、初級ヒール、中級ヒール、魔弾、浄化、衝撃収出、詠唱、念話×四、守護騎士、オートガード、弓兵の目、気配遮断、魔法士の杖。
「……もう天下を取れるわね」
「まだまだだろ。初日でこれなんだからもっとできる」
「……学人のその異常性はこの状況と上手いこと噛み合っているわね。無理をしていないのならいいのだけれど」
「無理なんてしていない。むしろまだまだやり足りないくらいだ」
「これはダンジョン都市の時間を制限しないといけないかしら……?」
「それはやめてくれ。普通のダンジョンに行く時間と同じなんだから」
「それでこれはすごいわね。本当にダンジョン都市ってどういうところなのかしら」
「あっ、輝夜がダンジョン都市に行けるのか知りたかったんだ」
「そうね。行けるのなら私も行きたいわ」
リビングから廊下に出る扉でダンジョン都市のカギを使った。
ダンジョン都市の中は一切暗くならない様子だった。ここに一日中いれば昼夜感覚がなくなりそうだ。夢中になるから。
「入れるか?」
「……何かそこにあるの? 私には全く見えないわ」
「扉が開いているのも見えないのか?」
「しまっている扉しか見えないわ」
「それなら俺が入るからな」
「えぇ」
靴を持ってきて靴を履きながらダンジョン都市に入る。
「どうだ?」
俺がそう言っても輝夜は立っているだけで何も返事はなかった。
「これはどう見えているんだ?」
顔だけ扉から出して輝夜に問いかける。
「扉から顔が出ているわね。今写真を撮るわ」
「スマホでビデオ通話できないのか試すか」
「はい、ヘッド」
写真を撮られるのだからキメ顔をしてからダンジョン都市から一度出る。
「ほら、こんな風になっているわよ」
「おぉ、本当に頭だけだ」
俺のスマホを持ってもう一度ダンジョン都市に入る。
「……圏外か」
まあそりゃそうか。ダンジョン都市が何かの力が発揮して通話ができるかと思ったがそんなことはなかった。
普通のダンジョンでも少しでも入れば圏外になってしまう。ダンジョンに移住する計画を立てていたり通話ができるようにするとか言われているらしいが今のところは提案段階だ。
俺は家で待っている綺麗な輝夜の写真とダンジョン都市の写真を数枚撮ってダンジョン都市から出てカギをしめた。
「俺からは輝夜はこう見えてたぞ。それにこれがダンジョン都市の写真だ」
「へぇ……こんなところなのね。行けなくて残念だわ」
「大丈夫だ、俺がその分頑張ってくるから。それでダンジョンに行こう」
「えぇ、そうするわ」
「いつ仕事を辞めるんだ?」
「……いきなりはできないわよ。仕事の引き継ぎやお金もまだ心もとないわ」
すごく真っ当なことを言っているのは分かる。それで俺が養ってもらっていたからな。
「分かった、なら俺が五千万貯めたら仕事をやめて俺について来てくれ」
「五千万……一億円はほしいところだけれど、分かったわ」
「輝夜はどれだけためれば気が済むんだよ」
「そもそもこれを売ればお金になりそうね」
「いやいや、危ないだろ。これを悪用されれば世界が混乱するし俺たちの身も危なくなる」
「そうでしょうね。だからこれを売るのではなくて魔石や素材を売る方向がいいわね」
「それで一億か……まあどうにかなるだろ」
ダンジョン都市にこもってばかりではどうにもできなさそうだな。
4
お気に入りに追加
621
あなたにおすすめの小説
家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~
芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。
駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。
だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。
彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。
経験値も金にもならないこのダンジョン。
しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。
――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?
スキル運で、運がいい俺を追放したギルドは倒産したけど、俺の庭にダンジョン出来て億稼いでます。~ラッキー~
暁 とと
ファンタジー
スキル運のおかげでドロップ率や宝箱のアイテムに対する運が良く、確率の低いアイテムをドロップしたり、激レアな武器を宝箱から出したりすることが出来る佐藤はギルドを辞めさられた。
しかし、佐藤の庭にダンジョンが出来たので億を稼ぐことが出来ます。
もう、戻ってきてと言われても無駄です。こっちは、億稼いでいるので。
地球にダンジョンができたと思ったら俺だけ異世界へ行けるようになった
平尾正和/ほーち
ファンタジー
地球にダンジョンができて10年。
そのせいで世界から孤立した日本だったが、ダンジョンから採れる資源や魔素の登場、魔法と科学を組み合わせた錬金術の発達により、かつての文明を取り戻した。
ダンジョンにはモンスターが存在し、通常兵器では倒せず、ダンジョン産の武器が必要となった。
そこでそういった武器や、新たに発見されたスキルオーブによって得られる〈スキル〉を駆使してモンスターと戦う冒険者が生まれた。
ダンジョン発生の混乱で家族のほとんどを失った主人公のアラタは、当時全財産をはたいて〈鑑定〉〈収納〉〈翻訳〉〈帰還〉〈健康〉というスキルを得て冒険者となった。
だが冒険者支援用の魔道具『ギア』の登場により、スキルは大きく価値を落としてしまう。
底辺冒険者として活動を続けるアラタは、雇い主であるAランク冒険者のジンに裏切られ、トワイライトホールと呼ばれる時空の切れ目に飛び込む羽目になった。
1度入れば2度と戻れないその穴の先には、異世界があった。
アラタは異世界の人たちから協力を得て、地球との行き来ができるようになる。
そしてアラタは、地球と異世界におけるさまざまなものの価値の違いを利用し、力と金を手に入れ、新たな人生を歩み始めるのだった。
無理ゲー無双~全人類がダンジョンに落とされて無理ゲーでも俺だけヌルゲー~
山椒
ファンタジー
ある日、全人類がダンジョンという名の異世界に落とされた。
そこはモンスターが強く、悪人が蔓延っている人が簡単に死ぬレベルで鬼畜仕様な異世界だった。
そんな世界に平等に落ちたが規格外の能力を持っていた男が無双する話。
未開の惑星に不時着したけど帰れそうにないので人外ハーレムを目指してみます(Ver.02)
京衛武百十
ファンタジー
俺の名は錬是(れんぜ)。開拓や開発に適した惑星を探す惑星ハンターだ。
だが、宇宙船の故障である未開の惑星に不時着。宇宙船の頭脳体でもあるメイトギアのエレクシアYM10と共にサバイバル生活をすることになった。
と言っても、メイトギアのエレクシアYM10がいれば身の回りの世話は完璧にしてくれるし食料だってエレクシアが確保してくれるしで、存外、快適な生活をしてる。
しかもこの惑星、どうやらかつて人間がいたらしく、その成れの果てなのか何なのか、やけに人間っぽいクリーチャーが多数生息してたんだ。
地球人以外の知的生命体、しかも人類らしいものがいた惑星となれば歴史に残る大発見なんだが、いかんせん帰る当てもない俺は、そこのクリーチャー達と仲良くなることで残りの人生を楽しむことにしたのだった。
筆者より。
なろうで連載中の「未開の惑星に不時着したけど帰れそうにないので人外ハーレムを目指してみます」に若干の手直しを加えたVer.02として連載します。
なお、連載も長くなりましたが、第五章の「幸せ」までで錬是を主人公とした物語自体はいったん完結しています。それ以降は<錬是視点の別の物語>と捉えていただいても間違いではないでしょう。
残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)
SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。
しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。
相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。
そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。
無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!
魔境暮らしの転生予言者 ~開発に携わったゲーム世界に転生した俺、前世の知識で災いを先読みしていたら「奇跡の予言者」として英雄扱いをうける~
鈴木竜一
ファンタジー
「前世の知識で楽しく暮らそう! ……えっ? 俺が予言者? 千里眼?」
未来を見通す千里眼を持つエルカ・マクフェイルはその能力を生かして国の発展のため、長きにわたり尽力してきた。その成果は人々に認められ、エルカは「奇跡の予言者」として絶大な支持を得ることになる。だが、ある日突然、エルカは聖女カタリナから神託により追放すると告げられてしまう。それは王家をこえるほどの支持を得始めたエルカの存在を危険視する王国側の陰謀であった。
国から追いだされたエルカだったが、その心は浮かれていた。実は彼の持つ予言の力の正体は前世の記憶であった。この世界の元ネタになっているゲームの開発メンバーだった頃の記憶がよみがえったことで、これから起こる出来事=イベントが分かり、それによって生じる被害を最小限に抑える方法を伝えていたのである。
追放先である魔境には強大なモンスターも生息しているが、同時にとんでもないお宝アイテムが眠っている場所でもあった。それを知るエルカはアイテムを回収しつつ、知性のあるモンスターたちと友好関係を築いてのんびりとした生活を送ろうと思っていたのだが、なんと彼の追放を受け入れられない王国の有力者たちが続々と魔境へとやってきて――果たして、エルカは自身が望むようなのんびりスローライフを送れるのか!?
デジタルゴーストに花束を
ぬこまる
ファンタジー
【ざまぁ✖︎バトル✖︎料理✖︎現代ファンタジー】
地震で家族と彼女・サラを亡くし、料理人だった父の親友・月野さんの家に住むことになった僕・アオ。都市部の高校に転入したが居候先の娘・エリナに無視され、クラスメイトのいじめを黙認する毎日に生きづらさを感じていた。
そんなアオはある日、時空の歪みで発生した未来のダンジョンでサラの亡霊・デジタルゴーストに出会う。そこで取得したスキルで高校生活を無双するのだが、夏休みになるとダンジョンに引きこもってしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる