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騎士と美醜逆転世界。

014:騎士と異常事態。

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 隻眼の女性にスキルなしの身体能力と技術で攻撃を仕掛ける。女性は腰に携えている剣を抜いて対抗してきた。剣と剣がぶつかり合い、俺と隻眼の女性の剣は拮抗している。俺が彼女の剣をはじき、そこから俺と彼女の剣戟が始まった。

 どちらも様子見ということで攻め切れない状態が続く。力と速度は俺の方が上だが、技術が相手の方が上手なため、良い感じでかわされている状態になっている。ラフォンさんより強いわけではないが、ラフォンさんのように場数を踏んでいる戦い方をしているためか、上手く攻め切れない。

「さすがは未来の騎士王だ。ここまでの実力とは」
「ここまでの実力と言いながら、余裕の表情を浮かべているあんたに言われると腹が立つ」

 未来の騎士王と言われても、称号の方で俺は≪騎士王≫を獲得している。だからあまり未来の騎士王と言われても何とも思わない。〝マジェスティ・ロードパラディン〟の道のりを最短にできるのなら嬉しいがな。

「それはすまないな。こういう言い方しか習わなかったんだ」
「そうかよ。ていうか、俺は急いでいるんだから早めに倒されてくれ」
「私を倒そうとしているのか。気概は良いが、実力を弁えた方がいいぞ」

 俺の言葉に隻眼の女は雰囲気を変えて答えた。だが、俺からすればその実力でラフォンさんに挑もうとしていることも身の程知らずだし、俺を軽視しているのも無知としか言いようがない。俺のスキル≪感知≫は相手の実力を測ることができる。だから相手の底は理解している。理解していなければ、〝終末の跡地〟で生き残ることができなかった。

「その鼻っ柱をへし折ってやろう。未来の騎士王と言われても、今はただの騎士見習い。騎士見習いごときが調子に乗るな」

 隻眼の女は俺に濃厚な殺気を向けて剣を構えている。・・・・・・ふっ、久しぶりだな、これほどの濃厚な殺気を浴びるのは。かつて終末の跡地で戦った〝クライシス・ドラゴン〟よりかは格段に弱いが、人間でこれくらいの殺気を受けたことは初めてだ。だが、やることは変わらない。

「≪剣舞≫!」

 身体能力を上昇させて、まるで舞っているかのように剣を振るい敵を斬るスキルを隻眼の女が発動させた。使いやすいスキルだから、剣士が持っていることは当たり前か。俺も持っているからな。

 隻眼の女は先ほどよりも早い動きで俺に接近し、素早い剣技で攻撃してきた。俺はすべてを見て一撃ずつ打ち漏らしがないようにはじき返していく。俺に傷を作るのはフローラさまとラフォンさんだけで十分だ。それに隻眼の女の攻撃は、俺がそのスキルを使っているからという理由なのか、分かりやすい。

「少しはやるようだな」
「お前はそれほどまでもないな」

 いつまでも攻撃が通らないことで、剣を通して隻眼の女が少し焦ってきたことが分かった俺は、油断した一撃をはじいて女の態勢を崩した。そして女の胴体に狙いを定めて、内臓までは届かないが、血が多少なりとも出るくらいの深さで袈裟斬りで斬りつけた。

「ッぐ! まさかここまでとは・・・・・・ッ!」
「そうか? 何度も言うようだが、お前は大したことがない」

 斬りつけられたことで後ろへと下がった隻眼の女。血が身体からとめどなく流れている。久しぶりの刀剣での戦いだったから、手加減を間違えてしまった。しかもその刀剣が業物と来た、よく斬れるわけだ。

「認識を改めないといけないようだな。お前は未来の騎士王ではなく、騎士王に近しい男と認識しておこう」

 これくらいのことをしただけで、騎士王に近しい男なのか? よくわからない判断基準だ。それよりも、こいつは本当にこの実力でラフォンさんを狙っていたのか? それにしては弱く感じるぞ。ラフォンさんの半分の力もない。

 何か実力を隠しているのかもしれないから隻眼の女を警戒していると、隻眼の女の傷がついている場所はみるみる回復していった。これは俺が持っている≪超速再生≫と一緒のスキルなのか? それなら厄介なスキルの持ち主だ。

「驚いたか? これはスキルでも珍しい≪自己再生≫のスキル。これがある限り私にまともに傷をつけることはできないぞ?」

 何だよ、≪自己再生≫のスキルかよ、それなら安心した。≪超速再生≫と≪自己再生≫のスキルでは、決定的に違う能力差がある。それは回復できる負傷度合いだ。≪自己再生≫は骨折や今のような斬り傷なら治すことができるが、内臓損傷や完全に失われた部位は治すことができない。

 しかし、≪超速再生≫は脳以外ならどこを破壊されても元通りになる。俺も終末の跡地で最初に胴体に大きな穴をあけられて貫かれたことがあった。その時に超速再生を手に入れ、元通りになった。すべてラフォンさんが教えてくれた。特訓の合間に知らないことをたくさん教えてくれて助かる。

「さて、ここまでされたら、本気で行かせたもらうしかないようだな」
「今までは本気じゃない言い方だな? 何かあるのか?」
「それを今から見せるから、その眼に焼き付けろ!」

 隻眼の女が走り出したかと思ったら、急に加速して刀剣の間合いまで一瞬で入ってきた。しかし、早くなったが対応できないわけでもなく、女が振るってきた剣を俺の剣で防いだ。だが、さっきまでの力とは違い押しつぶされそうな力で剣が押され、俺は後方へと吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされながら無理やり体勢を整えて、地面に足をつけ踏ん張って威力を殺した。そして隻眼の女の方を見ると、すでにこちらへと近づいてきていた。俺はあの力にスキルなしで対抗するために、少し腰を落として気合を入れた。あの力は受けきれないほどではない。だが、気を抜いていると飛ばされる。それだけの話だ。

「まだまだ行くぞ!」

 素早い動きで翻弄しながら重い攻撃を食らわせてくる隻眼の女。動きは見えているが、この重たい攻撃と素早い攻撃に対応するのがやっとで反撃することができない。スキルを使えば解決する話なのだろうが、折角のこの機会だ、スキルなしでの本当の戦闘をやっておくのも悪くないと思った。

 だから俺はスキルなしでこいつを倒す。そうすれば、俺はまた一歩騎士への道が開かれるのだろう、たぶん。スキルなしで強くなれば、スキルをより効率よく使えるようになるとラフォンさんが言っていた。実際最近はスキルを使っていないからどうかは分からないが、強くなっていると信じたい。

「どうした⁉ お前の力はこの程度なのか?」
「そういうお前は、少し力が鈍くなっているんじゃないのか?」

 何十回、何百回と受け続けていると、隻眼の女が疲れてきたのか、動きが鈍くなり攻撃が軽くなってきてスキルなしの俺が対応できるようになってきた。これくらいの動きをずっとしていたんだから、疲れて当然だ。ずっとこの動きをされていては倒すことができない。

「馬鹿な、段々と私の動きについてこられているのか?」
「お前が遅くなってきただけ、だっ!」

 ついに隻眼の女の剣をはじくことができ、女の動きを止めることができた。そして女の無力化のために剣に狙いを定め、女が攻撃する度に女の剣の同じ場所で攻撃を受けて、もろくなっている場所に向けて剣を振るった。思惑通りに女の剣は二つに折れて女を動揺させることができた。

「なっ・・・・・・」
「隙だらけだぞ」

 隙だらけの隻眼の女の腹に、刀剣の柄の頭で思いっきり突いて動きを止めた。女はやばいと思ったのか後ずさって距離を取ろうとしていたが、突かれたダメージで上手く動けずにいた。それを見逃さずに女の腹に飛びかかり地面に押し倒して、女の両腕を俺の両膝で抑え込み、女の胸の下あたりの胴体に座ってマウントを取る。

 女の頭の横に剣を突き刺して、俺が勝ちということを示した。隻眼の女は押し倒されたときから抵抗しておらず、あきらめた顔で俺の顔を見ていた。・・・・・・何か、この体勢は胸であれを挟む体勢に似ているな。俺がマウントを取っているから、無理やりしている感が出ている。

「まさか本当にスキルなしで勝つとは思わなかったぞ」

 後ろからラフォンさんが声をかけながら来た。・・・・・・えっ、スキルなしで勝てる相手ではなかったのか? そんな相手には思えなかったぞ。

「それよりも、そこからどいても良いと思うぞ。もう抵抗する気はなさそうだからな」
「えっ、あぁ、はい」

 ラフォンさんに言われて隻眼の女の上から離れた。女は抵抗する気がないことを示しているのか、ずっと寝転がったままでこちらを見ていた。

「完敗だ。まさか騎士王にではなく騎士王の弟子に負けるとは思わなかった」
「そうだろう? 私の弟子というのは伊達ではないだろう。しかもこれでスキルを使っていないと来た。この短時間で、私ではもう手の施しようがないほどになりつつある」
「あの動きでスキルを使っていないのか⁉ ・・・・・・末恐ろしい人間もいたものだ」

 二人は俺を信じられないという顔で見てくるが、失敬な。俺は別に末恐ろしい人間ではない。第一そこの隻眼が疲れてきたから俺は勝てたようなものだろう。

「いや、そこにいる隻眼の女が――」
「私は隻眼の女ではない、キャロル・モンという名前がある。キャロルと呼ぶんだな」
「・・・・・・そこにいるモンが段々と戦闘力が落ちてきたから勝てたようなものですよ」

 俺がそう言うと、二人は理解できないかのように首をかしげてきた。俺もその二人の反応に首を傾げた。お互いがお互いに認識していることに差があるのだろう。

「アユム、何か勘違いしているようだが、この女は一度も速度や攻撃を弱めていなかったぞ。むしろ少しずつ動きにムラがなくなってきていた」
「いや、そんなわけが。なら、どうして自分が反応できるようになったのですか? スキルを使っていませんのに」
「それはこちらが聞きたいことだが、一つだけ思い当たる節がある。確か勇者・騎士の固有スキルは伝説通りなら、どんな状況でも対応できる≪順応≫のスキルで間違いないな?」
「はい、そうです。≪順応≫があるおかげで今まで生きてこられました」
「そうか、伝説通りなのか。伝説通りなら、どんな状況でも対応できるスキルを≪順応≫で習得することができるのだな?」
「そうです。≪順応≫はその場に適しているスキルだけを手に入れることができます。しかし、逆に言えばその状況にならなければスキルを獲得することができませんが」
「それだけでも十分にすごいことだ。・・・・・・でだ、本題はここからだ。その≪順応≫が無意識に素の身体能力を上昇させていたとしたら、どうだ?」
「・・・・・・そうかもしれません。俺の≪順応≫の能力を決めつけるには、まだ情報が足りませんし、モンの動きが鈍っていなかったとするなら、≪順応≫しかありえませんから」

 それだけ言って、俺は思い出してしまった。この場に一人だけ関係のない人物がいたことを。そう、モンが俺とラフォンさんを見て話を聞いていたのだ。そして少し口角を上げているのを見て、刀剣を取り出した。

「ラフォンさん、こいつの口と耳と目を潰しましょう。殺さないにしても、この話を聞いてしまった以上生かして返せません」
「待て待て! 恐ろしいことを言うな! 勝手に話し始めたのはそちらだし、私は別に誰にも話すつもりはないぞ!」
「口では何とでも言えるのだから、言えないようにするのがベストだ。そもそも敵なのだから疑うのは当然だ」
「本当だ! 私は任務を達成できずに負けてしまったのだから、組織に帰れない。帰ったとしても殺されるだけだ」

 任務? 組織? こいつは一体何の話をしているんだ? 単独犯で道場破り的なノリかと思っていたが、実際は違うのか。そもそも、こいつが任務でやってきたのなら、どうしてラフォンさんを倒そうとしていたんだ? この学園でのラフォンさんの役割は?

「一体どういうことだ? 詳しく話せ」

 俺は再びモンに詰め寄って話すように促すが、目を閉じて顔をそらして話さない意思表示をしてきた。

「話せない。負けたから前の組織に帰れないと言ったが、組織の情報を教えるつもりはない。一応私が所属していた組織だからな。・・・・・・だが、私が言わなくても、じきに分かるだろう」

 モンが向いた方向を見ると、走ってこちらに来ている茶色のショートヘアの見覚えのある女性が見えた。どこか焦っているような表情をしているのが分かる。

「どうした、アニエス?」

 こちらに来たアニエスと呼ばれた茶髪の女性が呼吸を荒くしながらラフォンさんの前で止まった。そして呼吸が落ち着くまで少し時間が要したが、落ち着いたアニエスさんは焦った顔でラフォンさんに詰め寄った。

「フロリーヌ先生! 大変なんです! 学園に、学園に侵入者が現れました! 侵入者の目的が高い地位にいる貴族たちなのです!」

 それを聞いた俺は、フローラさまの顔が浮かび、学園に向けて走り始めた。これで誘拐されたとかなら、騎士として生きていられないぞ!
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