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本編・現在(アーダム・エヴァ)

対策。

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 魔物の襲来があり、僕は四人を連れて中央建物へと足を運んだ。中央建物へと来る途中で何体かの魔物に遭遇したが、その都度レナが切り刻んで処理してくれた。ここの生徒はAランクの魔物が侵攻してきたにもかかわらず死亡者数はゼロという幸いな結果となったようだ。ただ、重傷者は何名かいるようで中央建物に運び込まれている。

 そして中央建物に無事な生徒がどんどんと誘導されていく。誘導しているのはこの学園の理事長であるスタニックくん本人であった。誘導されている中央建物には何重にも結界が張り巡らされておりその結界は並大抵の侵入者では打ち破ることができないものになっている。だけど、さっきの侵入者に通じるかと言われれば、それは否と答える。あの侵入者は並大抵の侵入者ではなく、この世界の生物の中で二桁に入る実力の持ち主だろうね。

 僕は誘導が一段落したスタニックくんの元へと向かい、話しかける。

「大変そうだね、スタニックくん」
「おぉ、アーダムさん! 良いところに来てくださいました」
「何か僕がすることでもあるのかい?」
「はい、ぜひお願いしたいことがあります。学園にいる魔物の殲滅と、それにあたって毒の処理を頼みたいのです」
「あぁ、そんなことか。それならお安い御用だよ」
「あなたに、こんなにも早く頼ってしまって、何とも嘆かわしい」
「僕を誰だと思っているんだい? そんなお願いくらいで嘆かれても、僕が困るだけだよ。僕は君の師なのだからもっと頼ればいいよ」
「・・・・・・この年になって、そんなことを言われるとは思いませんでしたぞ。お言葉に甘えて存分に頼らせてもらいますぞ」

 僕はその言葉を聞いた後に、四人に誘導しているところへと行くように言い、魔物の殲滅に向かう。とは言え、僕の場合はあの場から離れれば良いだけの話だ。誰にも見つからない場所から、この学園に生き残っている魔物を感知して狙いを定める。十数体くらいだから、魔物の上空にだけ雷の魔法陣を展開し、人間には害がないように雷を落とした。

 これでこの学園にいる魔物は全滅した。しかし、毒を持つ魔物の処理が終わっていない。僕が雷を落とした魔物たちは雷の熱で毒を燃やし尽くしたけれど、他の人たちが倒した魔物の処理は未だに行われずに毒から逃げている。その中で、一人だけその毒の処理を行っている教師がいるけれど、それだと間に合わない。

 と言うことで、僕がすべての毒を消し去ることにした。この学園全体を指定した魔法陣を展開する。この魔法陣はすべての毒を中和する効果を持っている。もちろん、毒に侵されているものたちにも有効だ。僕は魔法陣を発動させて、学園が暖かい光に包まれる。外部に蔓延していた毒は徐々に中和されていき、人間に入り込んでいた毒も中和させた。

 これで僕の役割は終わった。あとの怪我をした人はこの学園にいる人たちで何とかするだろうから、僕からは何も手を出さない。何もかも僕がするわけではない。それでは、僕がこの世界の役割を全うできなくなる。だから彼ら質ができることに、僕は何も口出しをしない。

「ありがとうございます、アーダムさん!」
「別に大したことではしていないよ。それよりも、学生たちの誘導は終わったのかい?」
「おかげさまで無事に終わりましたぞ。・・・・・・アーダムさん。今回の件、誰が引き起こしたのですかな?」
「さぁね、僕にそれは分からないよ。今の世界のことは君の方がずっぽりと浸かっていたはずだよ。僕よりも君の方がよほど心当たりがあるんじゃないのかい?」
「・・・・・・心当たりと言われれば、長く生きているためか、あり過ぎて困りますぞ」
「じゃあ、誰が狙われたんだろうね。生徒か、先生か、スタニックくんか、学園か、土地か、それとも誰にも知られていない何か、か。そこのところはどうなんだい?」
「・・・・・・それは、答えかねます」

 間違いなく、スタニックくんは何かを隠している。図書館の奥にあるものが関係しているだろう。だけど、秘密にしているのなら僕は何も言わない。僕から秘密を問いただすことはなく、彼から話して来れば聞くつもりだ。僕はいないと思ってくれた方が良いくらいだ。

「そうかい。なら良いけど。これからどうするつもりなんだい?」
「これから先生たちを集めて緊急会議を行うつもりですぞ。アーダムさんも来てくださいますか?」
「もちろん、先生であるから行くつもりだよ」

 中央建物の外に残っている生徒がいないかを確認した後、僕たちは中央建物の職員室へと向かった。職員室に入ると先生たちで席が埋め尽くされており、僕たちの他に一つだけ空いている席があった。あの席は先ほど毒を処理しようとしていた女性教師の席だろう。その女性教師も僕たちのすぐ後に来て教師陣が全員揃ったことになった。

「これより、学園で引き起こされた魔物侵入騒動について緊急会議を始めるぞい」

 スタニックくんが仕切る形で始まった緊急会議。スタニックくんは今の現状を教師陣に再確認させた後にこれから行う対策について話し始めた。

「狙われたものが分からない以上、生徒を中央校舎に集め結界を何重にも張った。王国騎士団が来るまでここで籠城するつもりだが、何か心当たりがあるものはおらんか?」
「やはり、第二王子のエミリアン・ザイカさまを狙った行動ではないのですか?」
「いや、もしや王国に盾突く組織の仕業かもしれん。ここは王国が建てた学園だ、宣戦布告をしたのかもしれない」
「それならここではなく、城を狙った方が簡単でしょう。あれほどの魔物を駒にしておきながら、回りくどくここを狙い意味が分からないですよ」

 スタニックくんの言葉に、先生が口々に意見を言い始めた。僕は新米ものだから何も言わずに静観していることにした。侵入者の目的が何であれ、僕が直接手を下すことはないだろう。手を下すなら〝彼〟か、他の誰かだ。それよりも、この無駄な時間をどう過ごそうかと思考する。何も答えが出ないのだから話し合っても無駄だろうに。

 この議題を持ち出したスタニックくんが意図的に議題を逸らしているのか、それは分からない。知るつもりもないから何もしない。結局解決するのはこの世界に生きる人間、僕が余計な口を挟むつもりはない。

「おい、エヴァ」
「何だい? ルースロ先生」

 僕が五組と六組の生徒たちをどう導こうかと考えていると、隣に座っているルースロさんが防音の結界を張って話しかけてきた。その結界は、張られていることを簡単に分からないように精密に張られていた。結界を張るほどの用件なのだろうか。

「今回の件、侵入者はどこに行ってたんだ?」
「どうしてそれを僕に聞くの? それにその口ぶりは僕があたかも知っているかのように言っているけれど、知らないことを想定していないのかい?」
「まさか、『全能の魔法使い』が知らないはずがないだろう。どうせ、この学園に侵入者が侵入してきた時から気が付いていたのだろう?」
「おぉ、よくわかったね。その通りだよ」
「・・・・・・冗談で言ったつもりだったが、まさか本当に気が付いていたとはな」
「カマをかけられてしまった。でも、隠すことでもないからね」

 僕の言葉に、ルースロさんは一層目つきを鋭くさせてこちらを睨んできた。

「気が付いていたのなら、どうして魔物が放たれる前に止めなかったのだ? それくらいのことはできたはずだろうが」
「できたけれど、侵入者が何をしてくるなんて分からなかったからね」
「『全能の魔法使い』が聞いて呆れるな。未来も見通せないのか?」
「全能なのだから、当然未来を見通せるよ。でもね、それはずるくないかい? 全能だからと言って何もかも悪事を封殺して世界を平和そのものにすることが。それは可能だけれど、この世界に真っ当に生きている者たちにとって、僕のような均衡を崩すものがいることは邪魔でしかないんだ。そもそも、誰を善とし、誰を悪にするかは誰が決める? 僕が君の言う悪の味方をしていると、卑怯とは思わないかい?」
「・・・まぁ、卑怯とまでは思わないが、勝てるとは思わないな」
「そういうことだよ。僕は均衡を保つ者、それ以上でもそれ以下でもないんだ。僕ができることは人類の手助けをするか、前時代の遺物を排除するくらいだよ。解決は君たちでするんだ」
「考えは分かった。貴様がだらけてやっていないのではなく、信念を持って行動しているのなら、私はもう何も言わない。無粋なことを聞いたな」

 ルースロさんも、信念を持って行動しているのだろう。そうでなければ僕に何か言ってくることはない。そういうところは好感を持てる。芯がしっかりとしている人間は、とても強い。

「ありがとう。でも、解決の糸口くらいは話すつもりでいるよ。何も手を出さないわけではないからね」
「どこからどこまで手を貸すのかは疑問だが、早速手を貸してもらおうか」
「うん、何か知りたいことでもあるの?」
「侵入者は、誰かを狙いに来たのか? それとも、どこかに入るために来たのか?」
「僕が知っていることは、侵入者が中央校舎に向かい、魔物を卵を孵化させ全方向に放った後に、中央校舎にある図書館に入って行ったよ」
「図書館?」
「うん、図書館。正確には図書館の奥の前まで。僕は入ったことがないけど、図書館の奥に何かあるのかい?」
「図書館の奥、か。おそらくそこは何人たりとも侵入を許されていない場所だな。少し耳にしたことがあるだけで実際にその場所を目にしたことはない。その侵入者は奥に入ったのか?」
「いや、入れなかったようだよ。最上級の防壁が張られていて諦めて帰って行ったね」
「そのことは理事長に言ったのか?」
「言っていないよ。たぶん、スタニックくんはそこが狙われたことを分かっているけれど、そのことを話していない」

 僕の言葉にルースロさんは目を見開いて反応した。どこに驚く要素があったのだろうか。

「ッ!? それは本当か?」
「まぁ、僕が何千年も生きてきて、数えられないほどの人間を見てきた経験則から来るものだね。これでは信じられないかな?」
「・・・・・・いや、信じる。それは十分根拠になりうるだろう。エヴァが嘘の情報を言うとは思えないからな」
「それはありがとう」
「しかし、それでは理事長に助けを求められないということになるのか。あの人は、あれでも『万能の魔法使い』と呼ばれているから、痛いところではある」

 へぇ、スタニックくんが『万能の魔法使い』と呼ばれているのか。『全能の魔法使い』の弟子が『万能の魔法使い』とは、面白いね。

「図書館の奥には、何があるんだ? 理事長が隠すほどの何かがあるということに――」
「分からないのなら、見に行けばいい話だと思うぞ」

 僕のもう一方の隣に座っている、生真面目そうな雰囲気の長い黒髪を後ろで一つにまとめている女性が、ルースロさんの言葉を遮って話しかけてきた。ルースロさんの結界があったけれど、結界を張った直後から黒髪の女性はルースロさんにバレずにその結界に干渉して、黒髪の女性までも結界の中に入ってきたのだ。

「フェドリゴさん。・・・あぁ、そうか。貴様の隣はフェドリゴさんだったか。失敗した」
「そう悲観するな。私は誰にも今のことをばらすつもりはない」
「一応聞いておきますけど、どこから聞いていましたか?」
「最初から聞いていた。結界を張った時からずっとな。私もこの無意義な会議を聞くつもりは毛頭なかった。ちょうど良いところにエサがあれば、それは食いついてしまうぞ」
「・・・そうですか。では、ここにいる男の正体を知ったということですか?」
「男の正体とは、どのことだ?」
「聞いた通りです。もし聞いていないのならそれで結構です」

 フェドリゴさんは間違いなく最初から最後まで聞いていた。それは僕が全能の魔法使いであることもだ。

「もちろん聞いていたとも。この男性が『全能の魔法使い』であることをね。にわかには信じられないことだけれども、慎重なルースロが言っているのなら間違いないのだろう?」
「きちんと聞いていますね。・・・・・・おい、エヴァ。どうせ気が付いていたんだろう?」

 フェドリゴさんの言葉に少し雰囲気を暗くしたルースロさんだが、殺意を秘めた視線を送りながら僕に問いかけてきた。僕は臆さずに正直に答えた。

「よく分かったね。その通りだよ」

 ルースロさんは間髪入れずに僕の足を音が出るくらいに踏みつけてきた。しかし、防音が付いているため周りに気が付かれていない。これが僕じゃなければ、地面にも足にも穴が開いていたところだよ。

「分かっていたなら全能の魔法使いのことを迂闊に口にするな。秘密にする気があるのか?」
「あるとも」
「それならどうして言ったんだ」
「それはね、この件をルースロさん一人で解決するのは難しそうだと思ったからだよ」

 僕は図書館の奥を見てはいないものの、その奥にただならぬものがあることは察知した。それこそ、神々の道具並みのものだ。隣にいたフェドリゴさんがちょうどいいところに来たから、彼女の手を借りた方が良いと判断した。

「・・・・・・もし、フェドリゴさんがお前の秘密をばらすつもりだったら、どうするつもりだったんだ?」
「あまり僕の中では許されないことだけど、穏便に生きるためには仕方がない。すべての人間の僕に関する記憶を消せばいい話だ。そうすれば鎮圧化できる。この方法自体あまりしたくはないから、最終手段ということになるね。でもそれ以前に、彼女がそういう気質ではないことを分かっていたから何も言わなかったんだよ」

 過去一度もすべての人間の記憶に干渉するということはしなかったけれど、認識を変えたことはあったかな。この世界ではなく、最初から五番目の世界の話だ。魔物がいない世界へと設定したことがあったけど、結局世界は破滅へと向かった。

「そこまで信用してくれているとは、嬉しいな。私も話すつもりはないから安心すると良い」
「・・・フン、フェドリゴさんのことを知った口でいて虫唾が走るな」

 ルースロさんはどうしてそうも不機嫌なのだろうか。もしかしてフェドリゴさんと仲が良かったから、分かったような口をきいた僕に腹が立っているのだろうか。それは悪いことをした。

「改めて、私はここでルースロと同様に幅広く教えているアデール・フェドリゴと言うものだ。体術を教えることを得意としている。よろしく頼む」
「僕はアーダム・エヴァ。数日前から五組と六組の担任になったものだよ。これからよろしくね」

 フェドリゴさんと握手を交わし、元の議題に戻った。

「それで、図書館についてだったな。聞いた限りだと図書館の奥に何かあるのは確実だろう。ならば私たちで確認すれば良い話だ」
「それはそうですけど・・・・・・、このことを理事長が隠しているのですから、一筋縄ではいかないでしょう」
「簡単に見れるようでは、隠している意味がないだろう。私とルースロがいれば、いくら万能の魔法使いと言えど隠しきれるとは思えない。そう思わないか、『清淑の魔剣姫』?」
「その名前で呼ばないでください、『撃滅拳姫』さん」
「そっちこそ、その名前で呼ぶな。せめて『研摩の魔導士』の方で呼んでくれ」
「お互い様です」

 二人がこの世界で上位に入るほどの実力者であることは分かっていたから、特に驚くことはない。それよりも、さすがにこの視線を無視していられないだろうな。結界を張っているにもかかわらず、この、こちらを見透かそうとしている視線。これは悪意しかない視線。

 視線の元をばれないように辿ると、少し距離が空いているところに座ってこちらを凝視している眼鏡をかけた物静かそうな三十代半ばの男性がそこにいた。その男性も結界を張ってこちらを凝視しているのがばれないようにしている。しかし、どうやらこちらの結界を解読には至っていないらしく、ずっと解析魔法をかけ続けている。

 僕はこちらの結界に細工して、男性が解析できないように高度な結界へと作り変えた。男性の他にばれていないか周りに気を配るが、誰も気が付かずに会議している。

「・・・・・・おい、私の結界に何をした?」

 自身の結界に細工されたのだから、さすがに気が付いたルースロさんが、僕のことを睨めつけてくる。彼女から来る視線は、睨みつけてくるものが大半を占めている気がするのは気のせいだろうか。

「いや、ちょっと君たちには都合が悪い人がこちらの話を盗み聞こうとしていたからね、少し結界を強化しておいたよ」
「それは誰だ?」

 すぐに表情を切り替えたルースロさんが視線だけで周りを見渡す。

「ほら、あそこだよ。不自然にこちらをチラチラと見て焦っている眼鏡をかけた男性」

 僕が結界を強化したことで、物が違う結界に苦戦しながらもばれないように凝視するのではなくチラ見することを選んだ男性。その男性を見つけたルースロさんとフェドリゴさんは、鋭い視線を男性に向けた。

「あれは、フルード先生ですよね?」
「あぁ、確かにフルード先生だな」

 眼鏡をかけた男性はフルード先生と言うらしい。先生に紛れ込んだ男性ではなくてよかったが、先生なら先生でそれは問題がある。紛れ込んだ者なら、すぐにでも尋問をできるものを。

「どんな先生なんだい、あそこにいるフルード先生というのは?」
「フルード先生は、生物学を教えている先生だ。しっかりと仕事をこなす良い先生だが、私生活は一切我々に知られていない先生でもある」

 僕の質問にフルード先生に鋭い視線を送っているルースロさんが答えてくれた。

「彼は無口と言うか、業務上で必要最低限の会話しかしないから、あちらの情報を一切教えてくれない。仕事に集中しているのかと思っていたが」

 同じく怪しんでフルード先生を見ているフェドリゴさんも答えた。二人はこの話の流れであの先生を怪しんでいるようだけど、それを思うには根拠が足りない。

「二人とも少し落ち着いて。あの先生がまだ何か悪いことをしているとは限らないよ。もしかしたら結界に気が付いて、こちらを怪しんで解析魔法を使っていたのかもしれない。他にも、美人な二人に好意を抱いて見ているだけかもしれないし、他の可能性を捨てきれないよ」

 あの悪意の向け方は、完全に好意ではないけれどね。

「ふっ、私に面と向かって美人と言ってくれるのは君が初めてだ、ありがとう。だが、好意云々の冗談はほどほどにしれくれ。あの視線は好意の欠片もない」
「そうだぞ、節操なし男。あれくらいは誰が見ても好意があるはずがない。憎悪しかない。・・・・・・だが、そうだな。フルード先生を今回の件に何か関係があると決めつけるのはまだ早いか」
「可能性の話を言っただけだよ。それよりも、彼については今は様子見で良いと思うよ。今回の件で失敗した以上、こちらは策を用意するだろうし、あちらはこちらの策を凌駕する策を用意して来るはずだ。少しの間はお互いに膠着状態を維持するだろうね」

 まぁ、相手がすぐに何かしてきたとしても、それは責任を持って僕が処理する。極力手を出したくないんだけど、ベツィーとレナが通っている場所であるからつぶされるわけにはいかない。入学してすぐに退学なんて冗談にもほどがある。

「フルード先生については、私が受け持とう。ルースロよりかは私の方が有利だろう。・・・・・・ちなみに聞いておくが、全能の魔法使いさまがしてくれることはあるのか?」
「それはないかな。君たち自身でできることなら、君たちがするべきだと思うよ」
「その言い方だと、私たちができないことがあれば、してくれるということで良いのか?」
「それでいいよ。さすがに僕の教え子が通い始めた学園をつぶされるわけにはいかないからね。想定外の事態が発生すれば、僕が責任を持って対処するよ」
「それを聞けて良かった。安心してフルード先生を監視しておこう」
「まぁ、安心されても困るところではあるよ。学園が半壊しても、全員で対処できるのなら僕は手を出さないからね」
「いや、全壊しない保証ができたのだから安心する。半信半疑だが、今は信じているよ、全能の魔法使いさま」
「自分たちで解決する意思があるのなら結構だよ」

 フェドリゴさんと話が終わり、さっきから黙っているルースロさんの方を見ると、彼女はまたしても殺意を込められた視線を送って来ていた。それにどこか不機嫌でもある。

「どうしたんだい?」
「いやなに、特に大したことではない。どうやって敵を殺そうかと、敵をお前と想定して想像していただけだ」
「それは、僕でする必要はないんじゃないのかな?」
「する必要があるかどうかは私が判断することだ。・・・・・・あぁ、見えるぞ、私がお前を切り裂いている姿が」

 ルースロさんは不敵な笑みを浮かべているけれど、だ、大丈夫なのか? 少しおかしく見えるのは僕だけではないだろう。フェドリゴさんはこちらを見て見ぬふりをしているよ? こっちを向いて、お願いだから。

「ふぅ・・・・・・、私はいつも通りにしておくか。いつも通りこの学園を守護する気でいればいいだろう」

 現実に戻ってきたルースロさんは今後について話してくれた。良かった、あのままだと状態回復の魔法をかけないといけないところだったよ。

「そうだね、いつでも戦えるようにしておけばいいと思うよ」
「黙れ、お前には言っていない」

 えぇっ!? いつも以上にルースロさんの当たりが強いんだけど。・・・・・・どうしてだろうか。この年になっても未だに女心をきちんと理解していない。男なんだから仕方がないと〝エヴァ〟に言われたことがあったけど、この年になっても理解できないのは仕方がないで済ませれないような気がする。

 その後、王国騎士団が来るまで会議は続き、何の解決案が出ないまま終わった。王国騎士団は、侵入者がいないか、何かしていないかを調査するために学園中をくまなく探し回った。その際に、図書館の奥については何も触れていなかった。

 学園に何もないと調査を終えた王国騎士団は、近辺にも調査範囲を広げて侵入者を探し回り、結局侵入者は見つけれなかった、当たり前だけど。そして、学園の安全が確認されたため、中央建物に集められた生徒たちは解放された。多くの生徒たちはAランクの魔物を初めて見たらしく、怯えている生徒もいた。この件は多くの生徒に魔物の恐ろしさを示した事件であった。

 ルースロさんとフェドリゴさんと分かれた僕は、中央建物から出てきたベツィーとレナを見つけてそちらへと向かう。ベツィーとレナは、中央建物に一緒に来たフロケさんとビュスコーさんと一緒であった。四人は魔物襲来で生徒が暗い顔をしている中で楽しそうに話しているから余計に目立っている。

「四人とも、元気そうで何よりだよ」
「あ、先生! もう会議は終わったの?」
「あぁ、終わったよ。これから学園の修理に駆り出されるところだよ」
「えぇっ! まだやることがあるの!?」

 ベツィーは僕がまたどこかへと行くことに文句があるようで、むくれっ面をしている。

「そう言わないの。修理しないとベツィーたちが安心して勉強ができないから仕方がないんだよ」
「・・・・・・先生が真面目にやれば、すぐじゃん」
「僕にも色々とあるんだよ。許してくれ」

 僕はベツィーの頭を撫でてなだめる。ベツィーは少し顔を赤くして僕から顔を逸らした。

「それよりも師匠。今回の件は誰が引き起こしたんだ?」

 レナが今回の件の核心を突くような質問をしてきた。だけど、それを教えれるはずもない。ルースロさんにも教えていないんだから。

「さぁね、僕はさほど興味がないから知ったところではないよ」
「うそだな。師匠は無駄なことだと思う情報でも知っている。師匠と何年一緒だったと思っているんだ。でもまぁ、師匠が素直に教えないということは何かあるのだろう。これ以上は突っ込まないようにする」
「理解が早くて助かるよ。さすがレナだね。で、四人で何を話していたんだい? 楽しそうに見えたけど」
「それは先生がどんな人かを教えてくれていたんです!」

 僕の質問にフロケさんが嬉しそうに答えてくれた。・・・僕のことを教えたと言ったけれど、僕が全能の魔法使いだということを教えたわけじゃないよね? さすがにベツィーとレナもそこまで馬鹿ではない。それに僕が全能の魔法使いだと知られれば、これくらいの騒ぎで収まらないだろうね。

「先生のお話をいっぱいベツィーから聞いたんです! 聞けば聞くほど先生が良く見えてきました!」
「でしょ! 先生の良さはこれだけじゃないんだから! もっともっと教えてあげる!」
「うんうん、もっと教えて!」

 ベツィーとフロケさんは意気投合して何よりだけど、それが僕の話題だと気恥ずかしくてならない。でも、弟子のベツィーのためなら甘んじて受け入れよう。

「先生」
「何だい、ビュスコーさん」

 僕の服の袖を引っ張って呼びかけたビュスコーさん。何か言いずらそうにしているけれど、どうしたんだろうか。

「あの・・・・・・、先生が出した人形を貸してくれませんか? 私だけでも特訓したいので。ダメですか?」
「あぁ、そのことか。別に危害を加えるものではないから大丈夫だよ。出したい時に念じれば出るようにしているから時間が空いた時に広い場所で使うと良い。ただし、無理をすればすぐにでも取り上げるからそのつもりでいてね」

 僕はビュスコーさんに、とても小さい赤い玉を渡す。この玉には炎の人形が収納されており、さっき言ったように出したい時に念じれば出すことができるものになっている。そしてこの玉には工夫がされており、成功した時に人形が消えるのではなく赤い玉に戻り、時間が経てば人形が復活する。これならば僕に言わずともできるだろう。

「ありがとうございます」
「うん、頑張ってね。あ、ちなみに敵が来てもそれを出すと良いよ。炎の人形が君を守ってくれるから」
「はぁ? 分かりました?」

 僕が言っていることが分かっていないようであったけど、時が来れば分かるだろう。それよりも、今は校舎の修理をしないといけない。これからどうなることやら。
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