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某球を集める漫画を真似したらできた件。 一話
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〝ワイバーンボール〟
この名前を知らない日本人はいないくらいに認知されている日本の代表的な漫画だ。日本どころか世界で認知されている大人気と言っても良い。
知らない人はいないとは思うが補足として説明しておくと、世界中に散らばっている八つのボールを集めると願いが叶うとされるワイバーンボールをきっかけに尾を持った少年、行者を中心にお話が進んでいく物語だ。
さて、この少年漫画には気という超常能力が登場する。気とは誰でも持っているもので、マスターすれば空を飛ぶことだって可能だと出ている。
物語が進んでいくと、行者の息子であるオコメがメインに話が進み、モーデンという女性に気の使い方を教える描写が出てくる。
少年ならば、きっとこの気を使えないかと両手に意識を集中させたことであろう。俺もそうした。何も恥じることではない、誰もが通過する道を通っているだけに過ぎない。
ただ、俺がみんなと同じようにそこを通過しようとしたときに、一つだけ違うことがあった。俺はその気が使えたのだ。しかも一回で。本当に気が出るとは思わなかったから驚きすぎて落ち着くまでワイバーンボールを一周していた。
とにもかくにも、ロクに体を鍛えていないのに気を使えることに歓喜した俺はありとあらゆるワイバーンボールの技を極めようとした。
「すぅぅ……、ふぅぅぅぅぅぅ……」
真夜中で人里離れた誰もいない森の中で、気を安定させるために深呼吸をしていた。
「ッ! はああああああぁぁっ!」
そして安定したところで気合を入れるために声を出して気を爆発的に上昇させる。そこら辺にいた小動物たちは俺の気を感じたことで夜中なのに移動を始め、俺の周りの地面が揺れていることが分かる。
「ふぅ、今日はどうするかな……」
体に透明の気を纏っている状態、気を高めている状態を維持して今日やるワイバーンボールの技を考えた。人が周りにいないとは言え、地形を変える技や大きな技はふとした拍子に誰かに知られてできなくなるかもしれないから、少し落ち着いた技をすることにした。
「はああぁぁぁ……」
高めている気を変化させるという工程が必要となることは五年以上かけた研究で知った。ワイバーンボールだとポンポンと技を出していたから分からなかったが、独学でそれに気が付くことができた。
「冥王拳ッ!」
俺がそう言うと同時に周りにある気が赤色に変化し、身体能力が異常に上昇しているのを感じる。
本来なら気を使えば身体能力を上昇させることは可能だが、このワイバーンボールに出てくる冥王さまから教えてもらった冥王拳は気の質を上げることで何倍にも身体能力を上昇させることができる。
ただ、体力の消費や体に負担がかかってしまうという弱点も兼ね備えているが、少しの間なら鍛えていない俺でも使えることができる。
「ふぅ……、やっぱり体を鍛えた方が良いのか……?」
ワイバーンボールでも体を鍛えた上で気を扱えるようになっていた。俺はその体を鍛えるという部分を一切していないが気を扱えている。だから必要ないと思っていたが、冥王拳は体の強度がものを言う。
「ま、いっか!」
俺は気を使えることを楽しんでいるし、特別気を使う上で鍛えていない体に困ったことがないから、別にいいかと思って腐れ縁の幼馴染の気を探して〝瞬き移動〟で家に帰った。
☆
いつもの通学路、俺はいつも通り学校に向かっていた。
「ふわぁ……」
学生のいくらかは学校に向かう間、学校が面倒だの、学校をさぼりたいだの、眠たいだの思っていると思われる。俺もその例に漏れず、眠たくて学校が面倒でサボりたいと思っている。
だが、そうはいかないのが今の僕だ。
今、俺は中学三年生で受験勉強に励んでいる。残り数ヶ月で入試試験が迫っているため、それに向けて勉強を頑張らなければならない。
「ッ……よし」
両頬を叩いて気合を入れて俺は力強く一歩を踏み出し――
「おーい! ククロット~!」
「その名で呼ぶなァッ!」
踏み出したところで俺の後ろから俺を呼ぶ声が聞こえてきたが、その呼ぶ声は俺が是としたものではなかった。むしろ呼ぶなと何度も言っていることのため、声を荒げて振り返った。
「えぇ? なんでぇ?」
「人の嫌がることをやるなと習わなかったのか?」
セミロングの黒髪に可愛らしい雰囲気を纏い、こちらをニヤニヤとからかった表情をして見ている女、戸上里緒が俺の隣に来た。
「うーん、どうだったかなぁ。小学校の時はククロットにドジータって呼ばれてごっこ遊びをしていたことしか思い出せないかなぁ」
「そんなこと思い出さなくていいんだよ……」
「他にはぁ……」
「すぐに忘れてください、お願いします」
戸上が俺の黒歴史を掘り返そうとしていたため、俺はすぐに頭を下げて言わないようにお願いしたことで戸上は口を閉じてくれた。こういう俺をからかっているところがあるから、俺は戸上のことが嫌いだ。
「ははっ、やっぱり良牙をからかうのは面白いなぁ」
「からかわれるこっちは堪ったものじゃないがな」
「こんな可愛い幼馴染と会話できているんだから良いじゃん」
「はいはい、可愛いなー」
不本意だが、この戸上とは幼い頃から家が近くて世間からすれば幼馴染と呼ばれる存在だった。まさかここまで俺の黒歴史を引きずられるとは思ってもみなかったし、陽キャのこいつがいつまでも陰キャの俺に構っているとは思ってもみなかった。さっさと陽キャのグループにハマっていればいいのに。
「それよりさ、良牙はどの高校に行くのか決めてるの?」
「さぁ、どうだろうな」
「えっとぉ、小学校の帰りに――」
「言います、言わせていただきますぅっ!」
「ほんとぉ? 嬉しいなぁ」
脅迫してきておいて可愛らしい笑顔で嬉しいとか言ってくる戸上に血管がぶち切れそうになるが、何度も深呼吸をして収めた。
「武王学園だ」
「武王学園? 武王学園って、確か武道に力を入れている高校だったよね?」
「あぁ、そうだ」
「……確かに良牙の力があればそこでやっていけると思うけど、どうしてそこじゃないといけないの? 他でも良いと思うよ」
「そんなの決まっているだろ」
「なに?」
「ロマン」
「はぁ?」
「……怖いから」
俺が至って真面目に答えたのに戸上の真顔での〝は?〟は迫力があって怖い。いつも可愛らしい顔をしているのに急にこんなのが来るとギャップで怖さが増す。
「それで、本当は?」
「だから男のロマンだって」
「……それで?」
どうやら女には男のロマンを分かってくれないらしい。それどころかロマンと口に出せば冷たい視線を送ってくる。ロマンと口に出すのはやめようと思った。
「……まぁ、武道に力を入れているということも理由の一つだが、武王学園でしか学べない知識があると思ってそこにしたんだ」
「それって〝気〟のこと?」
「あぁ。武王学園は表立っては〝生徒同士が競い合い、武を極める〟という謳い文句を言っているが、それとは別に気の使い方を教えてくれるらしい」
「それはどこ情報なの?」
「ネット」
「……もう少し調べた方が良いんじゃない?」
「調べたんだよ。何なら武王学園に問い合わせた」
「問い合わせたの⁉」
「あぁ。問い合わせたら気を取り扱っているって言っていたぞ」
「なに、その物を取り扱うみたいな感じで気について言っているのは」
「とにかく、俺はそこに行くつもりだ。そう言う戸上はどこに行くんだ?」
俺の話をあまり続けたくないため、今度は戸上の話を聞くことにした。
「うーん、まだ決めてないんだよねぇ」
「もう決めておかないといけない時期だろ」
「そうなんだけど、イマイチピンと来ないの。……あっ、そうだ! 保育園、小学校、中学校と良牙と一緒だったから、高校も一緒にしようかなぁ」
「どれだけ一緒にいるつもりだよ。俺のこと好きなのか?」
「うん、そうだけど? 私は良牙のことが大好きだよ?」
「はいはい、俺も好きですよー」
愛の告白を適当に返しながら、俺は本当に戸上が武王学園に来そうだなと思っていた。保育園、小学校、中学校はまだ同じ地区ならすべて一緒だということは珍しくない。家が隣だし。
だが、高校はそれぞれの偏差値にあったところに入学することになるから、高校まで一緒だった日には夫婦と呼ばないといけない。俺が戸上の尻に敷かれる運命しか見えないけど。
☆
戸上と一緒に登校して、戸上と同じ教室に入った。俺は戸上とクラスが違ったことがなく、小学校と中学校の九年間、すべて同じクラスだ。先生たち、気が付いていないのかもしれないが、これは嫌がらせに近いと思われる。
「おはよー、里緒」
「うん、おはよー」
俺は戸上とわかれ、俺は自分の席に座り戸上は友達の元へと向かった。戸上は俺と違いトップカーストにいるため、友達が多くてさぞ人生を満喫しているのだろうと思いながらイヤホンを耳につけてワイバーンボールの主題歌を流しながら目を閉じて気を抑えることに意識を集中させる。
誰でも気を持っているが、それを扱える人は俺は出会ったことがない。そして誰でも持っている気は無意識のうちに放出されているため、それを抑えて少しでも気の消費をなくして気のコントロールを同時に行えるどこでも行える修行をやっている。
そんな中、俺の後頭部に何か軽いものが当たったことに気が付いた。軽いものだから当たっても痛みはないが、当たったことには気が付ける。
当たって物を見ると丸められた紙で、それを投げた奴の方を見ると気持ち悪い笑みでこちらを見ているイケメンな男子生徒とその周りに女子生徒がいた。その女子生徒の中には戸上もいたが、少し気まずそうな顔をしていた。
彼らはトップカーストと呼ばれる集団なため、何かしてきても無視するのが良いと思い前を向いてまた気を抑えることに集中させる。
しかし、彼らがそれで満足するわけではなく、今度は少し衝撃のある物が飛んできた。何が飛んできたかと思って下を見ると芯の出ているシャーペンが落ちていた。芯がある方が頭に当たっていれば、痛いどころでは済まなかったかもしれないが、それでも彼らは俺がどうなっても良いと思ってこういうことをしたのだと理解した。
あいつらに構っている時間は無駄だから無視しても良いが、それだと何を投げられるか分かったものではない。俺なら気を纏って防御力を上げて無傷で対処することは可能だが、やられっぱなしと言うのは面白くない。
「……ハァ」
俺は仕方がなくイヤホンを外してトップカーストの奴らの方を向いた。
「ようやくこっちを向いたぞ、ククロット。……くくくっ!」
「そんなに笑っちゃダメだよ、恭介。……ぷぷぷっ!」
男子生徒と周りにいた女性生徒がそう言って笑うと、戸上以外が笑い始めた。俺はそれを冷めた目で見ながら、少しだけ戸上の方を睨んだところ、気まずそうな顔で目をそらした。
「おい、ククロット。あの言葉を言ってみろよ。『オラ、ハラハラすっぞ!』だっけか?」
「それに、『ウッス、オラ行者!』でも良いんじゃないの?」
そう言ったトップカーストの連中は笑っているが、そんなことで笑えるのなら幸せだなと思いながら冷たい目で見ているとトップカーストの男が笑っている顔から気に入らない顔になった。
「何だよ、その顔。何か文句でもあるのか?」
ただ見ているだけだったのにこうしていちゃもんを付けられるのだから関わりたくないと思って前を向いてイヤホンを付けなおした。
すると後ろからこちらに来ている足音や気を感じた。気を感じているのだからそれがトップカーストの男であると分かっている。俺はそれを気にせずにワイバーンボールの主題歌を聞いているとイヤホンに手をかけようとする男の気配を感じた。
俺のことを勝手に言うことは別に気にしないから何も言わなかったが、物理的に何かしてくるとなると別なため、俺はトップカーストの男の手首を掴んでその手を止めた。
俺が男の方を見ると男は俺が見ずに手首をつかんだことで心底驚いた顔をしていたが、俺はそれを気にせずに男がいる方のイヤホンを取った。
「いい加減にしておけよ?」
俺が睨みをきかせてそう言うと、男はびっくりしたような顔をしているがすぐに余裕がある顔に戻って手を動かそうとする。
「はっ! いつからそんな偉そうなことを言えるようになったんだ? いい加減にするのはどっちの方かって教えて……ッ……は?」
男は手を動かそうとして俺の方に手を持っていこうとしているが一切動かせずにいた。喋っている間ずっと動かそうとしていたが、動かせていないため途中から喋らなくなり戸惑っている。
俺の素の身体能力ならこいつに勝てないが、俺が気を使えば負けることはない。ワイバーンボールに出てくる戦闘力を測る機械、センサーに倣って戦闘力を気の総量で数値化したところ、この男の戦闘力はたったの五、ゴミだ。
今の状態の俺が気を解放すれば、俺の戦闘力は一億は超える。気を使っているのだからこいつが勝てる道理はない。
「道端に落ちている石ころに構っている暇がお前にはあるのか? それならもう少しお友達(笑)と楽しい時間を過ごしていた方が良いんじゃないのか?」
「俺の行動を一々お前に指図される覚えは……! ……ぁ……っつ……」
俺が優しくそう言ってあげているのに、男は俺に反抗的なことを言ってきたから俺は少しずつ手に力を入れていくと明らかに顔色を悪くして冷や汗を流して痛そうにしているところで俺は手をはなした。
「自分の楽園(笑)にでも籠っておけばいいと思うぞ? その方が痛い思いをせずに済むだろ?」
「ッ! ……てめぇ……!」
つかまれた手首を痛そうにしながら男は人を殺しそうな目で俺を見てきたが、俺がもう一度手を男の方に伸ばすと身に染みた恐怖で俺から一歩後ずさった。
「……ぷっ」
俺はそれに我慢できずに少し笑ってしまったが、それを見られたことで男は顔を真っ赤にしてキレそうになっていたがそんな時に始業のチャイムが鳴り先生が入ってきたことで、真っ赤になりながらも自分の席に帰って行ったことで俺は満足した。
今まで言われ放題だったから、これくらいのことはして良いと思っていた。逆恨みして来ても、俺なら対処ができるし合法的に気を使えてうるさい奴らも黙らせることができて、一石二鳥だと思っている。
そう思っていると戸上からワイヤーにメッセージが来たことに気が付いた。
『やり過ぎ』
メッセージにはそう書かれており、後方の席に視線をやると戸上がすごい怖い笑顔で俺の方を見ていたから俺はすぐに視線を前に戻してスマホをしまった。
家が近いから絶対に夜に来るだろうなと思いながら俺は受験に向けて意識を切り替えた。
この名前を知らない日本人はいないくらいに認知されている日本の代表的な漫画だ。日本どころか世界で認知されている大人気と言っても良い。
知らない人はいないとは思うが補足として説明しておくと、世界中に散らばっている八つのボールを集めると願いが叶うとされるワイバーンボールをきっかけに尾を持った少年、行者を中心にお話が進んでいく物語だ。
さて、この少年漫画には気という超常能力が登場する。気とは誰でも持っているもので、マスターすれば空を飛ぶことだって可能だと出ている。
物語が進んでいくと、行者の息子であるオコメがメインに話が進み、モーデンという女性に気の使い方を教える描写が出てくる。
少年ならば、きっとこの気を使えないかと両手に意識を集中させたことであろう。俺もそうした。何も恥じることではない、誰もが通過する道を通っているだけに過ぎない。
ただ、俺がみんなと同じようにそこを通過しようとしたときに、一つだけ違うことがあった。俺はその気が使えたのだ。しかも一回で。本当に気が出るとは思わなかったから驚きすぎて落ち着くまでワイバーンボールを一周していた。
とにもかくにも、ロクに体を鍛えていないのに気を使えることに歓喜した俺はありとあらゆるワイバーンボールの技を極めようとした。
「すぅぅ……、ふぅぅぅぅぅぅ……」
真夜中で人里離れた誰もいない森の中で、気を安定させるために深呼吸をしていた。
「ッ! はああああああぁぁっ!」
そして安定したところで気合を入れるために声を出して気を爆発的に上昇させる。そこら辺にいた小動物たちは俺の気を感じたことで夜中なのに移動を始め、俺の周りの地面が揺れていることが分かる。
「ふぅ、今日はどうするかな……」
体に透明の気を纏っている状態、気を高めている状態を維持して今日やるワイバーンボールの技を考えた。人が周りにいないとは言え、地形を変える技や大きな技はふとした拍子に誰かに知られてできなくなるかもしれないから、少し落ち着いた技をすることにした。
「はああぁぁぁ……」
高めている気を変化させるという工程が必要となることは五年以上かけた研究で知った。ワイバーンボールだとポンポンと技を出していたから分からなかったが、独学でそれに気が付くことができた。
「冥王拳ッ!」
俺がそう言うと同時に周りにある気が赤色に変化し、身体能力が異常に上昇しているのを感じる。
本来なら気を使えば身体能力を上昇させることは可能だが、このワイバーンボールに出てくる冥王さまから教えてもらった冥王拳は気の質を上げることで何倍にも身体能力を上昇させることができる。
ただ、体力の消費や体に負担がかかってしまうという弱点も兼ね備えているが、少しの間なら鍛えていない俺でも使えることができる。
「ふぅ……、やっぱり体を鍛えた方が良いのか……?」
ワイバーンボールでも体を鍛えた上で気を扱えるようになっていた。俺はその体を鍛えるという部分を一切していないが気を扱えている。だから必要ないと思っていたが、冥王拳は体の強度がものを言う。
「ま、いっか!」
俺は気を使えることを楽しんでいるし、特別気を使う上で鍛えていない体に困ったことがないから、別にいいかと思って腐れ縁の幼馴染の気を探して〝瞬き移動〟で家に帰った。
☆
いつもの通学路、俺はいつも通り学校に向かっていた。
「ふわぁ……」
学生のいくらかは学校に向かう間、学校が面倒だの、学校をさぼりたいだの、眠たいだの思っていると思われる。俺もその例に漏れず、眠たくて学校が面倒でサボりたいと思っている。
だが、そうはいかないのが今の僕だ。
今、俺は中学三年生で受験勉強に励んでいる。残り数ヶ月で入試試験が迫っているため、それに向けて勉強を頑張らなければならない。
「ッ……よし」
両頬を叩いて気合を入れて俺は力強く一歩を踏み出し――
「おーい! ククロット~!」
「その名で呼ぶなァッ!」
踏み出したところで俺の後ろから俺を呼ぶ声が聞こえてきたが、その呼ぶ声は俺が是としたものではなかった。むしろ呼ぶなと何度も言っていることのため、声を荒げて振り返った。
「えぇ? なんでぇ?」
「人の嫌がることをやるなと習わなかったのか?」
セミロングの黒髪に可愛らしい雰囲気を纏い、こちらをニヤニヤとからかった表情をして見ている女、戸上里緒が俺の隣に来た。
「うーん、どうだったかなぁ。小学校の時はククロットにドジータって呼ばれてごっこ遊びをしていたことしか思い出せないかなぁ」
「そんなこと思い出さなくていいんだよ……」
「他にはぁ……」
「すぐに忘れてください、お願いします」
戸上が俺の黒歴史を掘り返そうとしていたため、俺はすぐに頭を下げて言わないようにお願いしたことで戸上は口を閉じてくれた。こういう俺をからかっているところがあるから、俺は戸上のことが嫌いだ。
「ははっ、やっぱり良牙をからかうのは面白いなぁ」
「からかわれるこっちは堪ったものじゃないがな」
「こんな可愛い幼馴染と会話できているんだから良いじゃん」
「はいはい、可愛いなー」
不本意だが、この戸上とは幼い頃から家が近くて世間からすれば幼馴染と呼ばれる存在だった。まさかここまで俺の黒歴史を引きずられるとは思ってもみなかったし、陽キャのこいつがいつまでも陰キャの俺に構っているとは思ってもみなかった。さっさと陽キャのグループにハマっていればいいのに。
「それよりさ、良牙はどの高校に行くのか決めてるの?」
「さぁ、どうだろうな」
「えっとぉ、小学校の帰りに――」
「言います、言わせていただきますぅっ!」
「ほんとぉ? 嬉しいなぁ」
脅迫してきておいて可愛らしい笑顔で嬉しいとか言ってくる戸上に血管がぶち切れそうになるが、何度も深呼吸をして収めた。
「武王学園だ」
「武王学園? 武王学園って、確か武道に力を入れている高校だったよね?」
「あぁ、そうだ」
「……確かに良牙の力があればそこでやっていけると思うけど、どうしてそこじゃないといけないの? 他でも良いと思うよ」
「そんなの決まっているだろ」
「なに?」
「ロマン」
「はぁ?」
「……怖いから」
俺が至って真面目に答えたのに戸上の真顔での〝は?〟は迫力があって怖い。いつも可愛らしい顔をしているのに急にこんなのが来るとギャップで怖さが増す。
「それで、本当は?」
「だから男のロマンだって」
「……それで?」
どうやら女には男のロマンを分かってくれないらしい。それどころかロマンと口に出せば冷たい視線を送ってくる。ロマンと口に出すのはやめようと思った。
「……まぁ、武道に力を入れているということも理由の一つだが、武王学園でしか学べない知識があると思ってそこにしたんだ」
「それって〝気〟のこと?」
「あぁ。武王学園は表立っては〝生徒同士が競い合い、武を極める〟という謳い文句を言っているが、それとは別に気の使い方を教えてくれるらしい」
「それはどこ情報なの?」
「ネット」
「……もう少し調べた方が良いんじゃない?」
「調べたんだよ。何なら武王学園に問い合わせた」
「問い合わせたの⁉」
「あぁ。問い合わせたら気を取り扱っているって言っていたぞ」
「なに、その物を取り扱うみたいな感じで気について言っているのは」
「とにかく、俺はそこに行くつもりだ。そう言う戸上はどこに行くんだ?」
俺の話をあまり続けたくないため、今度は戸上の話を聞くことにした。
「うーん、まだ決めてないんだよねぇ」
「もう決めておかないといけない時期だろ」
「そうなんだけど、イマイチピンと来ないの。……あっ、そうだ! 保育園、小学校、中学校と良牙と一緒だったから、高校も一緒にしようかなぁ」
「どれだけ一緒にいるつもりだよ。俺のこと好きなのか?」
「うん、そうだけど? 私は良牙のことが大好きだよ?」
「はいはい、俺も好きですよー」
愛の告白を適当に返しながら、俺は本当に戸上が武王学園に来そうだなと思っていた。保育園、小学校、中学校はまだ同じ地区ならすべて一緒だということは珍しくない。家が隣だし。
だが、高校はそれぞれの偏差値にあったところに入学することになるから、高校まで一緒だった日には夫婦と呼ばないといけない。俺が戸上の尻に敷かれる運命しか見えないけど。
☆
戸上と一緒に登校して、戸上と同じ教室に入った。俺は戸上とクラスが違ったことがなく、小学校と中学校の九年間、すべて同じクラスだ。先生たち、気が付いていないのかもしれないが、これは嫌がらせに近いと思われる。
「おはよー、里緒」
「うん、おはよー」
俺は戸上とわかれ、俺は自分の席に座り戸上は友達の元へと向かった。戸上は俺と違いトップカーストにいるため、友達が多くてさぞ人生を満喫しているのだろうと思いながらイヤホンを耳につけてワイバーンボールの主題歌を流しながら目を閉じて気を抑えることに意識を集中させる。
誰でも気を持っているが、それを扱える人は俺は出会ったことがない。そして誰でも持っている気は無意識のうちに放出されているため、それを抑えて少しでも気の消費をなくして気のコントロールを同時に行えるどこでも行える修行をやっている。
そんな中、俺の後頭部に何か軽いものが当たったことに気が付いた。軽いものだから当たっても痛みはないが、当たったことには気が付ける。
当たって物を見ると丸められた紙で、それを投げた奴の方を見ると気持ち悪い笑みでこちらを見ているイケメンな男子生徒とその周りに女子生徒がいた。その女子生徒の中には戸上もいたが、少し気まずそうな顔をしていた。
彼らはトップカーストと呼ばれる集団なため、何かしてきても無視するのが良いと思い前を向いてまた気を抑えることに集中させる。
しかし、彼らがそれで満足するわけではなく、今度は少し衝撃のある物が飛んできた。何が飛んできたかと思って下を見ると芯の出ているシャーペンが落ちていた。芯がある方が頭に当たっていれば、痛いどころでは済まなかったかもしれないが、それでも彼らは俺がどうなっても良いと思ってこういうことをしたのだと理解した。
あいつらに構っている時間は無駄だから無視しても良いが、それだと何を投げられるか分かったものではない。俺なら気を纏って防御力を上げて無傷で対処することは可能だが、やられっぱなしと言うのは面白くない。
「……ハァ」
俺は仕方がなくイヤホンを外してトップカーストの奴らの方を向いた。
「ようやくこっちを向いたぞ、ククロット。……くくくっ!」
「そんなに笑っちゃダメだよ、恭介。……ぷぷぷっ!」
男子生徒と周りにいた女性生徒がそう言って笑うと、戸上以外が笑い始めた。俺はそれを冷めた目で見ながら、少しだけ戸上の方を睨んだところ、気まずそうな顔で目をそらした。
「おい、ククロット。あの言葉を言ってみろよ。『オラ、ハラハラすっぞ!』だっけか?」
「それに、『ウッス、オラ行者!』でも良いんじゃないの?」
そう言ったトップカーストの連中は笑っているが、そんなことで笑えるのなら幸せだなと思いながら冷たい目で見ているとトップカーストの男が笑っている顔から気に入らない顔になった。
「何だよ、その顔。何か文句でもあるのか?」
ただ見ているだけだったのにこうしていちゃもんを付けられるのだから関わりたくないと思って前を向いてイヤホンを付けなおした。
すると後ろからこちらに来ている足音や気を感じた。気を感じているのだからそれがトップカーストの男であると分かっている。俺はそれを気にせずにワイバーンボールの主題歌を聞いているとイヤホンに手をかけようとする男の気配を感じた。
俺のことを勝手に言うことは別に気にしないから何も言わなかったが、物理的に何かしてくるとなると別なため、俺はトップカーストの男の手首を掴んでその手を止めた。
俺が男の方を見ると男は俺が見ずに手首をつかんだことで心底驚いた顔をしていたが、俺はそれを気にせずに男がいる方のイヤホンを取った。
「いい加減にしておけよ?」
俺が睨みをきかせてそう言うと、男はびっくりしたような顔をしているがすぐに余裕がある顔に戻って手を動かそうとする。
「はっ! いつからそんな偉そうなことを言えるようになったんだ? いい加減にするのはどっちの方かって教えて……ッ……は?」
男は手を動かそうとして俺の方に手を持っていこうとしているが一切動かせずにいた。喋っている間ずっと動かそうとしていたが、動かせていないため途中から喋らなくなり戸惑っている。
俺の素の身体能力ならこいつに勝てないが、俺が気を使えば負けることはない。ワイバーンボールに出てくる戦闘力を測る機械、センサーに倣って戦闘力を気の総量で数値化したところ、この男の戦闘力はたったの五、ゴミだ。
今の状態の俺が気を解放すれば、俺の戦闘力は一億は超える。気を使っているのだからこいつが勝てる道理はない。
「道端に落ちている石ころに構っている暇がお前にはあるのか? それならもう少しお友達(笑)と楽しい時間を過ごしていた方が良いんじゃないのか?」
「俺の行動を一々お前に指図される覚えは……! ……ぁ……っつ……」
俺が優しくそう言ってあげているのに、男は俺に反抗的なことを言ってきたから俺は少しずつ手に力を入れていくと明らかに顔色を悪くして冷や汗を流して痛そうにしているところで俺は手をはなした。
「自分の楽園(笑)にでも籠っておけばいいと思うぞ? その方が痛い思いをせずに済むだろ?」
「ッ! ……てめぇ……!」
つかまれた手首を痛そうにしながら男は人を殺しそうな目で俺を見てきたが、俺がもう一度手を男の方に伸ばすと身に染みた恐怖で俺から一歩後ずさった。
「……ぷっ」
俺はそれに我慢できずに少し笑ってしまったが、それを見られたことで男は顔を真っ赤にしてキレそうになっていたがそんな時に始業のチャイムが鳴り先生が入ってきたことで、真っ赤になりながらも自分の席に帰って行ったことで俺は満足した。
今まで言われ放題だったから、これくらいのことはして良いと思っていた。逆恨みして来ても、俺なら対処ができるし合法的に気を使えてうるさい奴らも黙らせることができて、一石二鳥だと思っている。
そう思っていると戸上からワイヤーにメッセージが来たことに気が付いた。
『やり過ぎ』
メッセージにはそう書かれており、後方の席に視線をやると戸上がすごい怖い笑顔で俺の方を見ていたから俺はすぐに視線を前に戻してスマホをしまった。
家が近いから絶対に夜に来るだろうなと思いながら俺は受験に向けて意識を切り替えた。
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