転職ライフ

山椒

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02:職業・狩人。

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「ライトニングアロー」

 俺が放った矢は何食わぬ顔でいる魔物であるゴブリンの胸を貫いたことでゴブリンは倒れた。

 そして周りにいたゴブリンたちは絶命したゴブリンを見て叫んで敵である俺を探そうとしていたが、その前に新たに矢を魔力で作り出した。

「ライトニングアロ―・ブランチ」

 二射目は放たれたと同時くらいに複数に分裂してゴブリンたちの胸を的確に貫いて行く。

「……これくらいなら、楽勝だな」

 すべてのゴブリンたちに反撃を許すことなく倒すことができたことで満足だ。

 母さんの修行が始まって一年ほどで、俺には『必中』と『鷹の目』と『シンクロ』と『創弓』と『剛矢』と『魔法矢・雷』のスキルを手に入れることができた。

 木こりの時とは違い、かなり手に入れるスキルがあったし何ならまだまだ覚えたいスキルはあるが、それでも狩人と最低限名乗ることはできるラインには立てた。

「さすがね、ティム。複数の魔物を狩るまでになるとは思わなかったわ」
「まあ才能がないと言ってたから驚くよね」
「……聞こえていたのね」
「バッチリと」

 バツの悪そうな顔をする母さんだが、すぐに表情を切り替えて誇らしい顔をした。

「ゼロからのスタートで、六つのスキルを一年で覚えることができたのはすごいと思うわ。ティムには狩人の才能があるわね」
「そう? 才能があると言うのはスキルを生まれ持っていた人たちのことじゃないの?」
「確かにそれも才能があると言えるわ。でも何も持たずにスキルを獲得できる才能は、元より持っていた人たちくらいに才能があると言えるわ」
「……そうかな?」
「そうよ」

 素直に母さんに褒められたことで俺は嬉しくなる。

「それで、狩人の才能があるティムは、狩人になる気になったかしら?」

 だけどその言葉を聞いて何とも言えない感情が俺の中で渦巻いている。

 確かに、狩人という職業をしてみて、スキルを獲得してやりがいを感じている。木こりと同じくらいに。

 だが狩人である将来の自分を想像してみると、やっぱり木こりと同じく何か体の中でモヤモヤが止まらない気がしてならない。

 決して、その将来が嫌と言うわけではない。木こりと同じく狩人をやっても悔いのない選択になるだろう。

 ただそれでもこうして決めている時は何とも言えない感情になってしまう。

「その様子だと、狩人でもないみたいね。残念」
「……ごめんなさい」
「謝ることじゃないわ。あなたの道だもの、じっくりと考えて決めればいいわ。ティムの倍生きてからようやくその道を決めようとしている人もいるのだから、じっくりと決めなさい」
「……うん」

 父さんと母さんに同じようなことを言われて嬉しくなる。

 本当に俺は俺が思っている以上に愛されているということか。まあ、ただ俺が壁を作りすぎているだけなのかもしれないが。

「それに、あれにも聞いたけどまだ木こりになる可能性もあるし、狩人になる可能性だってあるのでしょう? それなら私はティムの道の果てが狩人になることを祈っておくわ」
「あれって父さんのこと?」
「それ以外何があるというの?」

 本当にどうして父さんと母さんが結婚したのかが未だに謎だ。

 父さんは母さんのことを愛しているみたいだけど、母さんは特に愛情はないみたいだ。でも俺は愛してくれている。

「交代の時間だわ」

 俺と母さんが話していると村の方から鐘の音が鳴り響いた。

 これは警備の交代の時間を知らせる鐘の音で、今は俺と母さんの二人で最も魔物がいるであろう西側を警備していた。

「帰りましょう、ティム」
「うん、そうだね」

 俺と母さんは仕留めたゴブリンたちを回収して村に戻った。

 ☆

「そうか! もう狩人をマスターしたのか!」
「食事中にうるさいわ」
「いや、別にマスターしたわけじゃないよ。狩人として名乗れるくらいにはなったってだけ」

 夕食時に一応は狩人として名乗れるくらいにはなったと父さんに言ったら、大笑いしながら嬉しそうにしていた。

「まだ覚えていないスキルもあるから、それも覚えていけたらいいなって思ってる」
「いいえティム。あなたにはもう警備隊から抜けてもらうわ」
「……どうして?」

 もしかして狩人になる気がないのなら警備隊にいる意味はない! とか思ったが母さんがそんなことを言うはずがない。

「残りのスキルは空いた時間でも手に入れることができるわ。でも新しいスキルはそうはいかないのは分かっているわね? だから別の人の元へと行くべきよ」

 ……言われてみればそうだな。

 スキルを手に入れること自体は損になることはあまりないが、それのために時間を費やすことはあまり賢くない。

「うん、わかった」
「それなら次は誰にするんだ? ヴィクトリア」
「気安く名前を呼ばないで」

 名前を呼んだだけでもこれだよ。これだけ嫌われているって、父さんは本当に何をしたのだろうか。

「誰にしようかしら……」
「ねぇ、父さん。母さんにどうして嫌われているの?」

 ついに気になって母さんが考えている間に父さんに聞いた。

「あー、うん、あれだ……あれだよ」

 だが父さんはとても言いにくそうにしている。それがとてつもなく怪しさをはらんでいるが、ここで追撃するほど俺は子供じゃない。

「そうなんだ、あれなんだ」
「あー、あれだ。うん、あれだ」

 いつもの勢いはどこへやら。言いにくそうにしているし肩身が狭いようにも思える。

「その話はもうやめておきなさい、ティム。言いにくいことというだけ覚えておけばいいわ」
「うん……分かった」

 そこで母さんの言葉でその話は強制的に終わったが、それでも父さんは母さんに助けられたのにまだ肩身を狭くしている。

「木こりに狩人だったから、次は少し特殊な職業をしましょう」
「特殊な職業?」

 特殊ということは、体を動かす系の職業ではないということか。

「今までは才能がなくてもできたかもしれないけど、特殊な職業は才能とは別のセンスが求められるわ」
「……もしかして、治療師とか?」
「そうね。というかそれが出たのなら治療師にしましょうか」
「うん!」

 治療師か。今までにあの人には色々とお世話になっているから、そんな人みたいになれたらいいなと考えていたから楽しみだ。

 ☆

 明日から治療師の人に修行をつけてもらえると言われて、今日は予定もなく村の中を少し足取り軽く歩く俺。

「……楽しみだなぁ」

 思わずそう口に出てしまうほどに明日が楽しみだ。

 それは治療師の人に修行をつけてもらえるからというわけではない。木こりの時でもそうだったし、狩人の時でもそうだった。

「おはよう、ティムちゃん」
「おはようございます、ポーラさん」
「元気かティム!」
「はい元気ですよ、バートンさん」

 村の人と挨拶をしながら、歩いていると腕を組んで堂々と道の真ん中に立っている人が見えた。

「ティム! 遅いわよ!」

 怒っているという感情をまき散らしている、金髪のサイドテールで俺と同い年の女の子、エミリー・ソーンがいた。

 だが……俺とエミは特に約束はしていないが、まあ別にいいか。暇だし。

「うん、ごめんね。エミ」
「フン! 今度から気を付けなさいよ!」
「今度から気を付けるから機嫌を直して?」
「絶対よ!」
「うん、絶対」

 今回も約束していないしこれからのこともエミのさじ加減だが、まあいいか。

 すっと俺にそれとなく手を差し出してきたエミに少し可愛さを感じながらその手を取る。

「そんなに私と手が繋ぎたかったの? それなら仕方がないわね!」
「うん、ありがとう」

 これだけでエミがどういう女の子かが分かるとはすごいと思う。

「それよりも最近はどこに行ってたのよ! 私暇だったんだから」
「最近は母さんに狩人として鍛えてもらっていたんだ」
「狩人? ティムは木こりでしょ?」
「いや、最近は別の道を考えてみることにしたから、母さんに狩人として鍛えてもらっていた」
「どうして?」
「どうして……これからのことを考えて、木こりでいいのか、他の道はないのかって考えた時に他の道の可能性を感じた、から?」
「よく分からないわよ! もっと分かりやすく言いなさいよ!」
「将来を考えて?」
「ふーん……ちなみに私は決まっているわ! 村長よ!」
「そうだね」

 エミは村長の一人娘であるから、かなり甘やかされているのだ。

「それに私には『剣神』のスキルがあるんだから!」
「それは本当にすごいと思う」

 神と名のつくスキルはかなりレアなスキルだ。

 俺の『死神』ならともかく、『剣神』のスキルはおそらくどこに行っても重宝されるくらいに強くて珍しいスキルだ。

 まあそれも相まってこの性格を加速させているわけだが。

「ねぇ、狩人でどんなスキルを覚えたのよ」
「『創弓』とか『魔法矢・雷』とかだよ」
「それなら私が全部打ち落としてあげるわ! 行くわよ!」
「うん、行こうか」

 俺の答えなど聞かずにエミは子供たちの遊び場になっている森へ向かおうと俺を引っ張る。

 意気揚々としているエミに、村の人たちはあまりいい感情を向けず、関わらないように離れていた。

 こういう性格が相まって、この村でまともに喋るのは俺しかいないという状況になっているわけだ。

 まあこんな状況で村長になれるわけがないから、俺がこの村を出ることになったらエミを連れて行こうと決心している今日この頃だ。

 現在のティム・スコットのスキル『死神』・『伐採』・『怪力』・『必中』・『鷹の目』・『シンクロ』・『創弓』・『剛矢』・『魔法矢・雷』
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