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全能の爆誕
035:飛行船。
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メルシエさんに連れてこられたのはさっき窓から見えていた飛行船だった。近くに来ただけで圧巻される大きさだ。
飛行船は着陸しているのではなく、浮いている状態で止まっており、飛行船に乗り込むためであろうはしごがかけられている。
「どうして僕を飛行船に?」
「実はですね、この飛行船の調子が悪くていつもより速度が出せなくて、魔力消費も悪い状態になっているんですよ。これだと商売にも支障をきたすので魔道具を解析できるアーサーさまにどこが悪いのかを見ていただきたいのです」
そんなことを四歳の俺に頼むか? それならさっき言っていたグリーテンでもいいんじゃないのか? それにこの手のプロに頼んだ方がいいだろ。
「グリーテンとか、他の魔道具を修理? する人に頼めないのですか?」
「これも伝説の魔道具制作者サブリの飛行船ですから、並みの魔道具調整者では手に負えません。しかも腕があったとしてもサブリの飛行船は訳が違うんです。ルフェイさんに至っては、サブリのものを見たくないと言っていますから……」
へぇ、グリーテンがそんな好き嫌いをするのか。始めて知った。
まあとりあえずメルシエさんにお願いされたから見るだけ見ることにしようか。どこが悪いか分かったとして、それをメルシエさんが直す手段があるかどうかは知らないが。
「どこに行っているんですか? アーサーさま」
「えっ? のぼるんじゃないんですか?」
飛行船から垂れているはしごをのぼろうとするとメルシエさんに止められた。
「仮にも天空と名乗っているんですから、風魔法はお手のものです。それでは失礼します、アーサーさま」
「へ?」
俺の背後に立ったメルシエさんが俺を後ろから抱き抱えて風魔法で上昇した。
うわっ、案外こうやって上に飛んだことがないからこうして見てみるとランスロット家の屋敷の周りがどうなっているのか知ることができた。
ちゃんと町が発展していて日本では見られない町並みが広がっていた。
そもそもこの歳まで屋敷から出たことがないってどんだけだよ。町くらいには行かせてくれてもいいだろうに。
「はい、到着しました」
「ありがとうございます」
メルシエさんと一緒に飛んで甲板に降り立つと、天空商会の人たちがせわしなく動いている。
「わぁ……飛行船だぁ……」
「ふふっ、飛行船はすごいですよね? 私が最初にお父さんに連れてこられたときもそんな感じでした。どうせですから飛行船の中をご案内しますね」
「うん!」
かなり俺のテンションが上がっているのは間違いない。こんなものはアニメくらいでしか見たことがなかったから楽しくなるのは仕方がない。
というか俺はもうそろそろで外の世界を見てみたいのだがお父上様はどう考えているのだろうか。シルヴィー姉さんやルーシー姉さんが屋敷の外に出て街に何があったかを教えてくれているが、俺は一切街に行ったことがないから羨ましいと思うのは仕方がない。
メルシエさんと並んで飛行船の中を歩いていく。
「頭領! そちらのお子さんは頭領のお子さんですかい?」
「そんなわけないっすよ」
「頭領! ご結婚おめでとうございます!」
「そんなわけないよ」
「頭領! ついに結婚できないからって子供を……」
「うるさいっ!」
なんだ? さっきからメルシエさんと並んで歩いているだけでめっちゃ結婚したのか? とかいつの間に子供を産んだのか? とか商会の人たちがメルシエさんに聞いてくる。
「ごめんなさい、アーサーさま。仲間が変なことを言って」
「……もしかして」
「それ以上は言わないでくださいアーサーさま! アーサーさまに言われるともう女としての僕の人生が終わりそうなんで!」
いやそんなことするわけないだろ。
だがメルシエさんが結婚できない人であることはよくわかった。
「ま、まあメルシエさんはお若いですし可愛いからいい人が見つかると思いますよ?」
「子供に慰められた! でもありがとうございます、アーサーさま。……ハァ」
「げ、元気出してください。きっと大丈夫ですよ!」
「……じゃあ、結婚相手がいなかったらアーサーさまがもらってくれますか?」
それは普通にいい話なんじゃないのか? 天空商会の頭領でかわいい女性なんだろ? 本当にどうして結婚相手が見つからないんだろうか? もしかして結婚相手への望みが高すぎる系か?
「その時になれば僕のところに来てください、メルシエさん」
とりあえず社交辞令としてこう言っておこう。これで四歳の言葉を真に受けるような女性だったら、その時は腹をくくろう。
「約束ですよ! よしっ、これで結婚のことなんか考えなくてよくなった!」
あー、真に受けている人だった。その時といってもまだ十年以上はあるんだ。その時になるまでさすがにメルシエさんにいい人が見つかっているだろう。
「これがこの船の動力部です!」
飛行船の中を案内されつつ、本題の飛行船の動力部へとたどり着いた。
前世とは違い、複雑な回路が可視化されているわけではないから大きな丸い水晶だけで動力部が完成している。可視化されていないだけで、水晶の中には魔方陣が組み込まれている。
「どうですか? 動力部には異常がありますか?」
「そうですね……」
どう伝えればいいだろうか。
この飛行船が飛ぶために魔方陣を組み込んで作り上げたことは本当に素晴らしいことなのだろう。普通の人が考えれば。
俺から言わせてみれば、無駄がありすぎて称賛どころか見ているだけで頭が痛くなってくるレベルだ。どうしてグリーテンが見たくないと言っていたのか理由がわかった。
あのペンダント型の魔道具もそうだが、サブリとかいう人の魔道具はどうしてそんなに伝説とか言われているんだよ。本当に魔道具を作れる人が珍しいから? それとも飛行船や簡易通信機とかの魔道具を作れる人がいないから?
とにもかくにも、メルシエさんにはありのままを話す以外に言葉が見つからない。
「どう説明したらいいんでしょうか……」
「もう本当に分かったことがあったら何でも言ってください!」
「それじゃあお言葉に甘えて。この飛行船の動力に組み込まれている魔方陣、見るに堪えないくらいに魔方陣がごちゃごちゃしていますね。必要な計算式に必要のないものまで組み込んでいるのでそれはもう最悪な状態になっています。おそらくその状態で、しかも長らく整備がされてない状態なのでもうこの動力はもう少しで壊れるのではないでしょうか?」
「えっ……本当ですか?」
「本当です。すぐに整備、もしくは買い換えをおすすめします」
本当にガチの話だ。精密機械に分類されるこれを該当の魔道具調整者がいないから長らく放置していたら、いくらこのごちゃごちゃしている魔道具じゃなくてもうまく作動しない可能性が出てくる。
「もしかしてルフェイさんがサブリの魔道具を毛嫌いしている理由って……」
「たぶん魔方陣が汚いからだと思いますよ」
「伝説の魔道具制作者のサブリの魔道具が……何も分からない僕たちからすれば、とんでもない代物ですけどね」
まあ、これから先はメルシエさんがすることだ。間違っても俺に頼んでくるわけが。
「アーサーさま? ものは相談なのですが……」
「……言っておきますけど、やりませんよ?」
「そこをなんとかお願いします! これがなくなったら商売ができなくなるんですよ! アーサーさまならできますよね?」
「まぁ、できると言えばできますけど……」
メルシエさんが手を合わせてお願いしてくる。
確かにこれがなければもう天空商会を名乗れないだろうが、俺がこの飛行船に手を加えるとなるととんでもない作業になってしまう。
「分かりました、それなら商売の話で説得しましょう。これがなければアーサーさまからマンガを受け取ったとしても安全なルートで王都に品物を届けることができなくなります。空は一番安全な移動手段ですから」
飛行船が珍しいということは、それだけ飛行船を持っている人は空を占有できるということか。
まあこれからお世話になるんだったら直してもいいとは思っている。直すことはできる、でも問題はそこじゃないんだ。
「アーサーさまはどうしてそこまで渋っているのですか? 面倒だから、とかですか?」
「まあ面倒になることは確かです。でも一番の問題は僕がこの飛行船を直すとき、絶対にこの船の魔方陣を一度すべて破棄するところから始めないといけないんですよ。そうなってくれば時間も、面倒もかかってしまうので……」
「いけないところだけ直すというやり方はできないのですか?」
「すべてが無駄なのですべてやり直さないと無理です」
既存のものから上書きするよりも新規でした方がすぐに終わらすことができるからな。
それが無理なら俺は手伝うことはできない。こんな無駄なものを直すことの方が無駄だというものだ。
「分かりました、ではアーサー・ランスロットさまに依頼します。この飛行船を前以上の出来に修理してください。報酬はアーサーさまの言い値をお支払します」
「……今さらですけど、四歳の僕が言っていることを信じてくれるんですか?」
「本当に今さらですよ。僕はあのマンガを見た時からアーサーさまを信用していますから、今までの言葉もすべて信じています」
……さすがに、ここまで言われたら飛行船の修理を受けなければならないか。
「分かりました、その仕事は引き受けましょう。これから色々と仲良くしてもらうので報酬はメルシエさんが出来上がったときにでも決めてください」
「それは期待してもいいのですね?」
「もちろん、バッチリ仕事をこなしますよ!」
ま、俺からしてみれば空を飛ぶくらいの船を修理するくらいお手のものだ。メルシエさんに恩を着せておくのが一番の目的だが。
飛行船は着陸しているのではなく、浮いている状態で止まっており、飛行船に乗り込むためであろうはしごがかけられている。
「どうして僕を飛行船に?」
「実はですね、この飛行船の調子が悪くていつもより速度が出せなくて、魔力消費も悪い状態になっているんですよ。これだと商売にも支障をきたすので魔道具を解析できるアーサーさまにどこが悪いのかを見ていただきたいのです」
そんなことを四歳の俺に頼むか? それならさっき言っていたグリーテンでもいいんじゃないのか? それにこの手のプロに頼んだ方がいいだろ。
「グリーテンとか、他の魔道具を修理? する人に頼めないのですか?」
「これも伝説の魔道具制作者サブリの飛行船ですから、並みの魔道具調整者では手に負えません。しかも腕があったとしてもサブリの飛行船は訳が違うんです。ルフェイさんに至っては、サブリのものを見たくないと言っていますから……」
へぇ、グリーテンがそんな好き嫌いをするのか。始めて知った。
まあとりあえずメルシエさんにお願いされたから見るだけ見ることにしようか。どこが悪いか分かったとして、それをメルシエさんが直す手段があるかどうかは知らないが。
「どこに行っているんですか? アーサーさま」
「えっ? のぼるんじゃないんですか?」
飛行船から垂れているはしごをのぼろうとするとメルシエさんに止められた。
「仮にも天空と名乗っているんですから、風魔法はお手のものです。それでは失礼します、アーサーさま」
「へ?」
俺の背後に立ったメルシエさんが俺を後ろから抱き抱えて風魔法で上昇した。
うわっ、案外こうやって上に飛んだことがないからこうして見てみるとランスロット家の屋敷の周りがどうなっているのか知ることができた。
ちゃんと町が発展していて日本では見られない町並みが広がっていた。
そもそもこの歳まで屋敷から出たことがないってどんだけだよ。町くらいには行かせてくれてもいいだろうに。
「はい、到着しました」
「ありがとうございます」
メルシエさんと一緒に飛んで甲板に降り立つと、天空商会の人たちがせわしなく動いている。
「わぁ……飛行船だぁ……」
「ふふっ、飛行船はすごいですよね? 私が最初にお父さんに連れてこられたときもそんな感じでした。どうせですから飛行船の中をご案内しますね」
「うん!」
かなり俺のテンションが上がっているのは間違いない。こんなものはアニメくらいでしか見たことがなかったから楽しくなるのは仕方がない。
というか俺はもうそろそろで外の世界を見てみたいのだがお父上様はどう考えているのだろうか。シルヴィー姉さんやルーシー姉さんが屋敷の外に出て街に何があったかを教えてくれているが、俺は一切街に行ったことがないから羨ましいと思うのは仕方がない。
メルシエさんと並んで飛行船の中を歩いていく。
「頭領! そちらのお子さんは頭領のお子さんですかい?」
「そんなわけないっすよ」
「頭領! ご結婚おめでとうございます!」
「そんなわけないよ」
「頭領! ついに結婚できないからって子供を……」
「うるさいっ!」
なんだ? さっきからメルシエさんと並んで歩いているだけでめっちゃ結婚したのか? とかいつの間に子供を産んだのか? とか商会の人たちがメルシエさんに聞いてくる。
「ごめんなさい、アーサーさま。仲間が変なことを言って」
「……もしかして」
「それ以上は言わないでくださいアーサーさま! アーサーさまに言われるともう女としての僕の人生が終わりそうなんで!」
いやそんなことするわけないだろ。
だがメルシエさんが結婚できない人であることはよくわかった。
「ま、まあメルシエさんはお若いですし可愛いからいい人が見つかると思いますよ?」
「子供に慰められた! でもありがとうございます、アーサーさま。……ハァ」
「げ、元気出してください。きっと大丈夫ですよ!」
「……じゃあ、結婚相手がいなかったらアーサーさまがもらってくれますか?」
それは普通にいい話なんじゃないのか? 天空商会の頭領でかわいい女性なんだろ? 本当にどうして結婚相手が見つからないんだろうか? もしかして結婚相手への望みが高すぎる系か?
「その時になれば僕のところに来てください、メルシエさん」
とりあえず社交辞令としてこう言っておこう。これで四歳の言葉を真に受けるような女性だったら、その時は腹をくくろう。
「約束ですよ! よしっ、これで結婚のことなんか考えなくてよくなった!」
あー、真に受けている人だった。その時といってもまだ十年以上はあるんだ。その時になるまでさすがにメルシエさんにいい人が見つかっているだろう。
「これがこの船の動力部です!」
飛行船の中を案内されつつ、本題の飛行船の動力部へとたどり着いた。
前世とは違い、複雑な回路が可視化されているわけではないから大きな丸い水晶だけで動力部が完成している。可視化されていないだけで、水晶の中には魔方陣が組み込まれている。
「どうですか? 動力部には異常がありますか?」
「そうですね……」
どう伝えればいいだろうか。
この飛行船が飛ぶために魔方陣を組み込んで作り上げたことは本当に素晴らしいことなのだろう。普通の人が考えれば。
俺から言わせてみれば、無駄がありすぎて称賛どころか見ているだけで頭が痛くなってくるレベルだ。どうしてグリーテンが見たくないと言っていたのか理由がわかった。
あのペンダント型の魔道具もそうだが、サブリとかいう人の魔道具はどうしてそんなに伝説とか言われているんだよ。本当に魔道具を作れる人が珍しいから? それとも飛行船や簡易通信機とかの魔道具を作れる人がいないから?
とにもかくにも、メルシエさんにはありのままを話す以外に言葉が見つからない。
「どう説明したらいいんでしょうか……」
「もう本当に分かったことがあったら何でも言ってください!」
「それじゃあお言葉に甘えて。この飛行船の動力に組み込まれている魔方陣、見るに堪えないくらいに魔方陣がごちゃごちゃしていますね。必要な計算式に必要のないものまで組み込んでいるのでそれはもう最悪な状態になっています。おそらくその状態で、しかも長らく整備がされてない状態なのでもうこの動力はもう少しで壊れるのではないでしょうか?」
「えっ……本当ですか?」
「本当です。すぐに整備、もしくは買い換えをおすすめします」
本当にガチの話だ。精密機械に分類されるこれを該当の魔道具調整者がいないから長らく放置していたら、いくらこのごちゃごちゃしている魔道具じゃなくてもうまく作動しない可能性が出てくる。
「もしかしてルフェイさんがサブリの魔道具を毛嫌いしている理由って……」
「たぶん魔方陣が汚いからだと思いますよ」
「伝説の魔道具制作者のサブリの魔道具が……何も分からない僕たちからすれば、とんでもない代物ですけどね」
まあ、これから先はメルシエさんがすることだ。間違っても俺に頼んでくるわけが。
「アーサーさま? ものは相談なのですが……」
「……言っておきますけど、やりませんよ?」
「そこをなんとかお願いします! これがなくなったら商売ができなくなるんですよ! アーサーさまならできますよね?」
「まぁ、できると言えばできますけど……」
メルシエさんが手を合わせてお願いしてくる。
確かにこれがなければもう天空商会を名乗れないだろうが、俺がこの飛行船に手を加えるとなるととんでもない作業になってしまう。
「分かりました、それなら商売の話で説得しましょう。これがなければアーサーさまからマンガを受け取ったとしても安全なルートで王都に品物を届けることができなくなります。空は一番安全な移動手段ですから」
飛行船が珍しいということは、それだけ飛行船を持っている人は空を占有できるということか。
まあこれからお世話になるんだったら直してもいいとは思っている。直すことはできる、でも問題はそこじゃないんだ。
「アーサーさまはどうしてそこまで渋っているのですか? 面倒だから、とかですか?」
「まあ面倒になることは確かです。でも一番の問題は僕がこの飛行船を直すとき、絶対にこの船の魔方陣を一度すべて破棄するところから始めないといけないんですよ。そうなってくれば時間も、面倒もかかってしまうので……」
「いけないところだけ直すというやり方はできないのですか?」
「すべてが無駄なのですべてやり直さないと無理です」
既存のものから上書きするよりも新規でした方がすぐに終わらすことができるからな。
それが無理なら俺は手伝うことはできない。こんな無駄なものを直すことの方が無駄だというものだ。
「分かりました、ではアーサー・ランスロットさまに依頼します。この飛行船を前以上の出来に修理してください。報酬はアーサーさまの言い値をお支払します」
「……今さらですけど、四歳の僕が言っていることを信じてくれるんですか?」
「本当に今さらですよ。僕はあのマンガを見た時からアーサーさまを信用していますから、今までの言葉もすべて信じています」
……さすがに、ここまで言われたら飛行船の修理を受けなければならないか。
「分かりました、その仕事は引き受けましょう。これから色々と仲良くしてもらうので報酬はメルシエさんが出来上がったときにでも決めてください」
「それは期待してもいいのですね?」
「もちろん、バッチリ仕事をこなしますよ!」
ま、俺からしてみれば空を飛ぶくらいの船を修理するくらいお手のものだ。メルシエさんに恩を着せておくのが一番の目的だが。
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