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始まりの鐘。

オリヴァ―・バトラーという男。

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『名前:オリヴァー・バトラー
 種族:人間
 年齢:二十二
 職業:闇の帝王
 称号:闇夜深める帝王
 ≪スキル≫
 ≪闇ノ神の情愛≫・≪闇落ち≫・≪帝王従属≫・≪重力操作≫・≪言語共有≫・≪明鏡止水≫・≪六感強化Lv.10≫・≪身体能力上昇Lv.10≫・≪超速再生Lv.10≫・≪魔力察知≫・≪気配察知≫・≪気配遮断≫・≪気配追尾≫・≪気迫Lv.10≫・≪騎乗Lv.10≫・≪体術Lv.10≫・≪武装術Lv.10≫・≪魔力武装≫・≪魔力纏身≫・≪魔力回収≫・≪全物理耐性Lv.10≫・≪全属性耐性Lv.10≫・≪全物理反射Lv.10≫・≪全魔力反射Lv.10≫・≪背水の陣≫・≪採取Lv.10≫・≪調合Lv.10≫・≪錬成LV.10≫』
『オリヴァー・バトラー Lv.170
 筋力:194055(+100000)
 物理耐久力:195506(+100000)
 速力:195101(+100000)
 技術力:197713(+100000)
 魔法耐久力:195600(+100000)
 魔力:191216(+100000)』

「・・・ハァ」

 俺、オリヴァー・バトラーは冒険者で賑わっているクエスト受付ギルドの一角にあるテーブルに座り、ステータス画面を見て相変わらず闇ノ神の気まぐれには振り回されているとため息を吐いてしまう。今回、手ごたえのあるクエストを受けたつもりだったが、特段レベルも上がることはなく、クエストだけクリアして終わった。

 普通の冒険者ならレベル100以上行くことはそうそうないと言われているから、今の俺のレベルは異質のものなのだろう。

「何か考え事ですか? バトラーさん」

 ステータスを眺めていると、長い金髪に柔和な表情を浮かべているこのギルドの受付嬢ことケイラ・マーフィーが俺に近づいてきて話しかけてきた。

「もしかして先ほどのクエストで何か不具合でも起きましたか?」

 先ほどのクエストとは、俺がさっき受けたSランク相当のクエスト・クラウドドラゴンの群れのことだ。クエストにはそれぞれランク付けされており、冒険者のランクに合わせたクエストを受け付けれるようになっている。

「いや、それについては問題ない。クラウドドラゴン単体では強くはなかったからな」
「クラウドドラゴンは個体意識が強いドラゴンの中でも群れを成して行動をしている珍しいドラゴンですから、他のドラゴンと比べれば一体一体は少し劣りますが、それでもドラゴンの名を冠するドラゴン。一体でもAAランクの実力を強くないと言えるのはバトラーさんだけですよ」
「確かに俺だけかもしれない。だからパーティー必須のSランククエストをソロの俺に頼んでくるのだろうな」
「す、すみません。ソロでバトラーさんにやらせてしまって」

 俺の言葉が嫌味に聞こえたのか、マーフィーは俺に申し訳なさそうな顔をしながら頭を下げてきた。

「別に嫌味で言ったわけではないから頭を上げてくれ。俺だって不可能なクエストを受けようとは思わないし、俺だからできると判断したから俺にクエストを斡旋したんだろう?」
「そうです、このギルドで受けるクエストから死人を出したくありませんからね。だから誰も受けたくないような危険なクエストを快く受けてくれるバトラーさんには、ここのギルド一同感謝しています。バトラーさんがクエストを受けてくれなければ、きっと他のところで死人が出ていましたから」
「俺からしてみればお金を稼げているから文句はない。助かった人はただの副作用に過ぎないから感謝されても実感はわかないな」
「それでも、ですよ」
「それなら素直に感謝されておこう。・・・俺にそうやって感謝するのは君くらいだろうけど」

 チラリと周りを見ると、俺の方を見て陰から悪口を言っている奴がたくさんいる。そういう奴らには、魔物を殺すときの視線を送ってやり、そいつらはその場から逃げ出していく。

「何を言っているんですか! みんなバトラーさんに感謝していますよ!」
「そうならいいがな」

 彼女はみんなが善意で行動していると思い込んでいる節がある。しかし、人間そこまできれいに生きられるわけもない、俺のように。彼女の良いところでもあり、悪いところでもある。

「ケイラー、こっちを手伝って!」

 受付の方から、短い茶髪のしっかりとしているイメージを持つ受付嬢がマーフィーを呼び戻す声が聞こえてきた。

「あ、すみません。私はもう行きますね」
「あぁ、頑張って」

 マーフィーは受付の方へと戻っていった。その際、茶髪の受付嬢がマーフィーに見えない角度で俺の方を睨んできた。だから俺は睨み返してやると顔をこわばらせてどこかへと行った。

 ・・・別にスキルを使っているわけでもないし、本気で殺す目をしているわけではないんだからそこまでひるまなくてもいいだろうに。俺が何かしたわけでもなし。ただ、俺が本来魔族が受けるはずであった加護を受けているだけなのに。

「相変わらずの嫌われぶりだな、オリヴァー」

 俺の背後の席に陣取ってきた声からして女性が俺の方を向かずに話しかけてきた。

「別に俺は何かしたわけではないんだけどな」
「生まれはどうしようもないわな。恨むとすれば闇ノ神を恨むしかない」
「俺はこの生まれを恨むつもりはないよ。それに他の人も恨まない。ケンカを売ってくるなら話は別だが」
「私ならその境遇でそんなに強く生きれる自信はないぜ」
「お前はお前、俺は俺だからな。そんなもしもの話をしたところで変わるはずがないから、くだらない仮定だ」
「それもそうだな。私が情報屋以外の職に就いているなんて想像できない」
「それで? こんな世間話をしに来たわけじゃないだろ?」

 この後ろにいる女は、俺がよく利用している情報屋だ。いつもこういう風に背中同士で話しているから容姿はおろか名前も知らないが、こいつの情報の信用性は100%と言える。情報が正確で、報酬以上の情報をくれるからそれ以上は何も求めない。

「おぉ、そうだった。オリヴァーと会う時は毎回余計な話をしている気がするぜ。・・・おっと、それは置いといて、オリヴァーは、転生者と転移者について知っているか?」
「転生者と転移者・・・聞いたことはあるが、特に知っているとは言えないな」
「その二つに目立った違いはないが、説明するとその二つは異世界からこの世界に呼ばれた異世界人で、転生者は神に呼ばれ、転移者はこの世界の者が呼んだという違いだ」
「ほぉ、それまたこんな世界に来るとは、運がないな」
「いやいや、異世界人はこの混沌とした世界がお気に召しているらしい」
「俺が言うのもなんだが、そいつらは大丈夫なのか? 殺すか殺されるかの世界でそれとは、異世界がここより残酷か、そいつらが残酷な世界を好んでいる狂者なのか」
「考え方はともかく、呼ばれたそいつらは特殊な力をもってこの世界に来るらしい。でだ、本題はここからだ」

 この話をしたということは、大体の見当はつく。

「その二つの内の一つ、転移者がこの国の王の手により、三日前に呼び出されたらしい」
「三日前? お前にしては随分と遅い情報だな。過去最長じゃないのか」

 この情報屋は秘匿な情報を提供してくれるだけでなく、その情報をいち早く俺に知らせてくれるという点でも俺は買っている。

「今までの情報よりもガードが堅かったから、こんなにかかっちまったんだよ。こんなにガードが堅いからどんな情報かと思ってつい深追いしたが、こんな情報とは拍子抜けだ」
「何を秘密にしたくて、ガードを堅くしたんだろうな。聞いただけの話だと秘密にする要素はどこにもなかったと思うが」
「それも調べようとしたが、さすがにばれそうになったから引き上げちまったよ」
「お前がばれそうになるとは、国も必死というわけか」

 この情報が俺に関係するかどうかわからないが、危険を冒して情報を提供してくれたからそれ相応の対価は渡さないといけない。

「隣に置いておくぞ」

 俺は背後にいる情報屋の隣に金貨100枚が入った袋を置く。

「話はまだ終わって・・・って、毎度毎度羽振りがいいよな、オリヴァーは」
「危険を冒しての行動なんだろ? それに俺はお金が有り余っているんだよ」
「今回のクエストは報酬はいくらだったんだ?」
「今回は金貨500枚だった。クラウドドラゴンの群れを討伐するというSランククエストだ」
「・・・見た感じ100枚だよな。個人でやっているのに、こんなに羽振りの良い客なんてそうそういないぞ。・・・あ、そうだ。まだ重要なことを言い忘れるところだった」
「あ?」
「異世界人が召喚されたこととつながりがあるかどうかは分からないが、他の勇者がこの国に召集されているぞ」

 他の勇者ってことは、炎の勇者もいるってことだよな。・・・それはかなり面倒だ。

「一応人間側の勇者、の進化形である帝王さまも召集がかかるかもしれないということだ」
「確かに俺は一応で、例外だからどうなるか分からないが、気に留めておく」
「じゃあ、毎度あり。またごひいきに」
「あぁ、くれぐれも気を付けろ」
「分かっているよ。私もまだ二十四で死にたくはないから」

 情報屋は俺の背後からいなくなり、俺はこれからどうするかを考えた。

 この国を出るのもアリだが、俺の今の目的はレベルを上げれるだけ上げること。Sランククエストを大量に受けられるところというのはここくらいしかないから、ここを離れるのはなるべく避けたい。

 だが、炎の勇者がここに来るということは少なからず、あいつと接触する機会があるということだ。あいつは俺と出会った日にはずっと付きまとってくるから嫌なんだよな。

「・・・とりあえず、クエストに行くか」

 俺は立ち上がり、クエスト掲示板の前へと行く。狙うのは稼ぎが良いSランククエスト。しかし、Sランククエストはそうそう出るものではないし、最近Sランククエストしかしていなかったから、もうあらかたSランククエストをかりつくしてしまった。て言うか、Sランククエストがもうない。Sの下のランクであるAランククエストは手ごたえがなさ過ぎてお金稼ぎにしかならない。

「・・・AAランククエストの『バードラゴン』か」

 そのデカい図体のわりに素早く動き、鳥のようにも龍のようにも見えることから、バードラゴン。バードラゴンの肉は最上級の肉に指定されているから、こいつを討伐するついでに肉を頂くとしよう。クエスト内容は町を荒らしまくっている対象の討伐としか書かれていないから肉を貰ってもいいだろう。

 掲示板に貼られている『バードラゴン討伐』の紙を受付へと持っていく。受付にはマーフィーではなく、さっき俺を睨めつけていた茶髪の受付嬢がいた。

「これを頼む」
「・・・はい、承りました」

 俺に接したくないと言わんばかりの態度で受付嬢はクエストを受け付けた。・・・これのどこが俺に感謝している態度なんだか。まぁ、どこからか俺の根も葉もない噂が出回っているから、俺が闇の帝王であるのと噂が相まって相当の嫌われ者になっている。迷惑な話だ。今のところ害がないから良いけど。

「ねぇ」
「あ?」

 どこに行くかクエスト詳細の紙に目を通していると、不意に茶髪の受付嬢から声をかけられた。

「何だ?」
「ここに来るの、やめてくれない? 正直迷惑なんだけど」
「何でだ?」
「何でって、そんなの自分が一番分かっているでしょ? あんたがここに来ていたら、あんたのことを恐れている冒険者が近づけなくなるからすごく迷惑してるんだけど」

 これは随分と嫌われているな。俺が何をしたわけじゃないのに。人間で闇ノ神の加護を受けてしまった勇者の末路か。魔族側に行ったとしてもどうせ受け付けてくれない。この闇の勇者の良いところはステータス値と融通が利くスキルくらいしかない。

「話はそれだけか?」
「・・・は?」
「それだけなら俺は行く」

 俺のことを何も知らない奴にどう言われてもどうでもいい。受け流せば良い話なんだからな。俺に害もないし、特に真に受けることもない。

「ちょっと、待ちなさいよ!」

 俺は叫んでいる茶髪の受付嬢を無視して、『バードラゴン討伐』のクエストのためにクエスト受付ギルドから出ていく。

 クエスト内容から場所はここ、王都・ザイカから東にそれなりに進み、バオル町という場所の近くにある森だそうだ。バードラゴンに作物が食い荒らされているとか。それにしても、報酬が金貨300枚とは大金をはたいているな。町がそれほど大きいわけでもないのに、よくこんなに出せる。

「おい、あれが闇落ちの勇者だぜ」
「なんてみすぼらしい恰好をしているのかしら」
「うわ、何で人間の領地に闇ノ神が付いている人間がいるんだよ」
「あいつって、確か女奴隷を買って性奴隷にしているって聞いたぞ」

 人ごみに出れば俺の陰口を言う奴であふれている。特に気にしないんだが、これはこれで視線が鬱陶しい。それに奴隷を買ったことなんて一度もない。噂に惑わされているこいつを滑稽に思えてしまう。事実を目にせず、虚像に惑わされているなんて俺には恥ずかしくて吐きそうだ。

 さて、そんなことよりバオル町までどうやって行こうか。普通なら馬車で行くんだろうが、たぶん走った方が早く着く。俺の速力は≪闇ノ神の守護≫のスキル効果の100000を足せば、約190000。馬がこれより上回っているわけがないし、時間短縮と軽い準備運動。よし、走るか。

 王都の東門をくぐる際、これまた門番に睨まれながらもそれ以外特に何事もなく外へと出る。門番に睨まれる筋合いはないが、これは俺の顔をすぐに判別できるという利点があるな。・・・それは利点でも何でもない。悪い方向で覚えてもらうのはあまり得策ではない。

「・・・よし」

 準備運動を終わらせ、思いっきり最初の一歩を踏み出して前に身体を押し出し、目的の場所へと走っていく。俺の格好はいつも鎧も武器も装備していない、見た感じ一般人と思えるくらいだから軽い。俺専用の武具は今は取りに行くつもりはないし、スキルがあるからこの格好で十分だ。この速度ならあと一時間もあれば着くだろう。馬車なら一日くらいか。

 ・・・レベルが300くらいになれば、魔族領へと入っていこうか。もうそろそろであれを取りに行っても良いくらいだからな。さすがにスキルで代用するのも魔力の消費が馬鹿にならない。魔力が切れることはまずないけど。



 走り続けること1時間。バオル町へと到着した。町へと入り周りを見渡しながら歩くが、特出したところがない普通の町だ。だが、すれ違う人々や町にいる人たちの顔はやけに暗い。この依頼に関係しているだろうな。SからDランククエストの中で、一部のBランククエストから少なからず村や町全体に影響を与え、Aランクになると確実に町に影響を与えている。今回のクエストはAAランク、つまり王都だろうと影響を与えてしまう危険度を指している。普通の大きさの町がAAランク相当の魔物を相手にして無事でいる方が奇跡と言えよう。

「町長の家は・・・あっちか」

 とりあえず依頼者である町長の元へと向かう。依頼者が町長と言うよりはこの町全体の人が依頼者と言えるだろう。クエスト受諾報告して、バードラゴンがどこら辺にいるかを聞いておくか。

 町の奥に位置している、特に偉い人が住んでいると思えない家の前へとたどり着いた。地図によるとここだ。俺は戸を三回叩き、家の人が返事をするのを待つ。

「はい」

 家の中から男性の声がし、家の戸が開いた。家から出てきた人は痩せこけた白髪交じりの五十代に見える男性であった。

「どなたですか?」
「俺は王都からバードラゴン討伐クエストを受けに来た冒険者だ」
「王都から・・・」

 男は俺のつま先から頭のてっぺんまで見定めるように見てくる。そして男はため息交じりに強い口調で俺に文句を言ってきた。

「失礼ですが、そんな成りで冒険者と名乗られても信用できませんし、迷惑です。私にそのような人に割く時間はありませんので」

 まぁ、確かに俺のなりはどこにでもいるような村人と同じような感じだ。冒険者は少なからず死亡率を低くするために色々と装備しているだろうが、俺は一切していない。て言うか、この、俺が冒険者じゃないだろっていうやり取りを何度してきたことか。・・・・・・うん? ない。

「冒険者と嘘をつくのなら、もう少しまともな格好をしたらいいと思いますよ」

 俺がポケットを探っている内に男は家の中に入っていった。もう一度、ポケットの中や魔法袋の中を探してみるが、どこにも冒険者証明指輪がなかった。・・・あ、そうだ。今回はSランククエストだけだと思って指輪が邪魔で持ってきてなかったんだ。一回取りに帰るか? でもバードラゴンを倒して依頼主の元に持って行った方が早い気がする。

 町長以外で誰かバードラゴンの居場所を知っている人がいないかと町の中を散策する。

「どんよりしているな・・・」

 ほとんどの人が家に入っているが、家の中をチラリと見て回ると老人から子供までもれなく暗い顔をしている。だからこの町の雰囲気も暗いものとなっている。会話もそれほどないし、笑い声一つもない。こんな状況で誰に聞こうか。いっそのことバードラゴンがこの町に来てくれるのなら話は早いんだが。

「バードラゴンが来たぞっ!!」

 俺のふとした思いがすぐに届いたのが、バードラゴンが来たという男の声が町の中に響いた。すると町の人たちは騒ぎもせずに全員が家の中に籠って、俺以外誰一人として外に出ていなかった。

 バードラゴンはどこにいるんだろうと、俺は声がした方に視線を送っていると、飛んでいる物体がすぐに姿を現した。

「マジかよ・・・バードラゴンが、7体もいる」

 鳥のようなくちばしにドラゴンのように大きく鋭い爪、鳥のように軽やかに飛び、ドラゴンのような急所などに鱗で覆っているバードラゴンが7体もいる。AAランクモンスターが7体もいれば、これはすでにSランククエストだぞ。

 バードラゴンは町に来ると、ばらけてそれぞれが色んなことをしている。
 例えば、一匹は農作物を荒らしていたり、一匹は家の中にいる人間を怖がらせたり、一匹は無差別に家を破壊したりなど色々なことをしている。

「もういやだぁぁぁっ!」

 一人の少年が叫びながら町の外へと出ようとすると、一匹のバードラゴンがそれを阻んで少年を転げさせ、そのくちばしで少年の身体中を突いている。

「ああああぁぁががっ! やめてぇえええっ!」

 少年の悲痛な声が町の中に響き渡る。そして、バードラゴンはそれを聞いて笑っているような感じで声を出している。・・・これは凶悪だな。そろそろで助けに行かないといけない。

「がぁっ!」

 そう思っていると、俺の背後にバードラゴンが降り立つ。振り返るとバードラゴンは心なしか笑みを浮かべている気がした。俺もお前の肉が食べたくてついつい笑みを浮かべてしまうよ。

「がぁぁぁっ!」

 バードラゴンが俺にくちばしで攻撃をしようとしてきた。俺はバードラゴンのくちばしを軽やかに避け懐に潜りこみ、スキル≪魔力武装≫で作り上げた紫色の魔力槍で下からバードラゴンの頭を貫いた。バードラゴンは頭を壊されたことにより動かなくなったが、身体はまだ痙攣している。バードラゴンを横へと無造作に捨て、少年を襲っているバードラゴンに向けて槍を投げた。槍はバードラゴンに直撃してバードラゴンは後ろへと吹き飛び、動かなくなった。

「さてと、ドラゴン退治と行こうか」

 俺は双刀を魔力で作り出し人を笑いものにしているバードラゴンの元へと向かう。さすがに人を笑いものにできるほどの頭脳があるからか、俺がバードラゴンを倒したことを理解しており、俺を警戒するのと威嚇を兼ねて鳥らしい声を上げる。

「ぎゃぁあぁぁっ!」
「うるせぇな。そんなに鳴かなくてもお仲間の元へと連れて行ってやるよ」
 飛び立とうとしたところを一瞬で背後に移動し、翼を根元から切り裂く。
「ぎゃぁぁぁっ!」
「これが蹂躙される側の気持ちだ」

 機動力を失ったバードラゴンの首を切り落とす。一体を倒しているうちに残り四体のバードラゴンは俺を囲むように位置取る。バードラゴンたちは空へと舞い上がり、飛びながら速度を上げて俺にくちばしを向けてきた。しかし、AAランク程度のモンスターの速度なら見切れないはずもなく、次々と避けていき、魔力で太刀を作り出してバードラゴンの一体を避け際に首を切り落とした。

「残り三体」

 太刀を消し、剣を作り出す。機会を見ていざ攻撃しようとした瞬間、不意に小さな足音が聞こえた。そちらを見ると小さな男の子がこちらを家の陰からこちらを見ていた。

「ッチ!」

 スキル≪気配察知≫を発動させていたが、座標までは気にしていなかった。何か動き回っていると思ったら、家の中じゃなくて外だったのか。

 俺より男の子の近くにいたバードラゴンも気が付き、男の子を襲おうとする。・・・ダメだ。男の子がバードラゴンの陰になっている。今、槍を投げたら男の子にバードラゴンが行く。
 俺はすぐさま男の子の方にいるバードラゴンの元に移動して斬首した。

「大丈夫か?」
「は、はぃいっ!」

 腰を抜かしているようだが、大丈夫なようだった。しかし、俺が男の子を助けに来て残り二体をおろそかにしていたせいで、二体とも飛び去って町から逃げ去ろうとしていた。俺は槍を作り出してバードラゴン一体に向けて槍を投擲する。槍は見事に一体を串刺しにして落ちてきた。残りの一体も殺そうとしたが、視界にはすでにいなくなっていたが、気配察知でどこにいるかはまだ索敵範囲内だ。

 俺がバードラゴンを追いかけようとした時、町の人たちが続々と家から出てきた。その中にはもちろん俺がさっき会った町長もいた。

「あ、あなたは・・・」
「おい、俺は今からもう一体のバードラゴンを追う」

 俺は町長の返事を聞かずに跳躍して屋根の上を飛びながらバードラゴンの行き先を確認する。バードラゴンは動きにくいであろうこの町の近くにある大森林へと姿を消した。巣があそこにあるのかもしれないが、図体がデカくて機動力が命のバードラゴンがどうして入ったのか分からない。俺が追いかけてこないと思ったのか? とりあえず俺は森の中へと入り、バードラゴンの気配を追う。

「・・・ん?」

 バードラゴンを追っている最中、魔物の気配はするがそれ以外にも人間の気配がする。・・・四人か。バードラゴンを追う道すがらにいるな。すぐに立ち去るからとやかく言われることはないだろう。とやかく言えば黙らせればいい。

 木々を駆使して整っていない地面を歩くより早く移動し、バードラゴンの姿を捉えたと同時に人間四人の姿も見えた。木の上に止まって四人の状況を確認する。

 そこには男一人と女三人のパーティーであったが、完全に魔物に囲まれている。それに装備から見て駆け出しの冒険者であることは間違いないから結構やばい状況だろう。そもそも男と盾を装備している女以外は装備をしているとは言えない服装だ。装備をしていない俺が言うのもなんだけどな。その魔物は、うわ、たちが悪い魔物に襲われている。初心者殺しの異名を持つ肌が濃い緑色のEランクのモンスター・ゴブリン。熟練の冒険者なら後れを取らないが、駆け出し冒険者はなめてかかって返り討ちにあう。返り討ちにあった冒険者は生きて帰れることはほとんどない。男ならゴブリンの餌となり、女は家畜となりゴブリンの子を宿す道具となるか男と同様に餌になるか。

 ここでこのパーティーを助ける意味も義理もない。だから俺はここを通り過ぎる。

「あっ、た、助けて!」

 俺を目ざとく見つけた泣きそうになっている少し大きな盾を持っている長い茶髪を後ろで括っている女が俺に助けを求めてきた。止まらずに行けばよかったと思ったが時すでに遅し。見られてしまった以上助けた方が良いな。とりあえず魔力は消費され続けるが、スキル≪気配追尾≫を使いバードラゴンを捉えておく。

 俺は彼女たちを襲おうとしている四匹のゴブリンの頭部に向けて魔力短剣を投げつける。俺くらいの筋力になれば短剣を軽く投げつけるだけで頭部を貫ける。さすがにBランクまでじゃないと貫けないけどな。

「おい! お前がおとりになれ!」
「きゃっ!」

 俺が一本一殺で魔力短剣を急所に狙い定めて次々とゴブリンを殺している時、何かパーティー内でこじれたのか、男が落ち着いている雰囲気を醸し出していた短い黒髪の女をゴブリンの群れの中に突き飛ばした。その黒髪の女の方にゴブリンの意識が持って行かれた間に男はゴブリンの隙間を縫うように逃げていく。
 まさか自分から安全地帯を出るとは思わなかったし、あの逃げ足は何だよ。

「う、うそ・・・」

 目つきの悪く金髪の長い髪が波打っているような髪型の女が、男に見捨てられたことにより放心状態になっている。他の茶髪の女もそうだが、黒髪の女はまずい。ゴブリンに一番近くゴブリンに一番気を取られている女だからすぐに助けないといけない。

 短剣で黒髪の女の周りにいるゴブリンを殺しながら、黒髪の彼女に余裕で届き余裕で巻き付けれる程の分銅鎖を作り出して彼女に向って放る。周りのゴブリンは最低限俺が処理しておいたおかげで鎖は黒髪の彼女に楽々と巻き付き、彼女の身体を上へと引っ張って浮かせながら俺の元へと引き寄せる。

「おっと」

 彼女を無事に受け止めるが、彼女は死んだ目をしている。少しは彼女たちにゴブリン退治を手伝ってもらおうかと思ったが、これではもう無理だな。それにバードラゴンのクエストを早く終わらせたい。

「魔力纏身・地」

 しゃがんで地面に両手をつき、≪魔力纏身≫の応用技でゴブリンのいる地面の範囲に俺の魔力を纏わせる。そして≪魔力武装≫で、この場にいるすべてのゴブリンを串刺しにすべく地面の表面にある俺の魔力から剣を作り出し、すべてのゴブリンを串刺しにした。辺りはゴブリンの死体で埋め尽くされ、血なまぐささで充満して顔をしかめるかなかった。

 あまりこのやり方は好きじゃない。魔力を地面に纏わせる際に最低限にしようとしてもゴブリンの足元に魔力を送らせるための道に魔力を消費してしまうから、そこで無駄が生じてしまう。一本一本作り出せば最低限で終わらせれるが。スキル≪魔力回収≫で魔力がつながっていれば自分の魔力を回収できるが、ゴブリンを貫いた魔力を回収したくない。

「あとは・・・」

 残りは、おそらく住処である場所で止まっているバードラゴンだが、こいつらがいるから行きたいけどいけない。とりあえずこいつらをどうにかすることから始めようか。

「おい、茶髪の」

 三人の中で比較的落ち着いている茶髪の女に声をかける。

「・・・何ですか?」

 助かったというのに未だに頬に涙をつたわせている。

「俺はこれからバードラゴンを討伐しに行く。お前らはどうするんだ?」
「・・・一人で行けばいいじゃないですか。私たちのことは放っておいてください」
「ここが安全ならそうしている。ここは残念ながら魔物があちこちにいるから、その状態でいるのなら、俺が助けた意味はなくなる」
「じゃあ・・・っ! ・・・どうすればっ! っ!」

 嗚咽を抑えながら茶髪の女は喋ろうとするが、抑えきれずに泣き始めた。黒髪の女がショックから元に戻り茶髪の女に寄り添って背中をさする。

「美幸、落ち着いて・・・今は早くこの森から出よう?」

 黒髪の女は茶髪の女をさすっている間に、もらい泣きし始めた。そして金髪の女も泣き始めた。

「いつまでも泣くな。今は魔物の巣窟のど真ん中だ。泣き続けるのは良いが、足だけは動かせ」

 男に捨てられた女には甘い言葉をかけるのが良いのだろう。だが、俺はそんなことをしない。俺と彼女たちは他人だし、これからの彼女たちの人生に責任を持てない。なら、俺がこの場でできることはできるだけ冷たくして、恨まれようが生きさせること。生きて帰ればきっと立ち直れる。師匠の受け売りだ。

 彼女たちを連れてバードラゴンを討伐するのは時間がかかる。一旦彼女たちをバオル町へと置いてからの討伐の方が早いから、町へと歩を進める。しかし、少し歩いたが、彼女たちが動き出すそぶりはなかった。

「来い」

 金髪の女の腕をつかみ、無理やり立たせて歩かせる。他の二人も動く気配がなかったから、溜息を吐きながら二人の手を片手でつかんで無理やり歩かせる。三人は相変わらず泣いていたりなどして意気消沈している。

 スキル≪気配追尾≫でバードラゴンの居場所は把握しているが、着々と魔力を減らしている。気配を追尾する対象の距離と魔力消費量は比例するから、この場から離れていくと魔力消費量も増えていく。俺の持っているスキルに魔力を回復するものはない。俺のスキルは魔力を消費するものばかりだから、あまり魔力を使い続けることはしたくない。190000あるとは言え、使い続ければなくなる。そうなれば手数がなくなる。使わなくていいところで使えば、使わなくてはならないところで使えなくなることだけは避けたいところだ。

「――にたい」
「あ?」

 しばらく歩いたところで金髪の女が何か言ったが、聞き取れなかった。俺は止まって金髪の女の方に向き直る。金髪の女は泣き止んでいるが、虚ろな目をしている。

「何だ? 言いたいことがあるならハッキリ言え」
「・・・置いて行って」
「何故だ?」
「・・・一生、付き添っていくと決めた相手に捨てられた、しかも最悪な形で。・・・もう、死んだほうがまし」

 そんなくだらない話なのかと腹が立ちながら俺は彼女たちから手を離す。

「悪いな、俺はお前たちの家族でも友達でも、ましてや知り合いでもない。そこまで言われて、俺がお前たちを死なせないように励ましたり怒鳴ったりはしない。ただの他人だ。俺がさっき命を救ったのは無駄だと思うだけだ。だから――」

 俺は金髪の女の首をつかんで障害が出ない程度に軽く絞める。

「っ!? っぅつ!」
「俺が殺してやるよ。死にたいのならちょうどいいだろ。俺は自分の行動を恥じてその後始末をするだけだ」
「やめて! 桃音を殺す気なの!?」

 黒髪の女が俺の腕をつかんで止めようとするが、筋力差で俺に勝てる奴はそうそういないし、ゴブリンでてこずっているような奴に負けるはずがない。

「本人が死にたいと言っているのだからそうしているだけだ。まさか同情を引くために死にたいと言ったわけじゃないだろ? 言ったが、俺は知人ではない。こいつを助ける価値も義理も何もないから、殺してやるだけだ。この世界で弱いものは淘汰される、それを知らずに冒険者をしているわけじゃないだろ」

 俺は少しずつ力を強めていく。すると、金髪の女は涙を流しながら俺の手を引っかいたりしてもがきだした。

「――し、に、たくっ、にゃいっ」

 死にたくないという言葉を聞いて手を離した。女は咳き込んで肩で呼吸している。二人の女は金髪の女に寄り添い、黒髪の女が金髪の女に治癒魔法をかけている。治癒魔法とは随分と貴重な魔法を使っている。

「死にたくないんだろう? 最初からそう言え」

 俺は木にもたれかかって金髪の女が回復するのを待つ。黒髪と茶髪の女はこちらを睨んできているが、それでこの場から離れる意思があるなら結構。くだらないことで死を望むようなことだけは、助けた俺が許さない。

 ・・・このまま町に帰ってバードラゴンを討伐しに行ったら、日が暮れそうだ。仕方がない。スキル≪魔力武装≫と≪気配追尾≫、それに≪武装術≫を使って遠距離からのバードラゴンの討伐を行う。魔力武装で魔力槍を作り、気配追尾で捉えているバードラゴンに狙いを定め、武装術でバードラゴンを一撃必殺できるように投擲する。その際に魔槍と俺のつながりを切らずに、細い魔力糸でつないでおく。

 魔槍は放物線を描くように飛んでいき、バードラゴンに的中して射貫いて殺したことを、魔槍とつながっている故の感触と気配追尾が消えたことにより確信した。

 バードラゴンを貫き、俺と細い糸でつながっている魔槍の先端を形状変化させ、抜けないようにフックの形状にする。それを感触で確かめた後、スキル≪魔力回収≫で細い糸を俺の身体に魔力に還元させながら戻していく。すぐにバードラゴンが見えるくらいの速度で引っ張り、バードラゴンが俺の元へと現れた。何ともまあ不細工な顔で死んでいる。人を笑うだけの能が、いい様だ。

 そんなことを思っていると、俺の視界に次々と文字が表示された。

『≪闇ノ神の情愛≫発動』
『スキルの効果により、レベルが170から181にアップ』
『筋力:194055(+100000)→215011(+100000)
 物理耐久力:195506(+100000)→214005(+100000)
 速力:195101(+100000)→220205(+100000)
 技術力:197713(+100000)→218507(+100000)
 魔法耐久力:195600(+100000)→214405(+100000)
 魔力:191216(+100000)→223000(+100000)』
『スキルスロットを11獲得。残数30』

 AAランクのモンスターを討伐しただけなのにレベルが上がるとは、さすが神様だ。俺には分からない。だが、こいつらを倒しただけで上がったんだから良いとしよう。俺のスキルで、ただ敵を倒しただけでは上がることはない。経験値は一も入らない。

 俺は表示を消し、さっきからこちらを凝視している女たちに声をかける。

「もう回復したのなら、行くぞ」

 バードラゴンを魔力で作り出したひもでくくりつけ、引きずりながら町に向けて歩き出す。彼女たちもあの時間で落ち着いたのか、三人で身を寄せながらついてきた。

 歩いている間、俺たちに会話はなく彼女たち三人の中でも会話はなかった。途中で出てきた魔物たちは俺が匕首で急所を貫きながら歩き、数十分ほどで森から出た。森から出るころにはすでに日が傾き始めていた。夜は魔物が活性化する時間帯であるから、駆け出しの冒険者が夜に人里離れた場所に行くことは自殺行為だ。今は俺がいるし、町と森は目と鼻の先であるから何も問題ないんだけどな。

「・・・なんだ、あれ?」

 町の出入り口が見えたと同時に出入り口にはたくさんの町の人がいた。何か起こったのかと人々の表情を見るが、町の人は俺の方向を見て生き生きとした表情をしている。
 そして、町の出入り口へとたどり着くと町の人々による大歓迎が巻き起こった。

「救世主さまが帰ってきたぞぉ!」
「きゃぁ! 救世主さま!」
「もう一体も狩って戻ってこられたぞ! さすがだ!」
「これで苦しむ必要はないわ!」

 それぞれが涙を流したりとうれしさを身体全体で表している。俺と後ろにいた女三人はごった返しに巻き込まれているが、町へと無事入ることができ、その先では町長が待っていた。町長は俺を見つけたと同時に深々と頭を下げてきた。

「あなたに・・・あなたにはお礼を言う前に無下にしてしまった非礼を詫びなければなりません。あの魔物を倒してくださった恩人に対して、あんな形であしらってしまい、本当に申し訳ございませんでした」

 町長は今にも土下座をしそうな勢いで頭を下げている。

「もう気にしていない。いつものことだ」
「そう言ってもらえるとありがたいです」

 そう言うと、町長は少し大きな布袋を俺の前に差し出してきた。

「この町で動かせるお金と町のみんなで出し合った今回の報酬の300枚の金貨です。バードラゴン七体の報酬では到底及びませんが、これで勘弁してください」

 町長は申し訳なさそうな顔をしながら、俺の元へと出してきた。俺は素直に疑問を口にした。

「これを全部渡して町は大丈夫なのか?」
「正直に言えば、大丈夫ではありませんが、大事なのはこの町に生きる人々ですから」

 困ったような顔をしながら答える町長に続いて、町の人々も口々に言いだした。

「そうだ! お金なんてどうにかなるんだ!」
「俺たちの生活がお金で買えるなら安いもんだ!」
「むしろ、これだけのことをしてもらってお金を渡さないなんて俺が許さねぇ!」

 俺、闇ノ神の加護を受けているから感情には敏感だ。この町の人々は随分と心優しいんだな。大きな町だったら金をちょろまかそうとしているぞ。そうした時は俺が討伐した魔物が暴れるくらいの凶暴さで暴れる。

「じゃあ、貰っておこう。このバードラゴンも貰って行って良いな?」
「はい、何も問題はありません」

 俺から言わせてもらえば、バードラゴンの肉を食べられれば何も文句はない。それに金なんて腐るほどあるから300枚もいらないんだが。町のお金なら必要な時に使えないとなると不便だろう。

「あ、俺はバードラゴンを食べにここに来たんだった」

 俺はわざとらしく大きな声で一人でしゃべり始めた。

「しかし、俺は料理ができない。・・・あ、町長。この町ではこのバードラゴンを調理できる人はいるのか?」
「はい、バードラゴンを調理できるものはこの町にいます。このバオル町は料理人が多く集い作られた町ですので、バードラゴンだろうと腕を振るうことができます」
「そうか。なら俺のためにバードラゴンを調理してもらおうか」
「そのようなことなら、存分に腕を振るいましょう!」

 町の人々も町長と同じことをそれぞれ言っている。

「バードラゴンを調理する代金だが、俺が決めて良いな?」
「いえいえ、お金など一切いりません。これはお礼の一環ですから」
「料理が盛んな町なら、それ相応の規則をプライドを持ってやらないといけないだろう。無料など、腕に覚えがないと言っているのと一緒だぞ。バードラゴン討伐は300枚の金貨で終わったんだ。料理は別だ」
「は、はぁ。そこまでおっしゃるなら、あなたがお決めになってください」
「バードラゴンが七体か・・・そうだな。じゃあこうしよう」

 俺は300枚の金貨の袋の中から二十枚取り出し、残りを町長に差し出した。

「一体につき、金貨四十枚。七体で二百八十枚にしよう」
「そ、それでは、あなたの取り分が金貨二十枚になってしまいますよ!?」
「俺が決めて良いと言って、それを承諾したのはそっちだろう。文句はないな?」
「し、しかし・・・」
「くどいぞ。俺が良いと言っているんだから良いんだ。この町が無一文だからとか関係ない。それで良いな?」
「は、はい! ありがとうございます!」
「それから、こんなデカい鳥を調理しても俺一人じゃ七体も食べきれない。腐らせないように全員で食すぞ。それも良いな?」

 俺が言葉を言った瞬間、沈黙が支配したが、すぐに笑い声や感激の声が聞こえた来た。

「よっしゃぁぁああっ! 腕を振るうぞぉ!!」
「おおよっ! 金貨280枚の働きはしないとな!」
「腕がなるぜ!」

 全員が一斉に動き出し、バードラゴンは運ばれていった。・・・俺にしては随分と馬鹿なことをした。でもこうしないとお金は受け取らなさそうだからな。この町の雰囲気は良いものだ。これが最悪なものなら遠慮なく帰っていた。

「何とお礼を言ったらいいやら・・・」
「お礼はいらない。バードラゴンは任せた」
「はい。では、私も金貨分の働きをしますか」

 町長もバードラゴンの元へと向かったが、あんたも料理するのかよ。
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