ヤンヤンデレデレデレ

山椒

文字の大きさ
上 下
10 / 10

09:ヤンデレのヒロインたち。

しおりを挟む
 大石が柄でもないのに俺の腕に抱き着いている状態で歩きながら、俺はゲームヒロインたちのことを考える。

 俺が知っているゲームヒロインは全部で八人。あまり恋愛方面でゲームをしていなかったからそれが本当かどうかは分からない。

 ただ、佐倉春香・椿冬花・日向瑞希・木間由美・大石モモ以外にまだ三人ゲームヒロインを知っているが未だに遭遇していないのが幸いだ。

 確か残りの三人は、断れない女子生徒と、姉御肌な女子生徒と、堅物な女性だったはずだ。

 別に会いたいわけでもないが、俺が遭遇しているゲームヒロイン以外がどうなっているのかが気になるだけだ。

 そもそも『恋とダンジョン』は美少女ゲームではなく恋愛ゲームであり、男主人公に対してヒロインがいるように、女主人公に対してヒーローがいる男女向け恋愛ゲームだ。

 それなのにゲームヒロインたちが俺が知っているだけで八人いるとか多すぎだろ。確かにあのゲームは莫大なデータ量があったな。それが一時話題になっていたこともあったか。

「何を考えてんだ?」
「大石の胸が柔らかいなぁって考えていたんだ」
「それならもっと味わえ」

 俺の腕に幸せが押し寄せてくる。

 こういうことをゲームヒロインたちに言っても、大してききやしない。最初はセクハラとか、そういう発言で幻滅させようとしていたが、全くきいていない。

「ほらほら、レンが知らない間に味わっていた胸だぞ~?」
「知らない間ってどういうことだよ。……もしかしてヤバいことをしてるのか? 言っとくが俺は――」
「――NTRなんて誰がするかよ。気持ち悪い」
「……テレパシー?」
「はっ! レンのことなんか何でも分かるぞ?」

 本当にどういうことだよ。えっ……もしかして俺のエロ本を分析されたか? いやそれを見られた時点でもう俺は学校をやめる。今はやめることも難しくなっているが、無理やりやめてやる。

「そういうのは不公平だろ」
「何がだ?」
「こっちだけ知られて、そっちだけ知られていないのは気分は良くないだろ。だから俺のことは知人程度に忘れてくれ。そうすれば公平だ」
「分かった。今日からレンはあたしの家に住めばいい。そうすればあたしのことを、体中のほくろがどこにあるかまで教えてやる」
「……いやいや、体中のほくろなんて誰も知りたいと思わないだろ。それにそういうことを言っているわけじゃないから」
「あたしはレンのほくろがどこにあるのか、レン以上に知っているぞ?」

 もうそれ以上話題を広げるのが怖くなったからそれ以上言わないことにした。

 もう帰って寝たいと思うほどの疲労を抱えつつも、俺と大石がたどり着いたのは校舎から出て少し歩いたところにある冒険者ギルド学園支部の建物だった。

 冒険者ギルドは冒険者を厳格に調査してランクを定めたり、国中の冒険者に対しての依頼を適正な冒険者に割り振ったりする国が管理する組織だ。

 この国立冒険者育成学園は冒険者を育てるために作られているから、冒険者ギルドの支部があっても何らおかしくない。

 つまりは、この支部が俺のSランク冒険者というバカげたものを出したということだ。

 何だかそう考えると腹が立ってきたな。こいつらさえいなければ俺はSランク冒険者にならずに済んだのに。まあそんなことを言っても仕方がない。

「ここで、知りたいことを知れるのか?」
「あぁ、知れるぞ」

 何だか知ったら知ったで後戻りができないような気がしなくもないが、どうしても理解しておかないといざ記憶を操作する魔道具が何か条件があるかもしれないし、単純に知りたいし。

 冒険者ギルド学園支部に入ると、エントランスが目に入り、椿先輩、佐倉、日向、木間の四人がいて、その近くに見覚えのある女性がいた。

 長い黒髪に眼鏡をかけた知的で、高圧的な雰囲気を纏った女性だった。

 この女性は確かゲームヒロインの一人で、堅物の女性だ。名前は知らないが、冒険者ギルドの職員だったから、ゲームをしている時にSランクを獲得した際に登場していたのは覚えている。

 それがどこかの記事で隠しゲームヒロインだと見て驚いたのも覚えている。

 俺がそちらに向かうと、まず椿先輩たち四人が大石に視線を送り、それを得意げに鼻を鳴らす大石。

「離れなさい、モモ」
「断る、って言ったら?」
「今はまだ協定の範囲内のはずよ? それを破るのなら、あなたはここにいる私たちと相手になることになるだけよ」
「……チッ、分かったよ」

 椿先輩と大石が会話したことで大石は俺から離れてくれた。

 それで一安心したところで、眼鏡の女性が言葉を投げかけてきた。

「初めまして、白木レンさん。私は冒険者ギルドに所属している筒路つつじ五月さつきです」
「どうも、白木レンです」

 何だか筒路さんは疲れている様子なのだが、それがゲームヒロインの仕業だと思いたくはなかった。

「この度はSランク冒険者の実力を拝見させていただきましたので、白木さんをSランク冒険者に任命させていただきました。今回はSランクでできることなどをご説明します」
「……その実力とやらを、見せた覚えはありませんが?」
「あなたはそうでしょうね。私たちはあなたに気が付かれないように動いていましたから」
「……ここにいるあなたたち、ですか?」
「……お察しの通りです」

 あぁ、やっぱり椿先輩たちによって疲れているんだな、筒路さん。何かごめんね?

 でもこれでSランク冒険者の件が椿先輩たち五人の仕業だと理解した。そもそもそんなことができるのはこの五人しか俺は知らないからな。

「どういうことだ?」

 この五人の中で誰にこのことを聞くのかを考えた時、まず椿先輩と大石は除外される。

 話しやすい佐倉か、同じ波長の日向か、後輩の木間の三人になってくる。まあ即座に少しは偉そうに言える木間にしたのだが。

「えぇっ!? この中で私を選んでくれたんですね先輩!」

 他の四人を煽るかのようにそう言ってくる木間。

 これは素直に佐倉にしておいた方が良かったな。

「それは私から説明するわよ、レンくん」
「あっ、はい。お願いします」

 なぜこちらに聞いてこなかったのかと視線で訴えかけてくる椿先輩によって説明が始まった。

「私たちはずっとモブとして生きていたいと言っていた割には実力が誰よりもあるレンくんを、Sランク冒険者にするためにどうするかを考えていたの」

 そんな恐ろしいことを考えて、恐ろしいことになっているのか。

「本来なら年に一回行われる冒険者ランク試験でランクを上げることができるけど、Sランクの実力を持っているとなれば話は変わってくるわ」
「……そうなんですか?」
「えぇ、Sランク冒険者はその国にとっての宝であるから国は手放したくない。だからSランクの証拠があれば動いてくれるのよ」
「証拠? ……ドロップアイテムとかですか?」
「そんなものじゃ冒険者ギルドは動かないわよ。答えは映像よ。レンくんがダンジョン攻略している姿を盗撮して冒険者ギルドに送ったの」

 えっ、そんな時あったか? 俺が気が付かないわけが……いや、俺の知らないレアスキルならできるかもしれない。

 俺の弱点のノーマルスキルしか習得できないということは、それに対抗されてしまえば俺に気が付かれないことだって可能だ。

 こういう時、このモブの体質が嫌になると同時に、羨ましくも感じてしまう。

「後でスキルのことは教えてあげるわ」
「お願いしますっ!」

 一応、念のため彼女らのスキルを知っておく必要がある。だって対策ができないし。

「それで、冒険者ギルドはその映像を見て真偽を確かめるために、筒路さんを調査に派遣してきたことで、私たちと一緒に筒路さんの目でレンくんがSランク冒険者の実力があるのかを、確かめましたよね?」
「えぇ、この目でしっかりと確認しました」

 椿先輩たちが筒路さんを護衛して、俺の実力を見せたということか。

 Sランクの椿先輩だけでもいいと思うが……まさか、そういうことなのか?

「分かったようね。そうよ、春香、瑞希、モモ、由美の四人はSランク冒険者として登録されているわ。まだ発表されていないだけで」

 ウソだろ? ゲームではそんなことは絶対になかった。

 椿先輩はSランクは当然として、他の四人の成長も目を見張るものがあったが、それでもSランクになるとは思わなかった。

「……どうして、俺のモブライフを邪魔してくるんですか? 俺なんかよりもいい人はいるでしょうし、俺と美人な椿先輩たちでは不釣り合いです。いい加減に――」
「いい加減に、男主人公と仲良くしろって言いたいの?」

 俺が計画していたモブライフが一気に崩れ去ったことに対して、少しだけ怒りを吐き出そうとしたが、それを遮って佐倉が信じられないことを言ってきた。

 佐倉たちにはこの世界がゲームの世界だとか、甲子が男主人公だとか、そういうことは言っていない。それどころかそういうことを誰にも言っていない。

 それなのにどうして男主人公のことを……? いや、ゲームの世界だと知っているというわけではないか。

「どういうことだ?」
「隠さなくていいよ? この世界はゲームの世界で、甲子くんが男主人公なんだよね?」

 あぁ、知っているんですね。しかもそれに対して驚いているのが筒路さんだけと。

「意味わからないことを言うな。ゲームの世界? 頭がおかしくなったのか?」
「ふふっ、もう隠さなくていいのに。可愛いね、レンくんは」

 佐倉の微笑みを見てもうこれは確実に分かっていると分かったが、どうして分かったのかを知っておかないと何かまずい気がする。

 俺以外の誰かが転生者なのか、はたまた俺が自身の口から話したのか、俺の脳内を覗き見るスキルを持つ奴がいるのか。これが知りたい。

「心配しなくても大丈夫。全部レンくんが教えてくれたから」
「俺は教えたつもりはないが?」

 俺の表情で感情が分かったのかは知らないが日向がそう言ってきた。

「レンくんは誰にも教えてないよ。でも、レンくんの独り言や寝言を聞いたことはあるけど」
「……そんな人前で独り言なんて言っていないと思うが?」
「うん、言ってない。人前では。……もう、分かるよね?」

 つまりは俺が一人の時にこいつらは盗聴していたということか? 本当にプライバシーも何もないな。

「スキルか?」
「……どうかな?」

 教えるつもりはないということか。スキルならどうすることもできないが物理的な盗聴なら帰ったら探し回ろう。

「レン先輩、私たちがゲームの世界の住人で、私たちが男主人公さんのヒロインであることも分かりました。でも、それで私たちが男主人公さんとくっ付かないといけない理由にはなりませんよね?」

 木間の抑揚のない言葉が、俺の体を震わせる。

 というか俺が彼女たちを甲子に押し付けることを独り言で言ってしまったのを聞かれていたのだろう。

「レン先輩? 私のこと、好きですか?」
「……嫌いではない」
「なら好きなんですね?」
「そういうわけでは……」
「なら嫌いなんですか?」
「好きか嫌いかで答えるのが難しいだけだ。普通、という言葉が一番しっくりくるかもしれない」
「でもレン先輩は私がどれだけやっても嫌いにはなりませんよね? なら、好きですよね?」

 木間のことを、彼女たちのことを好きだと認めたくはない。

 好意を向けられているのは分かるけど、どうしても彼女たちと関わるとイベントに巻き込まれて俺が人生を楽しめない、という考えに至ってしまう。

「それなら私が好きかしら?」
「それともあたしか?」
「こんな人たちよりも、私だよね?」
「ううん、きっと私」

 椿先輩、大石、佐倉、日向が次々にそう言ってくる。

「でも、レンくんが誰が好きで誰が嫌いだとか関係ないよ」
「レンくんのことを知りたい、レンくんのすべてが欲しい、レンくんを誰にも渡したくないという気持ちは持っているわ」
「レンくんが私のことが嫌いでも、諦めることはない」
「レン先輩はそれだけのことをしてしまったんですから」
「責任、とれよな?」

 合わせたかのように佐倉、椿先輩、日向、木間、大石が俺に向けて重い言葉を言い放ってきた。

 これは本当に逃げられそうにないな……。どうしてこうなったんだか。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

超実力至上主義序列第一位

山椒
ファンタジー
その学園は貴族や優秀な人材が集まる超実力至上主義の学園。 魔法や武の実力が高ければ上に行け、負ければ自身の権利、所有物、尊厳でさえも奪われる学園。たとえ相手が貴族であろうとも決闘で決まったことは一切の例外はない。 序列第一位は生徒会長になりその学園のルールを定め、好き放題できる権利を持つ最強。 その学園に入学してきた貧乏な男爵家の跡取りがいた。 その男子生徒は無駄を嫌い、できることならまったりとしたいという理由で学園に入り生徒会長になっていた。 なお男子生徒は多忙を極める。

魔力回路を手にした俺は努力を惜しまず突き進む!【なろうで一万PV突破!】

ピョンきち
ファンタジー
俺、ノルン=ヘルリッヒは毎日毎日鍛錬を怠らず続けていた。 王都に入学試験を受けにいく前日も鍛錬を怠らなかった。 鍛錬が終わり、村に向かって歩いて帰っていくといつもはなかった石像が道端にあった。 疑問に思って近づいてみると石像は光り輝き喋り出す。 『お主は、我らに選ばれし者。努力を惜しまず毎日毎日、ようやった。お主に力を与える事ができる。力が欲しいか?』と。 そうして俺は石像に特大サイズの魔力回路をもらった。 これは努力を惜しまない少年が努力しまくる物語! 小説家になろう、カクヨムにも連載中!

ステータス999でカンスト最強転移したけどHP10と最低ダメージ保障1の世界でスローライフが送れません!

矢立まほろ
ファンタジー
 大学を卒業してサラリーマンとして働いていた田口エイタ。  彼は来る日も来る日も仕事仕事仕事と、社蓄人生真っ只中の自分に辟易していた。  そんな時、不慮の事故に巻き込まれてしまう。  目を覚ますとそこはまったく知らない異世界だった。  転生と同時に手に入れた最強のステータス。雑魚敵を圧倒的力で葬りさるその強力さに感動し、近頃流行の『異世界でスローライフ生活』を送れるものと思っていたエイタ。  しかし、そこには大きな罠が隠されていた。  ステータスは最強だが、HP上限はまさかのたった10。  それなのに、どんな攻撃を受けてもダメージの最低保証は1。  どれだけ最強でも、たった十回殴られただけで死ぬ謎のハードモードな世界であることが発覚する。おまけに、自分の命を狙ってくる少女まで現れて――。  それでも最強ステータスを活かして念願のスローライフ生活を送りたいエイタ。  果たして彼は、右も左もわからない異世界で、夢をかなえることができるのか。  可能な限りシリアスを排除した超コメディ異世界転移生活、はじまります。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

処理中です...