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04:木間由美の場合。
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今日一日、特に何事もなく学校が終わった。
まあ二番目に面倒な相手に朝や昼休みに絡まれていたが、他ではちゃんとモブをさせてくれているから第三者から見ればちゃんとモブだっただろう。
「ただいまー」
「あっ、おかえりなさい! せんぱいっ!」
返事が返ってきたことに驚いたが、一度目ではないため玄関で立っている女性を見る。
少し赤がかった茶髪をミディアムボブにしている可愛らしい女子生徒木間由美が、制服の上からエプロンを着てお出迎えしてくれた。
「来るのが早くないか?」
「第一声がどうしてそれなんですか~。これを見て何とも思わないんですか?」
甘ったるい声でそう言ってくる木間。
「いつにもまして可愛いぞ。で、どうやって俺より早く来たんだ?」
「私の可愛い姿よりもそんなことが大切なんですか!? なら教えてあげます! 最後の授業をサボったんです!」
「いや何してんの?」
「もうレン先輩にこんなに可愛い私の姿を見せてあげようとサボったのに……女心を考えてください!」
「えぇ……」
帰ってきてエプロン姿を見せられて褒めが足りなかったからキレられた。
確かに可愛い。元から可愛いのに制服にエプロンとか期間限定の可愛さがそこにある。
「それを言えばいいんですよ! 何で言葉にしてくれないんですか!?」
「えっ、何も言ってないんだが?」
「何も言っていなくても思いは伝わってくるんですよ! ほら、三、二、一!」
童貞で女の子に可愛いを言ったことがない俺に何を求めているんだこの女は。でも言わないと解放してくれないから言うか。
「あー……可愛い。いつもよりって言い方はおかしいけど、エプロン姿の木間はとても可愛らしい。忘れられないくらいに、可愛い」
もうこれで勘弁してくれ。
「……七十点!」
「低くないか? これでも結構頑張ったんだけど。せめて七十五点はくれ」
「その五点は何ですか。でも木間じゃなくて由美って呼んでくれていたら九十点でしたよ」
「じゃあ残りの十点は?」
「もう少し言い慣れてれば満点ですね」
「それは無理って言うんだぞ」
「もしかして、満点を取るつもりだったんですか?」
「最初から採点されていると思っていなかったから取るつもりも何もない」
「またまた~、これを機に私を口説くつもりだったんですよね!」
「木間、そんな陽キャみたいなことを俺ができるわけがないだろ。よく考えろ」
「まあレン先輩は陰キャですから仕方がないですね。モブというよりも陰キャです」
「木間ちゃん、少しは言い方を考えてくれないかい? モブなら嬉しいけど陰キャを何度も言われて嬉しい人はいないぞ」
「モブって言われて嬉しい人もそんなにいないと思いますよ……」
このやり取りをしているのが玄関だったから俺と木間は家の中に入る。その際に木間が距離をゼロにしてくる。
「あっ! 一番やらないといけないことを忘れてました!」
「ご飯でも風呂でも早すぎるぞ」
「そういうところですよ!」
「そりゃどうも」
今のところ一番ヤバい言動がないのはこの木間だから、心が休まりたいところだが、相手をするのが面倒だからあまり他と大差ない。
疲れたから冷蔵庫の中に入っている椿先輩が作ってくれたケーキが一切れ残っているはずだからそれを食べよう。
椿先輩は本当に何でもできるから凄いよな。一番目に女子力が高いのは椿先輩で、二番目は佐倉、三番目に木間だ。
「あれ? 冷蔵庫にあったケーキ知らないか?」
冷蔵庫を開けるが、目的のケーキは見つからなかった。
「あぁ、あれは私が食べましたよ」
「なんで?」
「ケーキなら私が作りますからいいじゃないですか。今ホットケーキを作ってあげますから」
「あー、そうか。それなら頼む」
「はいっ!」
何だかぞくっとしたが、気のせいだろう。
椅子に座ってボーっと木間が台所を使っている姿を眺める。
「あっ、私の料理している姿に見惚れてましたか?」
「可愛いのは間違いないけど見惚れるまではいかないな」
何だか他のことを言われそうだからスマホを取り出したが、いつの間にか俺の背後に移動していた木間にスマホを取り上げられた。
「もう、女の子が家にいるんですからスマホを見るのはやめてください」
「あのまま見てたら何か言われると思ったんだよ」
「別に見たらいけないって言ってませんよ。存分に目に焼き付けてください!」
「分かった、そうする」
もう木間が恥ずかしくなるくらいにガン見することにした。
俺にガン見していることを意識してか、木間はあざとい仕草を俺に見せつけるように連発してきた。
でも俺はあざとい仕草は嫌いじゃないからそれを楽しみながら木間はホットケーキを作ってくれた。
「はい、私の愛情たっぷりのホットケーキです!」
「そうかー、それはさぞおいしいんだろうなー」
「やり直し」
「そうか、それはとてもおいしいんだろうな」
「はい! 味わって召し上がれ!」
ホットケーキにはすでにチョコレートがかけられており、フォークを手に取って出来立てのホットケーキを食べる。
「普通に美味しい」
「普通って何ですか」
「普通は普通だ。反応に困る時に使うな」
「私のホットケーキを食べておきながらその反応は死刑ですよ。そこら辺の男たちならお金を払ってくれますよ」
「それをタダで食べれてうれしいなー」
正面に木間が座り、一緒にホットケーキを食べている。
「なぁ、木間。俺がホットケーキにチョコレートをかけるって言ったっけ?」
すっと出されたから気にしなかったが、木間にそのことを全く聞かれなかったのにチョコレートをかけられて出てきた。
ハチミツもあるからハチミツをかけるなら分かるが、チョコレートをチョイスするのがよく分からなかった。
まだ椿先輩とかなら俺がチョコが好きだからかけるかもしれないが、付き合いが短い木間がそう判断するのは無理だろ。
「何言っているんですか、レン先輩。私にホットケーキにはチョコレートをかけるって言ってましたよ」
「えっ、そんなホットケーキのことを語ってたか?」
「はい、それはもう嬉々として話してくれましたよ」
ホットケーキにチョコレートをかけることなんか語ったことがないと思うんだが。
「そうだっけ……?」
「そうですよ。忘れちゃったんですか?」
うーむ、全く記憶にないのだが。でもこの内容、前にも話したっけって思う時はあるから、木間が言うのならそうなのだろう。一寸の引っかかりもないが。
「そうなのか。忘れていた」
「えぇー、ひどくないですかぁ?」
「何がだ?」
「私と会話したことを忘れちゃうなんて、ひどいと思いますぅ」
「すべての会話を覚えておくなんて無理だろ。例えそんなに話す人がいなかったとしてもな」
「私はレン先輩との会話は全部覚えてますよ?」
「なに、俺のことが好きなの?」
「好きって言ったら、告白を受けてくれますか?」
いつもの木間とは思えない大人な顔をしてそう言って来たことで、俺はドキリとさせられた。
「なんて冗談ですよ~! もしかして真に受けちゃいました?」
「はいはい、分かっていたから」
こんな小娘にドキリとさせられた事実に腹が立つ。
こういう奴だから面倒だって思うんだよなぁ。
ホットケーキを食べ終えて、さすがに食器を片付けようとしたがそれを木間に止められて、木間が食器を洗っている姿を眺めていた。
「せんぱーい、いい加減モブなんかやめて陰キャになりません?」
「いや、さっき俺のことを陰キャって言ってたやん」
「今のレン先輩はモブ陰キャですよ。それをただの陰キャにするんです」
「それグレードダウンしてないか? まだモブ陰キャの方が目立たないだろ」
「そんなことないですよ~。レン先輩が陰キャになれば、レン先輩とデートができるんですから陰キャになりましょう!」
「イヤだ」
なぜか俺に接触してくる五人のうち四人は、こういうことを言ってくるのだ。
唯一言わないのは日向であるから、まあ五人の中で誰がいいかって聞かれたら日向だよぉって答えるな。
「そもそもデートに行くのなら男友達と一緒に行けばいいだろ。俺みたいなモブ陰キャと行っても楽しくないんだから」
「――それ、本気で言ってますか?」
ゲームで男を巧みに操って召使いのようにしている木間の様子を見たことがあるから、この世界でもそうなのだろうなと思ってそう言った。
でも返ってきたのは冷たい声音に何を考えているのか分からない目だった。
うん、怖くてこれ以上この調子で言っていたら危険を感じると俺の第六感が訴えかけている。
「い! いや!? 冗談に決まっているだろ」
「ですよね~。じゃないと私、何をするか分かりませんから」
「うん……そうだよね」
一番ヤバくない奴だと思っていたのに同じくヤバい奴だった。
まあ二番目に面倒な相手に朝や昼休みに絡まれていたが、他ではちゃんとモブをさせてくれているから第三者から見ればちゃんとモブだっただろう。
「ただいまー」
「あっ、おかえりなさい! せんぱいっ!」
返事が返ってきたことに驚いたが、一度目ではないため玄関で立っている女性を見る。
少し赤がかった茶髪をミディアムボブにしている可愛らしい女子生徒木間由美が、制服の上からエプロンを着てお出迎えしてくれた。
「来るのが早くないか?」
「第一声がどうしてそれなんですか~。これを見て何とも思わないんですか?」
甘ったるい声でそう言ってくる木間。
「いつにもまして可愛いぞ。で、どうやって俺より早く来たんだ?」
「私の可愛い姿よりもそんなことが大切なんですか!? なら教えてあげます! 最後の授業をサボったんです!」
「いや何してんの?」
「もうレン先輩にこんなに可愛い私の姿を見せてあげようとサボったのに……女心を考えてください!」
「えぇ……」
帰ってきてエプロン姿を見せられて褒めが足りなかったからキレられた。
確かに可愛い。元から可愛いのに制服にエプロンとか期間限定の可愛さがそこにある。
「それを言えばいいんですよ! 何で言葉にしてくれないんですか!?」
「えっ、何も言ってないんだが?」
「何も言っていなくても思いは伝わってくるんですよ! ほら、三、二、一!」
童貞で女の子に可愛いを言ったことがない俺に何を求めているんだこの女は。でも言わないと解放してくれないから言うか。
「あー……可愛い。いつもよりって言い方はおかしいけど、エプロン姿の木間はとても可愛らしい。忘れられないくらいに、可愛い」
もうこれで勘弁してくれ。
「……七十点!」
「低くないか? これでも結構頑張ったんだけど。せめて七十五点はくれ」
「その五点は何ですか。でも木間じゃなくて由美って呼んでくれていたら九十点でしたよ」
「じゃあ残りの十点は?」
「もう少し言い慣れてれば満点ですね」
「それは無理って言うんだぞ」
「もしかして、満点を取るつもりだったんですか?」
「最初から採点されていると思っていなかったから取るつもりも何もない」
「またまた~、これを機に私を口説くつもりだったんですよね!」
「木間、そんな陽キャみたいなことを俺ができるわけがないだろ。よく考えろ」
「まあレン先輩は陰キャですから仕方がないですね。モブというよりも陰キャです」
「木間ちゃん、少しは言い方を考えてくれないかい? モブなら嬉しいけど陰キャを何度も言われて嬉しい人はいないぞ」
「モブって言われて嬉しい人もそんなにいないと思いますよ……」
このやり取りをしているのが玄関だったから俺と木間は家の中に入る。その際に木間が距離をゼロにしてくる。
「あっ! 一番やらないといけないことを忘れてました!」
「ご飯でも風呂でも早すぎるぞ」
「そういうところですよ!」
「そりゃどうも」
今のところ一番ヤバい言動がないのはこの木間だから、心が休まりたいところだが、相手をするのが面倒だからあまり他と大差ない。
疲れたから冷蔵庫の中に入っている椿先輩が作ってくれたケーキが一切れ残っているはずだからそれを食べよう。
椿先輩は本当に何でもできるから凄いよな。一番目に女子力が高いのは椿先輩で、二番目は佐倉、三番目に木間だ。
「あれ? 冷蔵庫にあったケーキ知らないか?」
冷蔵庫を開けるが、目的のケーキは見つからなかった。
「あぁ、あれは私が食べましたよ」
「なんで?」
「ケーキなら私が作りますからいいじゃないですか。今ホットケーキを作ってあげますから」
「あー、そうか。それなら頼む」
「はいっ!」
何だかぞくっとしたが、気のせいだろう。
椅子に座ってボーっと木間が台所を使っている姿を眺める。
「あっ、私の料理している姿に見惚れてましたか?」
「可愛いのは間違いないけど見惚れるまではいかないな」
何だか他のことを言われそうだからスマホを取り出したが、いつの間にか俺の背後に移動していた木間にスマホを取り上げられた。
「もう、女の子が家にいるんですからスマホを見るのはやめてください」
「あのまま見てたら何か言われると思ったんだよ」
「別に見たらいけないって言ってませんよ。存分に目に焼き付けてください!」
「分かった、そうする」
もう木間が恥ずかしくなるくらいにガン見することにした。
俺にガン見していることを意識してか、木間はあざとい仕草を俺に見せつけるように連発してきた。
でも俺はあざとい仕草は嫌いじゃないからそれを楽しみながら木間はホットケーキを作ってくれた。
「はい、私の愛情たっぷりのホットケーキです!」
「そうかー、それはさぞおいしいんだろうなー」
「やり直し」
「そうか、それはとてもおいしいんだろうな」
「はい! 味わって召し上がれ!」
ホットケーキにはすでにチョコレートがかけられており、フォークを手に取って出来立てのホットケーキを食べる。
「普通に美味しい」
「普通って何ですか」
「普通は普通だ。反応に困る時に使うな」
「私のホットケーキを食べておきながらその反応は死刑ですよ。そこら辺の男たちならお金を払ってくれますよ」
「それをタダで食べれてうれしいなー」
正面に木間が座り、一緒にホットケーキを食べている。
「なぁ、木間。俺がホットケーキにチョコレートをかけるって言ったっけ?」
すっと出されたから気にしなかったが、木間にそのことを全く聞かれなかったのにチョコレートをかけられて出てきた。
ハチミツもあるからハチミツをかけるなら分かるが、チョコレートをチョイスするのがよく分からなかった。
まだ椿先輩とかなら俺がチョコが好きだからかけるかもしれないが、付き合いが短い木間がそう判断するのは無理だろ。
「何言っているんですか、レン先輩。私にホットケーキにはチョコレートをかけるって言ってましたよ」
「えっ、そんなホットケーキのことを語ってたか?」
「はい、それはもう嬉々として話してくれましたよ」
ホットケーキにチョコレートをかけることなんか語ったことがないと思うんだが。
「そうだっけ……?」
「そうですよ。忘れちゃったんですか?」
うーむ、全く記憶にないのだが。でもこの内容、前にも話したっけって思う時はあるから、木間が言うのならそうなのだろう。一寸の引っかかりもないが。
「そうなのか。忘れていた」
「えぇー、ひどくないですかぁ?」
「何がだ?」
「私と会話したことを忘れちゃうなんて、ひどいと思いますぅ」
「すべての会話を覚えておくなんて無理だろ。例えそんなに話す人がいなかったとしてもな」
「私はレン先輩との会話は全部覚えてますよ?」
「なに、俺のことが好きなの?」
「好きって言ったら、告白を受けてくれますか?」
いつもの木間とは思えない大人な顔をしてそう言って来たことで、俺はドキリとさせられた。
「なんて冗談ですよ~! もしかして真に受けちゃいました?」
「はいはい、分かっていたから」
こんな小娘にドキリとさせられた事実に腹が立つ。
こういう奴だから面倒だって思うんだよなぁ。
ホットケーキを食べ終えて、さすがに食器を片付けようとしたがそれを木間に止められて、木間が食器を洗っている姿を眺めていた。
「せんぱーい、いい加減モブなんかやめて陰キャになりません?」
「いや、さっき俺のことを陰キャって言ってたやん」
「今のレン先輩はモブ陰キャですよ。それをただの陰キャにするんです」
「それグレードダウンしてないか? まだモブ陰キャの方が目立たないだろ」
「そんなことないですよ~。レン先輩が陰キャになれば、レン先輩とデートができるんですから陰キャになりましょう!」
「イヤだ」
なぜか俺に接触してくる五人のうち四人は、こういうことを言ってくるのだ。
唯一言わないのは日向であるから、まあ五人の中で誰がいいかって聞かれたら日向だよぉって答えるな。
「そもそもデートに行くのなら男友達と一緒に行けばいいだろ。俺みたいなモブ陰キャと行っても楽しくないんだから」
「――それ、本気で言ってますか?」
ゲームで男を巧みに操って召使いのようにしている木間の様子を見たことがあるから、この世界でもそうなのだろうなと思ってそう言った。
でも返ってきたのは冷たい声音に何を考えているのか分からない目だった。
うん、怖くてこれ以上この調子で言っていたら危険を感じると俺の第六感が訴えかけている。
「い! いや!? 冗談に決まっているだろ」
「ですよね~。じゃないと私、何をするか分かりませんから」
「うん……そうだよね」
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