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01:目が覚めたら危険? に直面。

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「んあぁ……?」

 硬い地面でうつ伏せになっていることに寝ぼけた頭で疑問に思いつつ、ゆっくりと起き上がる。

「お、起きたんだ。起きたのなら何とかしてくれないかな……?」

 知らない男性の声が聞こえ、その言葉がどういう意味か分からなかった。

「あ……?」
「ちょっと、早く起きなさい! 起きなければ死ぬのよ!」

 知らない女性の声もしてきた。必死さが伝わってきて、俺は周りを見る。

 俺に声をかけてきた男性と女性、それに女性の近くで震えている女子高生がいるが、その俺たち四人を囲んでいるのはファンタジー世界ではお馴染みなオークで、四体が四方に俺たちを見下ろしていた。

 こうして肉眼で見るとホントに大きく見えるなぁ……。

「なんだ、夢か」

 まだ眠たいからもう少し寝て居よう。

「夢じゃないわよ! アタシたちがここに落とされてオークに囲まれているのは現実よ! いいから起きなさい!」
「いてっ」

 頭を叩かれてようやく意識がハッキリとしてきた。

「……どういうことだ?」

 自分がいる状況を認識できたからこそ、どういう状況か全く分からなかった。

 そう言えば気を失う前の記憶はコンビニに買い物に行こうとしたら急に地面が抜けて落ちて行く感覚だったな。

「この状況で俺が何とかしようとしても無理だと思うぞ?」

 オークたちに囲まれていて俺が何とかできるほど俺の体格は良くないし、人間がどうこうできるほどの体格ではないのがオークだ。

「簡単に説明するわよ」

 俺に説明してくれる女性はさっき俺の目を覚まさせてくれた女性で、きっとバリバリの働く女性であっただろう黒髪ポニーテールに凛としている女性であるがスーツは汚くなって体は傷だらけになっていた。

「アタシたちが起きた時にはアンタは起きてなかった。だから置いて行った。でも向かった先にこいつらに見つかって追いかけられてここに戻ってきたらこいつらはこれ以上進まなくなった。だからアンタに何かあると思った。分かった?」
「俺を置いて行ったことはともかく、俺に何を期待しているのかは知らないが本当に分からないぞ」
「アタシたちにはそれぞれ術式がここに来た時に付与されているか開花されているのか分からないけど持っているのよ。だからアンタにもあるわよ」
「そんなことを言われてもな……」

 起きたばかりの俺にそんなことを言われても分かるわけがない。

「倒せとか炎が出ろとかそういうのを思えばいいのよ! 早く倒してちょうだい!」

 今にも泣きそうな女性に少し嗜虐心が芽生えながらも試してみることにした。

「えー……オークよ我が瞳から消え去れ!」

 適当に言葉を発すると、俺たちの周りに暴風が吹きつけた。

「――えっ」

 清楚で大和撫子のような濡羽色の長い髪を持っている女子高生が声を漏らした。

 それもそのはず、俺たちを囲んでいたオークが地面に埋まって変な形になって絶命していたから。

「おぉ、すごいグロイ」

 何だか未だに夢心地だがオーク四体が地面に埋まってぐちゃぐちゃになっている姿はグロかった。

「写真とろ……あれ?」

 ポケットに入れていたはずのスマホがどこにもなかった。

「非常に言いにくいことがあるわ」
「何だよ」
「アンタのスマホ、アタシが勝手にとっていたわ」
「やってることが山賊すぎだろ」
「だって、ここにいたらどうせ死ぬんじゃないかと思ったから……」
「なら起こせよ」
「アタシが一回起こして起きなかったのが悪いのよ」
「そんなもので起きるかよ、人が」

 凛とした女性が差し出してくる俺のスマホをひったくるように取り返してオークの写真を撮る。

 ついでに電波が通じているのか見るとやっぱり圏外だった。これだとカメラ機能と目覚まし機能とメモ帳機能くらいしかない。

「で、ここはどこなんだ?」
「ダンジョンみたいよ」
「ダンジョン? どうして分かるんだ」
「どうしてって、変な小動物が肩に見えていない?」

 この女性がいきなり胡散臭く見えてきたがまあ俺以外には見えているのだろうな。

「見えないな。一人ずつにいるのか?」
「いたという表現が正しいわね。チュートリアルを終えて消えたわ。だけどどうしてアンタにはいないのかしら」
「さぁ。その小動物がここがダンジョンって言っているのか?」
「そ。全人類がこのダンジョンの中に落ちてアタシたちは地上に戻るために上にあがれっていうことを言って来たわ。それからそれぞれの術式を説明もしてくれたけど……アンタはどんな術式なのかしら?」
「うーん……」

 説明されて分かったのなら俺は説明されていないのだから分かるわけがない。と思ったけど何かの意思が伝わってきた。

『十二神将』
毘羯羅びから
招杜羅しょうとら
真達羅しんだら
摩虎羅まこら
波夷羅はいら
因達羅いんだら
珊底羅さんていら
頞儞羅あにら
安底羅あんていら
迷企羅めきら
伐折羅ばさら
宮毘羅くびら

 俺の術式の名前に、俺の中で意思を出している者たちの名前と能力が頭に流れ込んできた。

 ……何か、強いな。まあ神と名がついているのだから強いのは当然か。さっき何をしたのか全く理解できなかったが能力を教えてもらったことで何をしているのか分かった。

「どうしたの?」
「いや……何となく分かりそうだから大丈夫だ」
「えっ、それは教えてほしいわね。あれが何なのか知りたいところよ」
「別にいいがそっちの術式も教えろよ」
「そうね、名前と一緒に教えましょう。アンタたちもそれでいいわね?」
「それでいいよ」
「はい、私もそれで構いませんわ」

 ようやく自己紹介をすることができる。他がどんな術式なのか気になるし。

 とりあえず俺から自己紹介を始めることにした。

「俺は宝月ほうつき照耀しょうよう。俺の術式は「千手」で一度に千の手を繰り出すことができる術式だ」
「それであんな一撃でオークが倒されていたのね……」
「そういうことだ。何がされていたのか俺も分からなかったけど」
「……それでよく使えていたわね。でもどうしてそれでオークたちは寄ってこなかったのかしら?」
「そんなこと俺に言われても」
「そうよね」

 実のところ、十二神将は悪魔や敵を近づけないために怖い顔をしており、モンスターたちが近づいてこないように威圧していたようだ。

「次はアタシがするわね。アタシは四条しじょうかなで。術式は「バリア」ね。制限はあるけれど壊れにくい透明な壁を作ることができるわ」
「へぇ、便利そう」
「あのオークたちの攻撃も防げたら良かったのだけれどね。一発で壊されたわ」
「そりゃ可哀想に」

 死んだ目をしている四条。俺に比べたらまだまだだな。

 次に自己紹介をするのは眼鏡をかけて黒髪をぼさっとさせている少し大人し目なスーツの男性だった。

「じ、じゃあ次はボクが。ボクは児島こじまリク。術式は「千里眼」だよ」

 そう言われた瞬間にこの児島がウソをついていることに気が付いた。

「……ウソか?」
「え、えっ、う、ウソじゃないよ!」
「そうよ、この陰キャは遠くまで見ることができていたわ」
「うーん……どう言ったらいいだろうか。千里眼はホントだろうけどそれが術式ではない。術式は違うと思う」
「それはアンタの術式とかではなく勘でしょう? 変な言いがかりをつけて混乱を招かないで」

 俺の術式を一つしか開示していないから俺の術式と今言えばどうしてホントのことを言わなかったんだと言われるからここは俺の勘違いにしておくか。

 だけど俺と四条が話している間にみるみる児島の顔色が悪くなっていた。それに俺と四条は気がついた。

「……まさか、本当に千里眼ではないの?」
「どうしてそんなに顔色を悪くしているんだ?」

 俺と四条の言葉と視線に耐えきれなくなった児島は白状した。

「あぁ、ボクの術式は千里眼ではないよ。ボクの術式は「眼」で見ようと思えば何でも見ることができる術式だよ……」
「へぇ、便利だな。それで女の子の服の下やら薄い本みたいに見放題なのか」
「発想が下品なのよ。そう思ってもやるわけがないじゃない。陰キャに失礼よ」
「陰キャって言う方が失礼だろ」

 また児島を見てみると、再び顔色を悪くして視線を泳がせている。

「アンタ、本当にやっていたの!?」
「ひぃ! さ、最初は術式の使い方が分からなかったから見てしまっただけだよ!」
「最初ってことはまた見ていたのか?」

 俺がそう言ってみると少しだけ余計なことをみたいな視線を送ってきた児島。

「……最低ね。宝月が言ってくれなければずっと見られていたということよね」

 ゴミを見る目で児島を見て殺気を放っている四条。清楚女子高生も体を腕で隠しながら四条に近づいた。

「わ、悪いとは思っているけど……」
「悪いと思っているならやらないだろうな」
「き、キミはさっきから余計なことを言い過ぎなんだよ!」
「宝月は当たり前のことを言っているだけよ。……目を潰したいところね」
「ひぃ! で、でも! ボクの力がないといけないだろ!?」
「そういう主張をしてくる辺り最低だな」
「そうね。でもこのクズが便利なのは確かね」
「じゃあ俺が都度「見ているか?」って質問して確認する。それで見ているってなれば置いて行くか」
「アンタのその嘘発見能力は百%なの?」
「……今のところ百%だな」

 ここで百%と言うか悩んだが、この能力の持ち主が前面に百%を押し出してきたからそう言うことにした。

「それなら宝月に任せることにするわ。言っとくけれど、何をしでかすか分からない人間と一緒に行動するつもりはないわよ?」
「……分かった」

 こういう人間っているんだな。法がなくなった途端に善と悪の境界があいまいになって何かしでかす奴が。

「それでは、最後は私ですね」

 児島を警戒しつつ清楚女子高生が前に出る。

「私は天白あましろ清香きよかと申します。術式は「清潔」です、以後よろしくお願いします」
「清潔か、それも便利だな」
「……それから、宝月様に謝らなければならないことがあります」
「どうした?」
「寝ている宝月様からスマホを抜きったことを謝罪します。四条様を止めることができず、あまつさえお助けいただきました。本当に申し訳ございません……!」

 張本人が謝っていないのに女子高生が謝るのか。とても高校生徒は思えない。

「いいぞ、許す」
「そ、そんなに簡単でよろしいのですか?」
「俺は気にしていないからな。こいつが謝ってこなくても気にしなかったしスマホは手元に戻ってきている。だから気にするな。気にしている方がこっちが気にする」
「そう、でしょうか」
「そうだ。あまり深く考えて深く抱えないようにな。これからよろしくな、天白」
「……はい、よろしくお願いします」

 これで全員の自己紹介を終えることができた。

「それで、四条たちはどこに向かおうとしていたんだ?」
「この陰キャ変態がこの先に村があるって言ったのよ。だからそちらに向かっていたけれど、結果はオークたちに追われることになったわ」
「ほ、本当に村があるんだよ!」
「どうだか。アタシと清香をハメようとしていたんじゃない?」
「いや、村があるのは本当みたいだな。でもオークを見つけれなかったのか?」
「……見つけれたけど、オークの嗅覚が凄すぎてボクが見つけると同時に見つかって追いかけられていたんだ」
「へぇ、千里眼で見てそれなら、普通の人なら逃げられそうにないな。てか俺が思っているようなモンスターばかりが出てくるダンジョンではないんだな」

 まあこういう平原に加えて陽があるのだからダンジョンと言われるまでダンジョンだとは分からないような場所だ。

「小動物には上に行けということしか言われていないからどれくらい上なのかも分かっていないし、ここがどういう場所かも分かっていないわ。……でも、覚悟しておけとは言われたわね」
「ふぅん。まあさっきも死にそうだったわけだからそういうことなのだろうな」

 オークが特別強いのか、このダンジョンのモンスターが強いのか。

「ま、情報を集めるために行くか」
「えぇ、行きましょう」
「はい、そうですね」

 かなり沈んでいる児島と共に俺たち四人は村がある方向に進み始めた。
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