逃げ出して、その先に

千代乃

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5乙矢

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暗闇の中、キラッと光る何かが見えた。

(──目だわ)

それは、私を呪詛しているものの目だと直感した。

対ではない、隻眼だ。

視界が暗転したのは瞬きする間もないほどの一瞬のこと。

そのまま私は玄関に膝をつく。

全力で走った後のように、息があがっている。

(呪詛者は…乙矢ね)

私は唇をかんだ。

橘乙矢…門戸による呪詛返しを喰らって死にかけた男。九死に一生を得たが、片目を失っている。そして…

(あいつは私を嫌っている…)

教団内で、いつからか私はあいつの目を見ないようになっていた。私と変わらない年齢で、後から来たのにかかわらず教団内で頭角を現していった乙矢とは最初は良好な関係だった。

しかし、私は2、3年前から体調を崩すことが多くなり教団の仕事もまともにこなせないことが増えてきた。
その頃から、乙矢との関係は悪くなっていったと思う…。

教団で私に嫌がらせを直接していたのは乙矢ではない。だが、裏で乙矢が糸を引いているのを私は知っていた。証拠はないが確信があった。

同じように、乙矢も私が呪詛返しの一件にかんでいるのだと「確信」しているのなら…

(…ま、お役目だろうし、動機もあるし、ためらう理由はないでしょうね。私だって大人しくやられる気はないけど)

もちろん、本職相手に下手な呪詛返しなんかできないしするつもりもない。

教団を出て、これからずっと逃げ続けなければならないのかと思うとうんざりもする。

だが、あのまま教団に居続けるという選択肢はもう私にはなかった。




「…大丈夫ですか?」

玄関に入るなり膝から落ちた私に、井口が声をかける。

「すみません、大丈夫です」

私は立ち上がる。

(…ここ、強めの結界が張ってあるわね)

悪意ある者は、この建物に入ったとたん、躓いたり転んだりするのだろう。
今の私のように。
そして気のせいかもしれないが、若干呪詛の効力が薄まった…ような気がした。



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感想 1

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