5 / 14
5乙矢
しおりを挟む
暗闇の中、キラッと光る何かが見えた。
(──目だわ)
それは、私を呪詛しているものの目だと直感した。
対ではない、隻眼だ。
視界が暗転したのは瞬きする間もないほどの一瞬のこと。
そのまま私は玄関に膝をつく。
全力で走った後のように、息があがっている。
(呪詛者は…乙矢ね)
私は唇をかんだ。
橘乙矢…門戸による呪詛返しを喰らって死にかけた男。九死に一生を得たが、片目を失っている。そして…
(あいつは私を嫌っている…)
教団内で、いつからか私はあいつの目を見ないようになっていた。私と変わらない年齢で、後から来たのにかかわらず教団内で頭角を現していった乙矢とは最初は良好な関係だった。
しかし、私は2、3年前から体調を崩すことが多くなり教団の仕事もまともにこなせないことが増えてきた。
その頃から、乙矢との関係は悪くなっていったと思う…。
教団で私に嫌がらせを直接していたのは乙矢ではない。だが、裏で乙矢が糸を引いているのを私は知っていた。証拠はないが確信があった。
同じように、乙矢も私が呪詛返しの一件にかんでいるのだと「確信」しているのなら…
(…ま、お役目だろうし、動機もあるし、ためらう理由はないでしょうね。私だって大人しくやられる気はないけど)
もちろん、本職相手に下手な呪詛返しなんかできないしするつもりもない。
教団を出て、これからずっと逃げ続けなければならないのかと思うとうんざりもする。
だが、あのまま教団に居続けるという選択肢はもう私にはなかった。
「…大丈夫ですか?」
玄関に入るなり膝から落ちた私に、井口が声をかける。
「すみません、大丈夫です」
私は立ち上がる。
(…ここ、強めの結界が張ってあるわね)
悪意ある者は、この建物に入ったとたん、躓いたり転んだりするのだろう。
今の私のように。
そして気のせいかもしれないが、若干呪詛の効力が薄まった…ような気がした。
(──目だわ)
それは、私を呪詛しているものの目だと直感した。
対ではない、隻眼だ。
視界が暗転したのは瞬きする間もないほどの一瞬のこと。
そのまま私は玄関に膝をつく。
全力で走った後のように、息があがっている。
(呪詛者は…乙矢ね)
私は唇をかんだ。
橘乙矢…門戸による呪詛返しを喰らって死にかけた男。九死に一生を得たが、片目を失っている。そして…
(あいつは私を嫌っている…)
教団内で、いつからか私はあいつの目を見ないようになっていた。私と変わらない年齢で、後から来たのにかかわらず教団内で頭角を現していった乙矢とは最初は良好な関係だった。
しかし、私は2、3年前から体調を崩すことが多くなり教団の仕事もまともにこなせないことが増えてきた。
その頃から、乙矢との関係は悪くなっていったと思う…。
教団で私に嫌がらせを直接していたのは乙矢ではない。だが、裏で乙矢が糸を引いているのを私は知っていた。証拠はないが確信があった。
同じように、乙矢も私が呪詛返しの一件にかんでいるのだと「確信」しているのなら…
(…ま、お役目だろうし、動機もあるし、ためらう理由はないでしょうね。私だって大人しくやられる気はないけど)
もちろん、本職相手に下手な呪詛返しなんかできないしするつもりもない。
教団を出て、これからずっと逃げ続けなければならないのかと思うとうんざりもする。
だが、あのまま教団に居続けるという選択肢はもう私にはなかった。
「…大丈夫ですか?」
玄関に入るなり膝から落ちた私に、井口が声をかける。
「すみません、大丈夫です」
私は立ち上がる。
(…ここ、強めの結界が張ってあるわね)
悪意ある者は、この建物に入ったとたん、躓いたり転んだりするのだろう。
今の私のように。
そして気のせいかもしれないが、若干呪詛の効力が薄まった…ような気がした。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
実話の体験談につきオチなど無いのでご了承下さい
七地潮
ホラー
心霊体験…と言うか、よくある話ですけど、実際に体験した怖かった話しと、不思議な体験を幾つかアップします。
霊感なんて無いんだから、気のせいや見間違いだと思うんですけどね。
突き当たりの教室なのに、授業中行き止まりに向かって人影が何度も通るとか、誰もいないのに耳元で名前を呼ばれたとか、視界の端に人影が映り、あれ?誰か居るのかな?としっかり見ると、誰も居なかったとか。
よく聞く話だし、よくある事ですよね?
まあ、そんなよく聞く話でしょうけど、暇つぶしにでもなればと。
最後の一話は、ホラーでは無いけど、私にとっては恐怖体験なので、番外編みたいな感じで、ついでに載せてみました。
全8話、毎日2時半にアップしていきます。
よろしければご覧ください。
2話目でホラーHOTランキング9位になってました。
読んでいただきありがとうございます。
ハハハ
辻田煙
ホラー
苦しいキス。だが、花梨(かりん)はもっとそれを感じたかった。遊園地のパレードと花火を背に、花梨と紫苑(しえん)は互いに愛を囁く。
花梨にだけ見えている、みんなに生えている翼。花梨に嘘をついていない者だけが、「白い翼」を持つ。花梨の周囲のほとんどは「黒い翼」を生やしている中、紫苑は「白い翼」を背中に生やし、花梨に愛を囁いていた。花梨だけがそれを知っていた。
しかし、遊園地デート以後、久しぶりに夏休み中に会った紫苑の態度が、花梨にはぎこちなく見えてしまった。花梨は訊ねる。
「紫苑――私に隠していることない?」
「……なにも隠してないよ?」
それまで真っ白だった紫苑の翼は、花梨の問いをきっかけに真っ黒に染まってしまった――彼は花梨に噓をついた。
紫苑――恋人が嘘をついていることを知ってしまった花梨は、何を思うのか。
……花梨に嘘をついてはいけない。絶対に。
※【感想、お気に入りに追加】、エール、お願いいたします!m(__)m
※2023年8月26日、公開
※この作品は、カクヨム・小説家になろう・ノベルアップ+にも投稿しています。
※表紙の著作権は作家が持っています。
弐式のホラー小説 一話完結の短い話集
弐式
ホラー
「怖い話」「気味悪い話」「後味悪い話」をテーマにした一話5000文字以内の超短編集です。不定期での更新になります。基本一話完結で、世界観も統一しておらず、現代劇だったりファンタジー世界が舞台だったりします。できるだけワンパターンにならないように、色々書いていきたいと思っています。中には、「どこがホラーなんだ」と思われるような作品もあると思いますが見捨てずにお付き合いいただければ幸いです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる