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10.アレンとカレン

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アレンとカレンは二卵性の双子だ。焦げ茶の髪、ハシバミ色の瞳、性差により体格こそ違うが本当によく似ている。

「ここを立つ前に、泉をもう一度見ておきたくなりましたので」

私は二人に悪びれることなく言う。
引き留められるだろうが、大人しく従う気もなかった。

「ユラノ様…」
アレンが私を説得しようと一歩前に出るが、カレンの言葉の方が早かった。

「では見に行きましょうか」
「カレン!?」

アレンはカレンを咎めるように見る。

「急いで行って戻れば間に合うでしょう。ここで問答している時間は無駄ですわ…」

カレンは肩を竦めた。

「聖女さま、乗馬のご経験はおありかしら?」

あるわけがない。



この巨体を乗せる馬も可哀想だが、人様の手を借りて馬に乗る羽目になった私だって可哀想だ。私はカレンと同乗することになった。カレンの後ろに乗る。私の方が彼女より若干背が高いのだ。カレンは乗馬用の服に着替え、私も男物の乗馬服を借りて着ている。綺麗な服ではないが、サイズは合っている。

「感謝します、カレン様」

私がカレンに言うと、

「礼など不要ですわ」

短くカレンは応じる。

「歴代の聖女様は例外なく元の世界に戻ろうと、湖に戻られていますから。1人でこっそり抜け出されるより、こうして同行しているほうが面倒が省けますもの」

カレンは私が湖で目的を果たす、つまりは元の世界に戻る、とはさらさら考えていないようだった。

「戻れないんでしょうか?どうしても?」

カレンに問いかける。

「少なくとも、私はその方法も前例も存じ上げませんわね。湖に連れていくのは、無駄ってことを納得して頂くためですのよ」

前に座るカレンのきっちり編み込まれた髪を見つめながら、会話を思い出していた。カレンが何かを隠しているとか、嘘を言っているとはとても思えなかった。

カレンは私の食事作法を見て笑っていたが、もしかしたら歴代の聖女の記録を思い出していたのかもしれない。歴代の聖女たちも異世界のテーブルマナーを最初から習得していたとは思えないし。

湖に戻り、私が現れたあたりで馬は止められた。

結論から言えば…カレンの言った通りだった。
湖にはただの景色が広がるだけで、元の世界に戻る手がかりなど見つかるわけもなかった。 

「ユラノ様がお持ちになっていた鞄は乾きましたので、城に戻ったらお渡しいたしますね」

私ががっかりしたと思ったのか、慰めるようにカレンは優しく言ってくれた。

水没した鞄は中身もびしょ濡れだったので、広げて自然乾燥させていたようだ。ついでに中身の記録もとったらしい。私はトートニスに現れた最新の聖女だものね…

城に戻ると、既に王都に向かう準備は整っており私待ちとなっていた。私はすぐにケイトを先頭とするメイドたちに連行され、身ぐるみ剥がされ、礼服に着替えさせられた。

カルドネは私が勝手に行動したことについて触れず…そんな時間的余裕がなかったせいだろうが、王都への転移魔法について細かなあれこれを説明した。失敗して肉片となってしまった例もあると聞き、

「いや、そんな危険な方法じゃなくても…陸路でいきません?私、手伝ってもらったら馬に乗れますよ…」

と震え上がってカルドネを苦笑させてしまったが、脅かすようなことをいったのはお前だろう。何が「いや、今回は最高の術師が行いますので、そんなことは万にひとつも起こりませんよ」だ。

転移魔法陣にびびってなかなか入ろうとしない私は、カルドネになだめすかされ、結局術師の手を握って入った。本来は術師が陣に入る必要はないようだが、私が入ろうとしないので仕方なくの処置らしい。

いや、私だって他人様の手を煩わしたくはない…
煩わしたくないが、未知の、人を肉片にしてしまうかもしれないものに入るのは恐い。こんな訳の分からぬ世界で、訳の分からぬ死に方なぞ断じてしたくないのだ。

自分でも不思議な程魔方陣が怖くて見栄もへったくれもないとはこのことだな、とは思いつつも術師の手を握りしめ困ったときの神頼みの神に祈った。
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