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3.目覚める
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ハッと気づいた私は体を起こすと同時にベッドから身を起こした。
(寝過ごしてしまった!)
部屋の明るさに血の気が引く。
いつも薄暗いうちに起きる私が、こんなに明るくなるまで寝ているなんてついぞないことだ。
時間が気になり、時計を探そうとしたところでようやく違和感に気づいた。
(なんだ、ここは?)
私は普段床に布団を敷いて寝ている。ベッドで寝ることなどない。
海外の映画に出てくるような広々とした、大きな窓に高い天井、天蓋付きのベッド…
見回していると、ベッド近くにいる女と目が合った。
メイドのような服を着ていて、この部屋の雰囲気には合っている。年の頃は十代後半か。
「お目覚めでしょうか 。ご気分はいかがですか?」
(まだ夢を見てるのか?)
起きたと思っても、まだ布団の中で起きた夢を見ているだけ、というのはこれまでにも経験がある。やれやれ…
「ここはどこですか?」
一応聞いておく。メイドはすぐに答えてくれた。
「あなた様が現れた、トートニス湖を領内に治めるトートニス辺境伯の城内です」
教えてくれてありがとう。間違いなくまだ夢をみているんだな、これは。疲れてるから、このふかふかの布団でもうひと眠りさせてもらおう…私は二度寝を決め込むが、メイドは事務的に告げる。
「お目覚め早々で申し訳ありませんが、御身を清めさせて頂きます」
ちなみに私は白い簡単なドレスに着替えていた。寝巻のようなものだろうが、シルクのような肌触りでとても気持ちが良い。
メイドっぽい女たちが湯と風呂桶を持ってやってきて、私をすっぽんぽんに剥いて洗い出した。
まあ、夢だし。
富豪のエステってこんな感じなのでは?知らんけど。
これは『ひっ、一人でできますから////』って一応恥じらった方がいいのかもしれないが、今さらだ。
などと思いながら、なされるがままに私は身を任していた。
彼女たちは無駄口叩かず、粛々と仕事を遂行していった。
(きっと腹の中では『この豚の世話を何で私たちが?』って思ってるんだろうな~)
と世話を受けながら思ったが、これは私の被害妄想だけではないと思う。
彼女たちの腹の中は分からないが、体を綺麗にされるというのは気持ちがいいものだった。
細く華奢な手で触られるのも気持ちがよい。
この瞬間を経験したいがために、この夢をみているのではないかと思ってしまったくらいだ。
残念なことに、私はどんなに汚れを落としても、髪の毛を梳られても、磨き上げられても、香油をつけられても、醜い豚であることに変わりはない。醜い豚の清潔感がマシになった程度だろう。
自分の容姿に関してはとことんネガティブになれるようだ。
洗体後、彼女たちが私に着せ始めた衣装もすばらしかった。おそらく寝ている間に、大急ぎで私の体形に合うように補正したところも見受けられた。古典的な、ゆったりした着物のような宗教儀式のための衣装だから本当はある程度はカバーできる作りなのだろう、ここまで太っていなければ。
馬子に衣装はよく言ったもので、立派な服を着せられると何となくそれっぽい気にもなってくるものだ。何度でも繰り返すが、夢なのだ。豚が調子に乗って勘違いしたって誰にも迷惑かけることがない。後ろ指指して笑う奴もいない。いるとしても、私の無意識のオーディエンスだ。笑いたきゃ笑え。はっはっは。
…そうはいっても、しんとした廊下を女たちと共に歩いていると不安になってくる。
夢にしては、細部までリアルすぎる。五感で感じる全てが夢にしてははっきりとしすぎている。
私は自分の頬をぎゅっとつねってみた。
「…痛い…」
人より脂肪がついている分、思いっきりつねる必要があったが、確かに痛かった。
(寝過ごしてしまった!)
部屋の明るさに血の気が引く。
いつも薄暗いうちに起きる私が、こんなに明るくなるまで寝ているなんてついぞないことだ。
時間が気になり、時計を探そうとしたところでようやく違和感に気づいた。
(なんだ、ここは?)
私は普段床に布団を敷いて寝ている。ベッドで寝ることなどない。
海外の映画に出てくるような広々とした、大きな窓に高い天井、天蓋付きのベッド…
見回していると、ベッド近くにいる女と目が合った。
メイドのような服を着ていて、この部屋の雰囲気には合っている。年の頃は十代後半か。
「お目覚めでしょうか 。ご気分はいかがですか?」
(まだ夢を見てるのか?)
起きたと思っても、まだ布団の中で起きた夢を見ているだけ、というのはこれまでにも経験がある。やれやれ…
「ここはどこですか?」
一応聞いておく。メイドはすぐに答えてくれた。
「あなた様が現れた、トートニス湖を領内に治めるトートニス辺境伯の城内です」
教えてくれてありがとう。間違いなくまだ夢をみているんだな、これは。疲れてるから、このふかふかの布団でもうひと眠りさせてもらおう…私は二度寝を決め込むが、メイドは事務的に告げる。
「お目覚め早々で申し訳ありませんが、御身を清めさせて頂きます」
ちなみに私は白い簡単なドレスに着替えていた。寝巻のようなものだろうが、シルクのような肌触りでとても気持ちが良い。
メイドっぽい女たちが湯と風呂桶を持ってやってきて、私をすっぽんぽんに剥いて洗い出した。
まあ、夢だし。
富豪のエステってこんな感じなのでは?知らんけど。
これは『ひっ、一人でできますから////』って一応恥じらった方がいいのかもしれないが、今さらだ。
などと思いながら、なされるがままに私は身を任していた。
彼女たちは無駄口叩かず、粛々と仕事を遂行していった。
(きっと腹の中では『この豚の世話を何で私たちが?』って思ってるんだろうな~)
と世話を受けながら思ったが、これは私の被害妄想だけではないと思う。
彼女たちの腹の中は分からないが、体を綺麗にされるというのは気持ちがいいものだった。
細く華奢な手で触られるのも気持ちがよい。
この瞬間を経験したいがために、この夢をみているのではないかと思ってしまったくらいだ。
残念なことに、私はどんなに汚れを落としても、髪の毛を梳られても、磨き上げられても、香油をつけられても、醜い豚であることに変わりはない。醜い豚の清潔感がマシになった程度だろう。
自分の容姿に関してはとことんネガティブになれるようだ。
洗体後、彼女たちが私に着せ始めた衣装もすばらしかった。おそらく寝ている間に、大急ぎで私の体形に合うように補正したところも見受けられた。古典的な、ゆったりした着物のような宗教儀式のための衣装だから本当はある程度はカバーできる作りなのだろう、ここまで太っていなければ。
馬子に衣装はよく言ったもので、立派な服を着せられると何となくそれっぽい気にもなってくるものだ。何度でも繰り返すが、夢なのだ。豚が調子に乗って勘違いしたって誰にも迷惑かけることがない。後ろ指指して笑う奴もいない。いるとしても、私の無意識のオーディエンスだ。笑いたきゃ笑え。はっはっは。
…そうはいっても、しんとした廊下を女たちと共に歩いていると不安になってくる。
夢にしては、細部までリアルすぎる。五感で感じる全てが夢にしてははっきりとしすぎている。
私は自分の頬をぎゅっとつねってみた。
「…痛い…」
人より脂肪がついている分、思いっきりつねる必要があったが、確かに痛かった。
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