夢の中の雪

東赤月

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彩花とユキ

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 自分でも驚くほど、自然と声が出ていた。
「真……?」
「……何が違うっていうの?」
 ユキは目を開き、会話に割って入った僕を見る。それに少し怖くなったけど、警戒したまま口を開く。
「もしユキが、一人になりたいって気持ちだけで生まれていたのなら、そもそも深谷さんの前に現れないと思うんだ。たとえ現れたとしても、間違っても味方だなんて言ったりしない」
「あ……」
「…………」
 ユキは何も言わない。僕は考えをまとめながら話を続ける。
「だから多分、当時の深谷さんが願ったのは、一人になりたいってことだけじゃない。信頼できる誰かに隣に居てほしい。そういう願いも込められていたんじゃないかな?」
「……もっと早くそれに気づいていれば、こんなことにはならなかったのにね」
 ユキがため息と一緒に答えた。
「じゃあ、やっぱり」
「ええ。私は彩花を現実から逃がすためだけじゃなくて、唯一信頼できる相手となるよう生み出されたのよ。彩花の言葉を聞くまで、気づけなかったけど」
「……結局、私を裏切ったのは、貴女の意志だったってことね」
 深谷さんが肩を震わせる。
「そうよ。私にとって外の世界は心地良いものだったから。あとはゆっくり時間をかけて貴女を食らい尽くせば、私は完全に『深谷彩花』に成り代われた。けどこんなことになるなら、多少記憶を失っても、さっさと貴女を殺すべきだったわね」
「もういいわ」
 僕が止める間もなく、深谷さんがユキに馬乗りになる。
「貴女は許さない」
「深谷さん!」
 もし今までのくだりが深谷さんを近づけさせるための挑発だったら。そう思って叫ぶも、ユキは何の動きも見せなかった。
「もう抵抗なんてしないわよ。彩花を騙せなかった時点で、勝ち目は完全に無くなったわ。彩花も分かるでしょう?」
「ええ。こうして触れているだけで、あんたから力の流れみたいなのを感じるわ。私がここに居た間、貴女がどんな行動をしていたのかも、まるで自分の記憶みたいに思い出せる。これが貴女の言う、食うってことなのね」
「その通りよ。全く、オリジナルはズルいわね。私がゆっくりとしか取り込めなかった霊力を、こんな短時間でどんどん取り返しちゃうんだから」
 話している間に、ユキの体が段々とぼやけてくる。色が薄くなり、既に半透明になっていた。
「これで、ここから出られるのね」
「そうね。私はもう貴女の目覚めを阻害できないし、すぐにでも外の世界に行けるはずよ」
「そう。安心した」
 深谷さんが立ち上がる。ユキは全てを受け入れるように目を閉じた。
「もう私は不要でしょ? 好きにしなさい」
「そうさせてもらうわ」
 深谷さんはゆっくりと片足を上げる。
「…………」
 きっと深谷さんはユキを消すだろう。でも、本当にこれでいいのか?
 確かにユキは自分のために僕と深谷さんを殺そうとした。それは許されないことだと思う。けれど……。
 上手く言葉にできないもやもやとした気持ちを抱いたまま、僕は深谷さんを見ていることしかできなかった。
 ドッ!
 深谷さんの足が、勢いよく下ろされた。
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