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外からの声
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『良くやった、真』
まだ事態が飲み込めない僕の耳に、どこか遠くから部長の声が届いた。
「部長! もしかして、今のは部長が?」
『まあそんなところじゃな。しかしお主が彩花を説得してくれておらんかったらできなかったことじゃ』
「説得?」
確かに説得もしたけれど、あの時は一緒に逃げていただけだった。きっかけは別のところにあると思うんだけど。
『なんじゃ違うのか? まあ良い。過程はどうあれ、彩花にその世界から抜け出したいと強く思わせてくれたおかげで、世界に亀裂が生じ、そこから内部に入ることができたのじゃ』
そういうことか。僕は泣いていた深谷さんの姿を思い出す。あの時の深谷さんはきっとそう思ったに違いない。
「そうだ、深谷さん!」
「真、そっちにいるの?」
深谷さんは無事だろうかと周囲を見渡すと、少し離れた場所から深谷さんが走ってくるのが見えた。僕も深谷さんに向かって駆け出す。
今更ながら、普通に体が動かせるようになっていることに気がつく。寒さも感じないし、休んでいたから回復できたのだろうか。疑問を頭の片隅に浮かべつつ、深谷さんと合流する。
「深谷さん、無事で良かった」
「こっちの台詞よ! 突然出てきた変な何かに連れ去られちゃって、私……心配したんだから!」
「ご、ごめん……」
若干目が赤くなっている深谷さんに詰め寄られ、思わず謝ってしまった。
「……まあいいわ。それで、結局今のは何だったの?」
「あれ? もしかして深谷さん、部長の声が聞こえないの?」
「部長? 誰よそれ」
『儂じゃ』
再び部長の声が響く。今度は深谷さんにも聞こえたようで、驚いたように周りを見る。
「誰!? どこにいるの!?」
「大丈夫、味方だよ。ここにはいないけどね。この世界の外から話しかけているんだと思う」
『うむ、その通りじゃ。彩花に話した内容はそのままユキにも伝わってしまうのでな。今までは話しかけておらんかったのじゃ』
「……ユキは、どうなったんですか?」
敵ではないと聞いて落ち着けたのか、深谷さんは一息ついてから尋ねた。
『死んではおらぬな。じゃが先程の攻撃で殆どの力を失ったようじゃ。霊力も弱々しいし、ピクリとも動かん』
「部長、分かるんですか?」
『ある程度はな。さて、そろそろいいじゃろう。他に尋ねたいことがあるなら、そこから出てから聞く。今はユキの元に行くのじゃ』
「行って、どうするのよ?」
深谷さんが視線を落とす。僕は何か声をかけようとするも、言葉が見つからない。
『それはお主が決めるのじゃな、彩花よ』
「…………」
深谷さんは暫く動かなかったけど、決心がついたのか、巨人のいた方向へと歩き出した。何歩か進んだところで、こちらを振り返る。
「何してるのよ、真。早くついてきなさい」
「あ、うん」
僕は慌てて深谷さんを追った。深谷さんは僕が追いつくまで待ってから、並んで歩みを再開した。
まだ事態が飲み込めない僕の耳に、どこか遠くから部長の声が届いた。
「部長! もしかして、今のは部長が?」
『まあそんなところじゃな。しかしお主が彩花を説得してくれておらんかったらできなかったことじゃ』
「説得?」
確かに説得もしたけれど、あの時は一緒に逃げていただけだった。きっかけは別のところにあると思うんだけど。
『なんじゃ違うのか? まあ良い。過程はどうあれ、彩花にその世界から抜け出したいと強く思わせてくれたおかげで、世界に亀裂が生じ、そこから内部に入ることができたのじゃ』
そういうことか。僕は泣いていた深谷さんの姿を思い出す。あの時の深谷さんはきっとそう思ったに違いない。
「そうだ、深谷さん!」
「真、そっちにいるの?」
深谷さんは無事だろうかと周囲を見渡すと、少し離れた場所から深谷さんが走ってくるのが見えた。僕も深谷さんに向かって駆け出す。
今更ながら、普通に体が動かせるようになっていることに気がつく。寒さも感じないし、休んでいたから回復できたのだろうか。疑問を頭の片隅に浮かべつつ、深谷さんと合流する。
「深谷さん、無事で良かった」
「こっちの台詞よ! 突然出てきた変な何かに連れ去られちゃって、私……心配したんだから!」
「ご、ごめん……」
若干目が赤くなっている深谷さんに詰め寄られ、思わず謝ってしまった。
「……まあいいわ。それで、結局今のは何だったの?」
「あれ? もしかして深谷さん、部長の声が聞こえないの?」
「部長? 誰よそれ」
『儂じゃ』
再び部長の声が響く。今度は深谷さんにも聞こえたようで、驚いたように周りを見る。
「誰!? どこにいるの!?」
「大丈夫、味方だよ。ここにはいないけどね。この世界の外から話しかけているんだと思う」
『うむ、その通りじゃ。彩花に話した内容はそのままユキにも伝わってしまうのでな。今までは話しかけておらんかったのじゃ』
「……ユキは、どうなったんですか?」
敵ではないと聞いて落ち着けたのか、深谷さんは一息ついてから尋ねた。
『死んではおらぬな。じゃが先程の攻撃で殆どの力を失ったようじゃ。霊力も弱々しいし、ピクリとも動かん』
「部長、分かるんですか?」
『ある程度はな。さて、そろそろいいじゃろう。他に尋ねたいことがあるなら、そこから出てから聞く。今はユキの元に行くのじゃ』
「行って、どうするのよ?」
深谷さんが視線を落とす。僕は何か声をかけようとするも、言葉が見つからない。
『それはお主が決めるのじゃな、彩花よ』
「…………」
深谷さんは暫く動かなかったけど、決心がついたのか、巨人のいた方向へと歩き出した。何歩か進んだところで、こちらを振り返る。
「何してるのよ、真。早くついてきなさい」
「あ、うん」
僕は慌てて深谷さんを追った。深谷さんは僕が追いつくまで待ってから、並んで歩みを再開した。
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