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崩壊
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「こんなものかな……」
中と外を何度か行き来して、ようやくそれらしいものが完成した。多少時間はかかったけど、予想通り雪像の邪魔はなかったので、やろうとすればもっと大きなものも作れるはずだ。
早速完成した屋根の下に入ってみる。まだ寒くはあったけど、風や雪がないだけでもかなりマシだった。
「深谷さん。できたから一度試してみてくれない?」
「分かったわ」
深谷さんに声をかけると、あっさりと承諾の返事が貰えた。僕は一旦外に出て、深谷さんが出てくるのを待つ。
やがて、深谷さんが出口の前に姿を現した。
「…………」
「…………」
深谷さんは外との境界線を見下ろしながら、何度か深呼吸する。気持ちを整えているんだろう。僕は黙って深谷さんを待った。
「出るわよ」
「うん」
短いやりとりの後、深谷さんはついにかまくらの外に出た。
「……寒いわね」
「そっか……」
それ以上は言わず、深谷さんの言葉を待つ。
「……でも、思ったより寒くないわ」
「よしっ!」
僕は喜びを噛み締めるようにぐっと拳を握った。
「ちょっと、喜ぶのはまだ早いわよ。まだ全然できてないんだから」
「はは、そうだね」
けれど深谷さんが外に出られたことは大きな前進だ。この調子ならきっと――
「っ! 深谷さん!」
「え? きゃあっ!」
深谷さんの手を思いっきり引っ張って、倒れるように外に出る。その直後、大きな音を立ててかまくらが崩れ落ちた。
「そこから出ないでって言ったのに、どうして言いつけを守れないの?」
雪が舞う中、上の方から声が聞こえる。この声は、僕を戦慄させたその声音は、聞き間違えるはずもない。
「ユキ!? 貴女がこんなことをしたの!?」
深谷さんが叫ぶ。その目の前には、巨大な白い影があった。
吹雪でよく見えないけれど、それは雪の巨人とでも呼べるほど大きな雪像だった。かまくらを壊したであろう、腕のような雪の塊がゆっくりと持ち上がる。
「ええ、そうよ」
「どうして!? それに、何で今まで私を放っておいたのよ! すぐに戻るだなんて言っておいて、私がどれくらい待ったと思ってるの!?」
「ごめんなさいね、彩花。でも私が戻れなかったのは、その男のせいなのよ?」
「え?」
「は?」
何を言い出すんだ?
「本当ならすぐにでも彩花の傍に戻りたかったわ。けれどその男が邪魔したせいで帰れなかったの。その隙に彩花に言い寄って、また寒い世界に連れ戻そうとしていたってわけ」
「……本当なの?」
「違う」
僕は強く否定した。けれど深谷さんは混乱しているのか、巨人の頭上にいるであろうユキと僕とを交互に見る。これがユキの狙いか。
中と外を何度か行き来して、ようやくそれらしいものが完成した。多少時間はかかったけど、予想通り雪像の邪魔はなかったので、やろうとすればもっと大きなものも作れるはずだ。
早速完成した屋根の下に入ってみる。まだ寒くはあったけど、風や雪がないだけでもかなりマシだった。
「深谷さん。できたから一度試してみてくれない?」
「分かったわ」
深谷さんに声をかけると、あっさりと承諾の返事が貰えた。僕は一旦外に出て、深谷さんが出てくるのを待つ。
やがて、深谷さんが出口の前に姿を現した。
「…………」
「…………」
深谷さんは外との境界線を見下ろしながら、何度か深呼吸する。気持ちを整えているんだろう。僕は黙って深谷さんを待った。
「出るわよ」
「うん」
短いやりとりの後、深谷さんはついにかまくらの外に出た。
「……寒いわね」
「そっか……」
それ以上は言わず、深谷さんの言葉を待つ。
「……でも、思ったより寒くないわ」
「よしっ!」
僕は喜びを噛み締めるようにぐっと拳を握った。
「ちょっと、喜ぶのはまだ早いわよ。まだ全然できてないんだから」
「はは、そうだね」
けれど深谷さんが外に出られたことは大きな前進だ。この調子ならきっと――
「っ! 深谷さん!」
「え? きゃあっ!」
深谷さんの手を思いっきり引っ張って、倒れるように外に出る。その直後、大きな音を立ててかまくらが崩れ落ちた。
「そこから出ないでって言ったのに、どうして言いつけを守れないの?」
雪が舞う中、上の方から声が聞こえる。この声は、僕を戦慄させたその声音は、聞き間違えるはずもない。
「ユキ!? 貴女がこんなことをしたの!?」
深谷さんが叫ぶ。その目の前には、巨大な白い影があった。
吹雪でよく見えないけれど、それは雪の巨人とでも呼べるほど大きな雪像だった。かまくらを壊したであろう、腕のような雪の塊がゆっくりと持ち上がる。
「ええ、そうよ」
「どうして!? それに、何で今まで私を放っておいたのよ! すぐに戻るだなんて言っておいて、私がどれくらい待ったと思ってるの!?」
「ごめんなさいね、彩花。でも私が戻れなかったのは、その男のせいなのよ?」
「え?」
「は?」
何を言い出すんだ?
「本当ならすぐにでも彩花の傍に戻りたかったわ。けれどその男が邪魔したせいで帰れなかったの。その隙に彩花に言い寄って、また寒い世界に連れ戻そうとしていたってわけ」
「……本当なの?」
「違う」
僕は強く否定した。けれど深谷さんは混乱しているのか、巨人の頭上にいるであろうユキと僕とを交互に見る。これがユキの狙いか。
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