夢の中の雪

東赤月

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雪原

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「寒い……」
 白い息と一緒に言葉を吐き出した。空からはちらちらと雪が降りだし、足先からも体温が奪われていく。
 方向も分からないまま雪原を歩いていくうちに、段々と寒さを感じるようになってきた。その理由は分からないけど、休む場所があるわけでもないので、無心で歩き続ける。
「……あれ?」
 歯が鳴り出した頃、遠くに人のような何かが見えた。まさか、あれが深谷さんか?
 体を抱きながら近付いていくと、人影はただの雪像だということが分かった。なんだと思いつつも、何か手懸かりのようなものがないかと考え、雪像の元へと向かう。
「う……」
 最初はよくできた雪像だと思っていたそれも、近付くにつれて印象が変わってくる。小学生くらいの女の子をかたどったそれは、怖いくらいによくできていた。まるで本物の人間が雪になったみたいだ。
 僕はそれが自分の末路のように見えて、無意識に雪像に触れる。
「冷たっ!」
 途端に、刺すような冷たさが指先を襲った。そして反射的に手を離すまでの一瞬、僕の脳裏に何かがよぎる。
『ずっとともだちだよ、あやか』
 ぼんやりとした光の中で、雪像にそっくりな女の子が、同じ目の高さでこちらに笑いかける。
 しかしそんな光景はすぐに消えてなくなり、銀世界が戻ってきた。
「……今のは?」
 あれが白昼夢というものなのだろうか。いや、ここは夢の中のはずだから、夢中夢というやつか?
「寒っ!」
 どこからか風が吹き、寒さに腕を擦る。おかげで頭が冴えた。呼び名なんてどうでもいい。問題はその本質だ。
 多分あれは、深谷さんの記憶のようなものだろう。きっと幼い頃、この雪像のモデルになった女の子にそう言われたんだ。
 そんな思い出がどうして雪像になっているんだろう。この夢の中では、記憶は雪像として記録されているんだろうか。
「あ」
 目を凝らすと、先の方にも雪像らしき影があることに気付く。
 雪像が深谷さんの記憶なら、それが集まっている場所に深谷さんがいるかもしれない。僕はそう思い至って、体を縮めながら進んでいった。
「…………」
 なぜだろう。進めば進むほど寒さが強まっているように感じる。体が本格的に冷えてきた? いや、ここは夢の中だ。僕が寒いと思い込んでいるだけかもしれない。
 試しに目をつぶって、突き抜けるような青い空が広がる南の島を想像してみる。
「っくしゅ!」
 駄目だった。少しはマシになったような気もしたけれど、寒さは厳しいままだった。
 部長から聞いた話から推測すると、精神体になった僕に対して、深谷さんの生み出した世界が寒いと思わせているってところだろうか。僕にもっと霊力があれば抵抗できるのかもしれないけど、そうじゃない以上、この寒いという感覚を我慢するしかなさそうだ。
 そもそもここは深谷さんの作り出した世界なんだよな? どうしてこんなに寒いんだろう。実は深谷さんは雪国出身で、寒くないと落ち着かないとかだったりするんだろうか。
 そんなことを考えている間に、雪像の元へと辿り着く。
 今度はその数が増えていた。五体の雪像が横に並んでいる。その内の一つは、さっきの女の子が成長したものみたいだ。
 さて、どうしよう。
 今さらながら、勝手に深谷さんの記憶を見ることに罪悪感を覚えた。これはどう考えてもプライバシーの侵害だ。非常事態とは言え、許されることじゃない。
 しかし部長の話だと、僕は深谷さんを見つけた後、説得しなくちゃならないらしい。その時のことを考えれば、深谷さんのことをよく知っておいた方がいいんじゃないだろうか。
 悩んだ末、恐る恐る雪像の一つに触れてみると、また鋭い痛みにも似た冷たさが襲ってきた。
『私たち、親友だよね』
 同時に、五人の笑う光景が頭に浮かび、すぐに消えた。
 どうやら友達が増えたらしい。それはいいことのはずだ。なのに、僕は何だか嫌な予感がしてきた。
 記憶に触れた時、凍傷しそうなほど冷たくなるのはどうしてだ? そう易々と覗き見させないため? それとも……。
 考え込む僕に、冷たい風が吹きつける。さっきよりも冷気が強くなっているように感じた。
 今までの流れだと、雪像はより寒い方にあった。そしてこの風は、ここよりも寒い場所から空気を運んできている。
「……行こう」
 そう自分に言い聞かせると、僕は強く奥歯を噛みしめて、風に逆らうように歩みを再開した。
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